第8話 決勝という名のマウンド
県大会決勝。
スタンドは、満員だった。
無名校が、ここまで来る。
それだけで、十分に異常だ。
マウンドに立つ俺を見て、
相手ベンチがざわつく。
――あれが、ナックルの投手か。
早乙女が、静かに構える。
サインは、出さない。
もう必要ない。
最初から、ナックル。
一球目。
ボールは、ふわりと浮いた。
打者のバットが止まる。
――ストライク。
球場が、どよめいた。
二球目。
同じ腕振り。
今度は、わずかに沈む。
空振り。
三球目。
高めに見せて、落とす。
三振。
初回、三者凡退。
二回、三回。
打者は、当てに来る。
ゴロ。
フライ。
派手さはない。
だが、失点しない。
四回。
二死二塁。
相手の四番。
スタンドが、ざわつく。
早乙女が、マウンドに来た。
「ここは、
“見せる”」
――分かってる。
一球目。
ストレート。
ファウル。
二球目。
ナックル。
見逃し。
三球目。
もう一度、ナックル。
今度は、
真ん中から、消えた。
四番の体が、固まる。
見逃し三振。
スタンドが、爆発した。
六回。
味方が、一点を取る。
1―0。
七回。
八回。
腕が、重くなる。
それでも、
指先は、鈍らない。
九回表。
最後の打者。
早乙女は、構えない。
立ったまま、
俺を見る。
――任せた。
頷く。
最後の一球。
ナックル。
ボールは、
風に溶けるように揺れ、
静かに落ちた。
空振り。
試合終了。
一瞬の静寂のあと、
歓声が、押し寄せた。
マウンドで、息を吐く。
早乙女が、近づく。
「……捕れる」
それだけ言って、
ミットを掲げた。
ベンチを見る。
監督は、
大きくうなずいていた。
俺たちは、
勝った。
ナックルで。
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