第4話

「ようロイ、最近結構な活躍じゃないか」

 そう言って話しかけてきたのはCランク冒険者で重戦士のライナスだ。三十代半ばくらいのベテラン冒険者で新米冒険者の付き添いをよくやってくれている面倒見の良い人だ。それにラモーネ冒険者ギルドではCランクはジョブ持ちでなければ到達困難なせいもあってか、なかなかお目にかかれない上位のランクになる。

「そうですね、ゲーデルの火力のおかげですね」

「ほう」

「そんなことないよ、たまたまさ」

 高火力を出せるゲーデルの銃だが、銃術のスキルがなければ暴発して自分自身が吹き飛んでしまうかなり危険な武器なのだ。そんな危険な武器をうまく使いこなせているゲーデルの功績は大きい、それは確かだ。

「ところでお前さんたちずっと二人でやっていくつもりなのか?」

「パーティーメンバーを増やさないのか、ということですか?」

「ああ、いくらジョブ持ちといっても魔物との戦闘は何が起こるかわからないからな」

「うーん、そうですね。強いて言えば瀕死の重傷を負った時の治療と戦闘から逃げるスキルを持った人なんかがいればありがたいですね」

 そう言うとライナスは困ったような顔をして、

「お前、無茶苦茶なこと言ってるぞ。そいつは難しいな……〈リザレクション〉と〈転移魔法〉は勇者クラスでもなかなかいないぞ」

「まあ、そうですよね。ひとまずは二人で頑張ろうかと思います」

「おう、まあ無理はするなよ」

 そう言ってライナスは右手を上げてこの場を去っていった。


 次の冒険は少し遠出になりそうだ。行く道で達成できそうな依頼を受けつつ、今回の主な目的は氷の魔石を手に入れることとガーディアンゴーレムとの契約だ。氷山に住むブリザードウルフの魔石は氷属性を持っているというので狩りに行って魔石を確保する、その後にガーディアンゴーレムがいるという洞窟に行く。洞窟の奥は少しダンジョンの様相をしているとの情報がある。今回は特にガーディアンゴーレムの契約に至るまでが長期戦になりそうなのでポーション系の消耗品は十分な量を準備したつもりだ。危なそうだと判断したら逃げることも視野に入れることも考えている。

 氷山までの道のりで野営をすることもあったがいくつかの村で寝泊まりすることもあった。大抵は何事もなくお金を払えば親切な人たちが多いのだが、中には夜中に身ぐるみを剥がそうとしてくる人たちもいた。この時に初めてサーチアイを手に入れておいてよかったと思ったものだ。サーチアイは侵入者を感知すると目が光るので、それに驚いて逃げて行ってくれる。そしてその村での次の日の朝は村の雰囲気がよそよそしくなったことは言うまでもないだろう。

 氷山に差し掛かったあたりから気温がさらに下がってくる。防寒着は用意していたが寒さが身に染みてくる。氷山を抜ける道は標高的に山頂より低い場所を選んでいるにもかかわらずこの寒さなら山頂付近はどれほど寒いのだろうか。

 ある程度山を登って少し開けたところにブリザードウルフはいた。全身白色の体毛に頬と頭から首にかけて淡い青色の氷のようなものが体の一部として付いているようだった。十数頭ほどの群れで現れたが、こちらの方が強いことがわかるとすぐに逃げてしまうので倒すときは一気にやらなければいけない。

「ゲーデル、群れで一気に襲い掛かってきたときに、逆に返り討ちにする方法でいこう。弾の装填を素早くやるんだ」

「無茶言わないでくれよ。ああ、連射機能つけたいなあ」

「作ればいいじゃん」

「できたらとっくにやってるよ……」

「さあ、ブリザードウルフが来たぞ!」

 ブリザードウルフは〈アイスニードル〉という尖った氷の矢のようなものを飛ばしてくる魔法を使用してくる。それをゴーレムの片方の腕で防御して、近づいてきたらもう片方の腕で攻撃をする。ゲーデルもロイがゴーレムの腕で防御している隙間から銃で撃って何頭が仕留めていた。数頭逃げてしまったがロイが四頭、ゲーデルが三頭倒すことができ、無事氷の魔石を手に入れることができた。

「思ったより倒せたじゃん」

 ロイが親指を立ててそう言うと、ゲーデルはやれやれというようなしぐさをしていた。


 氷山を通り過ぎる途中でさらに数頭のブリザードウルフを狩ることができた。最初の群れとは別の群れでロイたちの強さがわかっていなかったのだろう。

 ガーディアンゴーレムがいるという洞窟が見えてきた。入り口の両側に円柱の石の柱に装飾のような模様が施されているのが目印だ。今では人の出入りはほとんどなく、コボルトが住み着いているらしい。コボルトは犬の頭部をしていて二足歩行する魔物だ。お互いの仲間と言葉で意思疎通できるほどの知能を有し、ブリザードウルフ同様群れで暮らしている。

「ガウ、ガガウ、ガウガウ、ガガウガウ」

 鳴き声のような音が聞こえた方を見ると、入り口の柱の上の岩間から一匹のコボルトがこちらを見て何か言っている。

「何を言ってるかわからないし、とりあえず倒そうか」

 そう言ってロイがゴーレムの腕を構えようとすると、

「まって、何しに来た人間、って言ってるよ」

「え?コボルトの言葉がわかるのかい?」

 ロイが驚いた表情をしていると、

「うん、こんなこともあろうかと多種族翻訳機を開発しておいたのさ」

 ゲーデルは自分の耳を指さしながらロイに小さな機械を渡してきた。

「これを耳につければいいのかい?」

「うん、そうすれば彼が言っている言葉がわかるようになるよ」

 半信半疑で渡された機械を耳に装着してみる。すると、

「早く立ち去れと言っているっす、人間。ここは俺たちの住処っす」

 しっかりと言葉が聞き取れる。

 ゲーデルがまた何かの機械を取り出し、それに向かって話始める。

「我々はこの洞窟の奥にあるダンジョンに用がある。どうか通してもらいたい」

 ゲーデルは普通にしゃべっているが機械からはガウガウというコボルトの鳴き声のような音がしている。

 コボルトは、その機械から聞こえる声に驚いている。

「ここにミルクとチーズがある。通してもらえればこれを差し上げよう」

 コボルトはまたも自分たちの言葉を話す人間に戸惑っていたが、ミルクとチーズという言葉に強く反応していた。そしてロイたち二人の元に降りてきて、

「少し、そこで待つっす」

 そう言って洞窟の中へ消えていった。

 少し時間がたってから、さっきいたコボルトが年老いたコボルトを連れてやって来ていた。

「こちらは我らの長老ペー様っす」

 コボルトの長老は杖をついていて、質のよさそうなローブを着ていてこちらをじっくりと見ている。それからペーという名前は翻訳の問題なのか元々コボルト族の名前が短いものなのかが少し気になったが、今は話を合わせた方がいいと思った。

「はじめまして私はロイと言います。こっちは仲間のゲーデルと言います」

 とコボルト族の長老に挨拶をした。

「堅苦しい挨拶は無しじゃ。早速じゃが、話にあったミルクとチーズはあなたたち持ってきたものなのかな?」

「はい、そうです」

 ゲーデルが袋にしまっていたミルクとチーズを再び取り出してコボルトたちに見せると、驚きながら「おお」と言ってウンウンと頷いていた。

「あなたたちはこの奥のダンジョンに用があると言いましたね。ですがダンジョンはガーディアンゴーレムによって守られています。入るのは止めた方がいいです」

「私たちは、そのガーディアンゴーレムに会うために来たのです。私は召喚士のジョブを持っているのでガーディアンゴーレムと契約をしに来たのです」

「なんと、そういうことでしたか。しかしこのまま洞窟の奥へ行っても契約することはできないでしょう。何故なら契約にはガーディアンゴーレムのコアがなければできないからです。そしてそのコアは私たちが持っています。どうでしょう、ここはひとつ私たちと取引しませんか?」

「取引?」

「はい、これから定期的にミルクとチーズなどの商品を売ってくれるなら、このガーディアンゴーレムのコアを差し上げましょう」

 ロイたちは少し悩んだが、街の商人と話をつけて翻訳機を持たせればいけるのではないかと思った。通ってきた道もブリザードウルフ討伐の目的がなかったらもっと通りやすい道を通ることもできたのだから。

「わかりました、何とかしてみましょう。ところで商品を買うということですが、コボルト族にはこちらで言う通貨のようなものはあるのでしょうか?」

「いいえ、ありません。ですので最初のほうは物々交換という形になると思います。この洞窟で採れる鉄鉱石や我々の嗅覚を活かした薬草や果実の採取ができるので、人にとって価値のあるものは提供できると思います」

「わかりました、ではそれでお願いします」

 ラモーネに帰ったら冒険者ギルドを通して信頼できる商人を紹介してもらって、ここのコボルト族との交易を開始してもらうようにしよう。

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