終章 夢をみるものたち

―Do the Android Dream of the Girl?

 Closing Chapter : The Dreamers―



「レナぁっ!」


 差し出した機体の手に向かって、アイリスが走り出す。

 同時、光が橋を横切り、一気に崩れだす。

 アイリスが手に乗る前に、足場が崩れ、アイリスが……。


「アイリス!」


 って叫んだ時、既にコックピットを飛び出し、機体の腕を伝って手まで走ってた。

 それで、身を乗り出して手を伸ばしたけど、もうアイリスはもっと下に落ちていっていた。

 アネモネの名を呼ぶよりも先に動き出した機体が、アイリスを追い越していく。


 お願い。間に合って……!

 さっきまで下にいたアイリスが、手の届く距離にいる。


 仰向けになった機体がアイリスに向けて手を掲げ、私とアイリスの距離が少しずつ近づいていく。

 あとは……私が手を掴むだけ。

 少し揺れるだけで機体の手から落ちちゃいそうなくらい。耐えて私!

 届いて……。


「アイリス!」

「レナ!」

 アイリスが、私が手を伸ばす。

 届きそうで届かない。あと少し。……もう少し。

 指先が触れて、離れる。また触れて。

 もう離したくない……、もうあんな悲しい顔、二度とさせたくない!

「届いて……ッ」


 一瞬掴んだ手が、すり抜けるように離れた。

 時間が止まった気がした。


「届けぇええ!」


 自分も落ちてしまいそうなくらい身を乗り出す。

 アイリスの手が近づく。



 ――掴んだ。

 アイリスを引き寄せて、抱きしめる。

「アイリス! 今度は、離さないから」

「私もです、レナ!」


 機体がふわりと浮いて、私とアイリスはコックピットに入った。

 ハッチが閉まって、機体は戦闘態勢になる。


 アイリスが戻ってきて嬉しいけど、あとちょっとだけ喜ぶのは我慢。

 機体から伸びるレーザーの雨が天に昇ると天井に穴が空く。

 雪崩のように崩れる天井の空いた穴から、太陽の光が差し込んでくる。


 あとは脱出するだけ。

 外へ向かおうとする私たちに、数本のレーザーが向かってくる。

 ここに来るまでに倒し損ねた一機のMF。さっき橋を壊した奴、

 戦ってもいいんだけど、脱出優先。それに私はもうヘトヘト。

 だってMFなんて初めて乗ったんだから。


 攻撃を避け、コックピットが激しく揺れる。


 ……MFからの攻撃が止んだ。今がチャンス。


「さあ、逃げるよ。アイリス、アネモネ!」


 私の声に応えたアネモネが機体を急加速させる。

 するとあっという間に軍の施設を脱出して、そのまま雲を突き抜ける勢いで飛んでいく。


 今日だけで、何度目だろう。今まで指先すら届かなかった雲を越えたのは。


 まだ昼前の空は、やっぱり輝いて見えた。

 それに、さっきよりもほんの少しだけ狭くなったコックピットは、笑顔に満ちていた。

 やっぱり、アイリスがいると、不思議と笑っちゃうな。


「あ、そうだ。言い忘れてた……。おかえり」


 アイリスはまた顔をパぁっと明るくして、それでもって泣きそうで。


「ただいま!」


 私の生活には、何の面白いこともなかった。何のために生きてるのかもわからなかった。


 だけど、今は少しだけ違う。

 そんな気がしたとかじゃなくて、絶対に違う。そう言い切れる。

 


「ねえ、アイリス。次はどこに行きたい?」

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アンドロイドは少女の夢を見るか とみなが夕 @UMARIN1227_you

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