欠片路屋_記憶屋の見習いになりました。

@yohira_novelist

第1話 

頬杖をついて窓の外を見る。毎日同じことの繰り返しで、校庭の隅にいる何かに気づかないふりをすることにももう慣れてしまった。しばらくぼーっとしていると4限目の終わりを知らせるチャイムが鳴り、号令が終わると同時に背中に強い衝撃が走る。

高良たから~!飯食おうぜ!!」

 聞きなれた声に振り向くと、小柄でくるくるとした茶髪が目立つ親友の五十嵐いがらし悠成ゆうせいがにかっと笑って立っていた。

「いいよ。購買行こ」

「急げ~!カレーパンが売り切れる!!」

 購買でパンを3つ購入すると悠成はお目当てのカレーパンを手に入れ、ご機嫌で戻ってくる。教室まで戻り自分の席に着くと悠成は目の前の席に座り、持参したお弁当とパンを2つ並べた。

「そういえば、知ってるか?『欠片路屋かけろや』!」

「欠片路屋?」

「大切なものと引き換えにどんな記憶でも必ず取り戻してくれるって店!」

「…その話詳しく教えてくれない?」

「おっ興味ある?でも、俺も女子から聞いただけでどこにあるとか詳しくは知らねぇんだよなぁ」

 珍しく話に食いついてきた高良に、大きな目を瞬かせた悠成は申し訳なさそうにお弁当を頬張る。頬がはち切れそうなぐらいのご飯を飲み込んだ悠成は、首を傾げた。

「それにしても、高良がこういう話に興味あるって意外だな~」

「そう?」

「お前、女子たちになんていわれてるか知ってるか?成績優秀、運動神経抜群、イケメン、高身長、優しい、実家が金持ち、白鶴高校一の嫁ぎ先!だぜ?」

「持ち上げすぎだよ。俺は、そこまで大した人間じゃないから」

 苦笑する高良に、謙遜すんなって~と悠成がばしばしと背中を叩く。



 放課後、悠成の話を思い出しながらぼんやりと歩いていると、学校からの帰り道からそれて、気づけば見覚えのない細い道に立っていた。アスファルトは古く、街灯は一つもなくて、代わりにどこからか淡い灯りが滲んでいる。その灯りに近づくたび、耳の奥でかすかな声がした。

『こっちだよ』

 誰かの声だった。でも男でも女でもなく、子供みたいで、遠くて、懐かしい。振り返っても誰もいないのに、声だけが確かにそこにあった。次の瞬間、目の前に古い店が現れていた。木造で、看板には読めないけれど不思議と意味だけが伝わる文字。引き戸の隙間から、温かい灯りがこぼれている。

「欠片路屋…」

 そう呟いた瞬間、戸が音もなく開いた。ふわふわとした淡い茶髪に新雪のように真っ白な肌、黒無地に銀の蝶柄の着物の帯は銀の細帯を重ね、袴は黒に近い紫、黒のレース手袋と差し色のように付けられたボルドーのリボン1つとっても嫌みたらしいものは一つもないハイカラな服装の美少女だった。彼女は高良を見るなり、色素の薄い大きな目を細めた。

「誰かと思えば、西条家の坊ちゃんじゃないか。なにか探し物?」

 どうして分かったのか聞く前に、彼女はゆらりと高良の前に移動してくる。

「お家に言われてわざわざ私を探しに来たの?」

「ち、違います!僕は…記憶を取り戻したくてっ」

「お家で取り戻せば?“記憶屋の西条家”」

 高良の家は全国でも有数の記憶を扱う家系。彼女のいうことはもっともで高良は言葉に詰まった。高良の言葉に嘘はない、だがどうすればいいのかと困り果てたその瞬間、さっきの声に似た声がはっきり響いた。

あるじ

「…わかったよ。やればいいんでしょ、やれば」

 きょろきょろと周り見渡す高良を、彼女は何か面白いものを見たように目を細める。

「あ~…それで、西条家の坊ちゃんさぁ」

「高良です。西条高良」

「あ、うん…私は欠片路屋の店主、歩香ほのか

『主が人の子に名前を教えるだなんて、珍しいこともあるものだ』

「彼、聞こえてるよ。多分だけど」

『嘘だぁ!僕は!』

 どこからか聞こえてくる謎の声に高良が困惑していると、耳元で叫ばれた。慌てて右を向くが誰もおらず、更に困惑する高良を見て、彼女 歩香は小さく息を吸って、笑った。

「ね?」

『確かに…でも、こんな人間見たことないよ』

「あ、あの…いま、なにが?」

「ごめんね?この子いたずらっ子でさ~…君、うちに来る運命だったみたい」


「どうぞ、座って?」

言われるまま、店の中央に置かれた古い椅子に腰を下ろす。店の中は外から見たよりもずっと広くて、天井からは淡い光が入ったガラス玉がたくさん吊るされており、壁一面に古いカードを入れるような引き出し棚がぎっしりと詰められていた。甘いような、埃っぽいような、でも落ち着く匂いがする。

歩香は高良の前にしゃがみ込んで、視線を合わせた。近くで見ると、瞳の奥に糸みたいな光が揺れている。「……聞こえたんだね。さっきの声」

喉が乾いてうまく言葉が出なかったが、高良は小さく頷いた。その瞬間、店の奥で、何かが笑った。

『やっほ~』

「っ……」

今度ははっきり声が聞こえた。耳ではなく、頭の内側に直接触れてくるみたいな声。思わず身をすくめると、歩香は少し困ったように笑った。

「ごめんね、驚かせた。でも…やっぱり」

彼女は立ち上がって、奥の暗がりに声をかける。

「この子、聞こえてるでしょ」

闇がゆらりと揺れた。何もないはずの空間から、影みたいな輪郭が浮かび上がる。子供くらいの背丈で、顔は曖昧で、でも確かにこちらを見ていた。

『まだ、全部じゃないけどね。』

「十分だよ」

『…その子、拾う~?西条家の人間だよ?』

また影が見えなくなり、声だけが聞こえるようになる。それでも近くにいることだけはわかった高良は眉を八の字に下げた。

「え、俺…?」

「うん。放っておいたら、どっかで壊れる。それに―—」

 その時、高良のスマホがけたたましく鳴った。慌ててスマホを取り出し通話に出る。

「はい」

『もしもし、高良さん?もうすぐお夕飯の時間だけど、いまどこにいるの?』

「あ…えっと」

 通話の主は高良の母親だった。歩香の方をちらりとみると、おそらく空間にいる影と戯れていた。

『高良さん?』

「…落とし物を届けていたので、遅くなりました。すぐに帰ります」

『そう…気をつけて』

 通話を切ると、歩香は黒の無地に銀色で五芒星が描かれたカードを投げ渡す。

「今日は帰りな」

「でも…!」

「今週の土曜日、またおいで」

 渋々店を出るといつもの通学路で、振りかえると欠片路屋は消えていた。

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