第11話:再会、そして塗り替えられる記憶

俺が口を開きかけるより早く、

ブレイブが「やっぱ、アレイン! お前――」と叫んだ瞬間、

二つの巨大な“黒い影”が俺に向かって突進してきた。


「うわっ、ちょっと待っ――」


抵抗する間もなかった。

全力のタックルを食らった俺は、そのまま背後へ倒れ込み、

石畳に後頭部を強打した。


視界が火花を散らす中、二人の女の声が降ってくる。


「ずっと探してたんですよ! どこに隠れてたんですか!」


怒声を上げているのは、エルフのエリナだ。


「もう死んじゃったのかと思ったよ、バカ! どこ行ってたんだよ、バカぁ!」


スカウトのミナが、泣きながら俺の胸ぐらを掴んで揺さぶる。


その横で、気まずそうにこちらを見ている女魔導師リリアの視線を最後に、


俺の意識はぷっつりと暗転した。


……次に目が覚めた時、視界に入ってきたのは、

心配そうに俺の顔を覗き込む「二人と一匹」だった。


「ひゃっ!?」


飛び起きると、そこにはエリナとミナ、

そしてなぜか当たり前のようにソファーに陣取っているブルーナがいた。


周囲を見渡せば、そこは重厚な家具が並ぶ、 ブレイブの執務室のようだった。


「どうやら無事のようだね。相変わらず、彼女たちの愛の鞭には弱いみたいだ」


デスクの方から、苦笑い混じりの声が響く。

そこには三年前と変わらぬ――

いや、より一層の風格を纏った金髪の勇者が座っていた。


「……ああ、どうやら死んではいないみたいだな。  

 相変わらず、お前の金髪は眩しすぎて目に毒だぜ」


俺の皮肉に、ブレイブは


「その皮肉も懐かしいよ」と、


本当に嬉しそうに笑った。


エリナとミナは、先ほどの勢いを反省したのか、

シュンとして「ごめんなさい」と頭を下げている。


「アレイン、お主大丈夫か?  変なところで寝るから心配したのじゃ」


ブルーナが、普通に人語で喋りかけてくる。


俺は「おい、人前で喋るな!」と焦ったが、


ブレイブはそれを平然と受け流した。


「いい仲間ができたみたいじゃないか。  

 彼女(ブルーナ)と、外にいるヴェルナさんにも挨拶されたよ。  

 ……ヴェルナさんはさすがにこの部屋には入れないからね。  

 窓から顔を見せてあげなよ」


ブレイブが指さした窓の外を見ると、

不安そうに中を覗き込んでいたヴェルナと目が合った。


俺が手を振ると、彼女は「ふん」と鼻を鳴らしてそっぽを向き、


周囲に集まっているクランの連中に向かって、 優雅に歩き出した。


自分の美しさを鼓舞するような彼女の振る舞いに、

下では歓声が上がっている。


「フフ、君に似て素直じゃないようだね」


「うるせーよ」


俺はため息をつき、 ずっと気になっていたことを聞いた。


「……なぁ、お前ら。  なんでブルーナたちが喋ることに驚かないんだ?」


「え? 昔のアレインの仲間なら、  

 むやみに言いふらさないだろうって。 彼女たちがそう言ってたよ」


ブレイブの返答に、 俺は肩の力が抜けるのを感じた。


緊張していたのが嘘のように、 昔の雰囲気で話せている。


だが、ブレイブはふと表情を真剣なものに変え、

俺の目を真っ直ぐに見つめた。


「……それで、アレイン。  

 改めて聞くけど、なんであの時、  

 何も言わずに勝手に出て行ったんだ?」


「……は?  なんでって、俺なんか追放だって、  

 そういう話だっただろ」


俺の言葉に、部屋中の空気が凍りついた。


ブレイブ、エリナ、ミナが、 揃って「?」という顔をしている。


「……追放?  僕たちがいつ、そんなことを言った?」


「……だって、お前。  あの時、戦力外通告したじゃないか」


ブレイブは額を押さえ、深いため息をついた。


「アレイン、いいかい。  

 あの時、君は伸び悩んでいるようだったから、  

 一度環境を変えて、 ベテラン冒険者のパーティーに入って  

 修行してきてもらう……って、そう話したはずだよね?」


「そうだよ!  あんた、いつも些細なミスを繰り返しては  

 『俺はダメだ』『役立たずだ』って  深刻な顔をしてたから、  

 一度空気を換えて  自信をつけてもらおうって話したじゃないか!」


ミナが叫ぶ。


……やはり、何かが違う。


俺の記憶にある“冷酷な追放劇”と、 彼らの語る“善意の修行提案”が、

あまりにも食い違っている。


俺は、今だに部屋の隅で 気まずそうにしているリリアを指さした。


「じゃあ、リリアはどうなんだ。  

 あいつが俺の代わりに  新メンバーになるって話だっただろ?」


「彼女は、君が修行に行く間の 臨時メンバーだって言っただろ。  

 君がいなくなっちゃったから、  

 そのまま固定メンバーになってもらってるけど」


ブレイブの言葉に、 俺の脳内が激しく混乱する。


すると、ミナがリリアを睨みつけた。


「やっぱり、あの時のリリアが悪いんだよ!」


「そうですよ、リリアさん。 あんなひどいこと言うから、  

 アレインは出て行っちゃったんです!」


エリナとミナの抗議に、

リリアが「だって!」と顔を真っ赤にして叫んだ。


「まさかあんな冗談を、本気で真に受けて  

 消えちゃうなんて思うわけないじゃない!」


――冗談。


その言葉で、 俺の記憶のパズルが 音を立てて組み変わった。


『あーあ。 あたしが入るせいで追い出されちゃうんだ?  

 まあ、アンタみたいな役立たずじゃ、  仕方ないわよねえ?』


あの時聞いた、あの言葉。


それは幻聴ではなかった。


だが、今の俺ならわかる。


リリアのその言葉は、 照れ隠しや、単なる軽口、 あるいは彼女なりの


「早く戻ってきなさいよ」という 歪んだ激励だったのかもしれない。


しかし、呪われていた当時の俺には、


それが世界の全てを否定する “確定した悪意”として 聞こえていたんだ。


「……とにかく、悪かったわよ。  

 ……あんたが生きててくれて、本当によかった……」


リリアが涙目になって顔を背ける。


「リリアも、こう見えて相当 君の安否を気にしていたんだよ。  

 みんなに隠れて、夜な夜な広域探索魔法を飛ばしていたからね」


「ちょっと、あんた見てたわけ!? 変態!スケベ! むっつり金髪野郎!」


喚き散らすリリアを見て、 俺は呆れ半分、安堵半分でため息をついた。


口の悪さは、生まれつきだったらしい。


「ちょっとした行き違いで 三年も離れ離れだったんだ。  

 和解も込めて、今日は久しぶりに飲みに行かないかい?僕の奢りだ」


「あたしが原因なのもあるし、今回のお金はあたしが出すわよ!」


「行こう行こう、お祝いだよ!」


盛り上がる三人に、 ブレイブが窓の外を見る。


「ブルーナさんとヴェルナさんも、ご一緒してくれるよね?」


「勿論行くのじゃ!旨い肉を用意せよ!」


『ええ、よくってよ。エスコートを期待しているわ、アレイン』


外から念話で返してくるヴェルナに苦笑しながら、


俺は一言。


「……いいぜ。付き合ってやるよ」


俺は立ち上がり、 かつての仲間たちと共に、


夕闇に包まれ始めた オルヴィアの街へと繰り出した。


賑やかな足音。 懐かしい笑い声。


周囲から見れば、 それは感動的な再会と、

過去の精算に見えただろう。


だが、俺の胸に去来するのは、

そんな温かな感情だけではなかった。


誤解だった? 行き違いだった?


そんな言葉で、 俺が味わった三日三晩の絶望や、


世界を呪ったあの日々を 帳消しにできると思うなよ。


ブレイブ、そしてリリア。 覚悟しておけ。


「……お前らの財布は、 今日、すべて吹き飛ぶ」


碧燐の伝説のドラゴン、ブルーナ。


そして漆黒の女王、ヴェルナ。


常識外れの胃袋を持つ二体の “供食胃(グールフレンド)”を全開放し、


お前らの資産を すっからかんにしてやる。


かつての「役立たず」が贈る、

最高の復讐劇(ディナー)だ。


――俺の復讐は、 ここから始まるんだ。

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追放されたS級鑑定士、覚醒スキルで最強の帝国を築き上げる〜今さら戻れと言われても、隣には最強の仲間たちがいるのでもう遅い〜 @tadanohito123

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