追放されたS級鑑定士、覚醒スキルで最強の帝国を築き上げる〜今さら戻れと言われても、隣には最強の仲間たちがいるのでもう遅い〜
@tadanohito123
第1話:黄金のシナリオと、漆黒の主人公
――おいアレイン、大丈夫か? しっかりしろ!
肩を激しく揺さぶられ、俺の意識は泥の中から無理やり引きずり出された。
重い瞼を開けると、そこは白い天井の病室ではなかった。
鬱蒼と茂る森の中。葉の隙間からこぼれる木漏れ日が、やけに眩しい。
ぼやける視界の中、俺を覗き込んでいたのは三人の男女だった。
心配そうに顔を寄せる金髪の剣士。
その隣に立つ、神秘的なローブを纏ったエルフの少女。
そして、呆れたように苦笑いを浮かべる軽装の少女。
(……誰だ、こいつら。俺は確か、学校帰りにトラックに突っ込まれて……)
思考が追いつかない。
だが次の瞬間、脳みそを直接かき混ぜられるような衝撃と共に、見知らぬ「記憶」が雪崩のように流れ込んできた。
この世界の常識。
魔法の存在。
そして、俺の名前が「アレイン」であること。
――カチリ、と頭の中で何かが嵌まる音がした。
(嘘だろ……。ここ、セント・ガルド王国?
俺の名前がアレインで、こいつがパーティーリーダーのブレイブ……?)
全身に鳥肌が立った。
知っている。俺はこの世界を、嫌というほど知っている。
これは、俺が前世で擦り切れるほど読み漁った追放系ラノベの金字塔――
『追放されたS級鑑定士は、辺境で覚醒スキルを使って最強帝国を築き上げる』。
その世界そのものじゃないか!
(俺、死んで、あのラノベの主人公に転生したのか!?)
確信が走る。
ならば、この二人の少女は、のちに俺のハーレム要員になるはずのエリナとミナか?
歓喜で震えが止まらなかった。
退屈な高校生活、あっけない事故死。
そんなクソみたいな人生の最後のご褒美が、これだ。
俺は知っている。
この後、俺は無実の罪でパーティーを追放され、隠されたチート能力に目覚め、可愛い女の子たちに囲まれて成り上がるんだ!
「よかった、気がついたみたいだな。
さあ、休憩を終えたら冒険都市オルヴィアに戻るぞ」
リーダーのブレイブが、爽やかな笑顔で手を差し伸べてくる。
俺は震える手で、それを掴んだ。
ああ、神様ありがとう。
最高の人生(シナリオ)の始まりだ!
†
だが、その興奮は数日と持たなかった。
最初の違和感は、「仲間たちが良い奴すぎる」ことだった。
原作の序盤では、もっと陰湿な連中として描かれていたはずなのに、彼らは記憶喪失気味の俺を甲斐甲斐しく世話してくれた。
正直に言って、楽しかった。
見たこともない魔法、異世界のモンスター。
俺が魔法を見るたびに大はしゃぎすると、エルフのエリナは、
「もう、そんなに珍しいかしら?」
と呆れた顔をしながらも、嬉しそうにどや顔で派手な精霊魔法を見せてくれた。
俺が興奮して拍手すると、スカウトのミナが、
「アレイン、子供みたい!
ほら、ブレイブがまたお説教モードになっちゃうよ?」
とケラケラ笑い、
ブレイブは、
「危なっかしい真似をするな!」
と、俺たちをまとめて叱る。
そんな温かい毎日を送るうちに、俺は「こいつらはきっと同姓同名なだけだ」と、追放の運命をすっかり忘れかけていた。
――そう思った矢先だった。
世界が、少しずつ歪み始めたのは。
俺がポーションの管理を間違える。
戦闘で連携を乱す。
最初のうちは、皆優しかった。
「気にするな」と励ましてくれた。
だが、そんな小さなミスが続いたある日から、彼らの態度が豹変した。
「テメェ、またかよアレイン!
いい加減にしろ!」
「……悪い、ブレイブ」
謝りながら、俺の腹の底にはドロリとした、どす黒い感情が渦巻いていた。
確かに俺のミスだ。
……でも、なんで俺だけが、ここまで責められなきゃならない?
お前らだって、完璧じゃないだろ?
(――ふざけんな。調子に乗るなよ、モブのくせに)
湧き上がる強烈な「逆恨み」。
それを、俺の理性が必死に抑え込む。
(違う、落ち着け俺。
俺が悪いんだ。ブレイブたちのせいにするな……!)
毎日、頭の中で自分と自分が怒鳴り合いを続ける。
精神が、少しずつ摩耗していく。
そして――冒険都市オルヴィアのギルド酒場。
ついに、「その時」が来た。
冷たい視線に囲まれ、俺はテーブルの前に立たされていた。
リーダーのブレイブが、これまで見たこともない冷酷な顔で言い放つ。
「アレイン。
お前はもう、ウチのパーティーにはいらない。追放だ」
来た。
物語の始まりだ。
ブレイブの隣には、小説通り、新加入の女魔導師リリアが座っていた。
彼女は俺を値踏みするように見下し、嫌らしい笑みを浮かべる。
「あーあ。
あたしが入るせいで追い出されちゃうんだ?
まあ、アンタみたいな役立たずじゃ、仕方ないわよねえ?」
さらに追い打ちをかけるように、仲間たちが口を開いた。
「当然の報いね。
あなたの魔法理論の欠如には、もう耐えられなかったわ」
冷徹な氷のような声で、エリナが俺を突き放す。
「ごめんね、アレイン。
足手まといを抱えておけるほど、ウチらは暇じゃないんだよね」
ミナが、いつもの明るさを消した無機質な笑顔で告げる。
完璧なテンプレ展開。
逆恨みに負けそうになっていた俺の心は、奇妙な高揚感に包まれた。
そうだ、これでいい!
ここから、俺の復讐劇が幕を開けるんだ!
俺は意気揚々と顔を上げ、憎しみの言葉を吐き捨てようとして――
ブレイブの顔を見て、硬直した。
……あれ?
ブレイブの、その特徴的な傷跡。
自信過剰な態度。
そして何よりも、その身体から滲み出る圧倒的な「主人公オーラ」。
顔も声も、俺の知っている挿絵とは違う。
だが、数多のラノベを読み漁った俺の直感が、警鐘を鳴らした。
こいつ、知ってる。
こいつは、別の人気ラノベ――
『地獄から帰還した勇者、幼馴染を貴族に寝取られたので国を滅ぼすことにした』
その主人公、その人じゃないか!?
思考が真っ白になった。
なんで?
なんで「復讐される側」の悪役であるはずのブレイブが、
別のラノベの「最強の復讐者」なんだ!?
「おい、聞いてんのか役立たず!
さっさと出て行け!」
罵倒が、遠く聞こえる。
俺はもう、何も考えられなかった。
言い返す気力すらなく、幽霊のようにふらふらとギルドの出口へ向かう。
その際、一瞬だけ、彼らの顔を見た。
ブレイブ。
エリナ。
ミナ。
リリア。
吐き出される冷酷な罵詈雑言とは裏腹に、
その表情は――なぜか、今にも泣き出しそうなほど、俺を心配そうに見守っているように見えた。
それが錯覚なのかを確かめる余裕すらなく、
俺は逃げるように、ギルドを去った。
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