敗戦の責任を取らされて敵国に嫁いだ錬金術師ですが、私の稼ぎは賠償額よりも多いです
緋色の雨
敗戦の責任を取らされて敵国に嫁いだ錬金術師ですが、私の稼ぎは賠償額よりも多いです
「敗戦の責でそなたを断罪する!」
誠心誠意仕えていたエーデル国の王から告げられた言葉。
正直、意味が分からなかった。
「陛下、私がなにをしたというのですか」
「分からぬか? おまえの作った魔導具が至らぬから我が国は敗北に至ったのだ。ゆえに、そなたには損失を埋めてもらう」
「……私の作った魔導具、ですか?」
私は錬金術師で、様々な魔導具も開発している。だが、それらはすべて、生活を豊かにするための平和的な魔導具だった。戦争に負けた責任と言われても意味が分からない。
そう困惑した私は助けを求め、陛下の横に控えている婚約者、グレイ王子へと視線を向ける。
「陛下、アリスティアが作った魔導具はどれも日常に使うものばかりです。それを軍事に転用したのは軍の錬金術師なので、彼女にはなんのことか分からないでしょう」
最初、グレイ王子が私を庇ってくれたのだと思った。だから、彼の口にした言葉の意味をすぐには理解できなかった。でも一呼吸おいてそれを理解する。
「ま、待ってください! 私が作った魔導具を軍事利用していたのですか!?」
「そう言っているだろう」
「ま、まさか、王子はそれをご存じだったのですか?」
「当然だ。軍部の錬金術師に提案したのは俺だからな」
グレイ王子の酷い裏切りに唇を噛む。
私は悔しさを滲ませながら、王子をきっと睨み付けた。
「な、なぜそのようなことを! 王子は民を豊かにしたいという、私の願いを応援してくださったのではなかったのですか!?」
「ああ、もちろん応援していたとも。だから、戦争を終わらせるためにおまえの魔導具を軍用に転化したのだ。そうして戦争を終わらせれば、民も幸せになるだろう?」
「……そんな」
そんなのは、私が望んだ魔導具の使い方じゃない。私はグレイ王子にずっと騙されていたのだ。
それを知って泣きそうになる。
「まあ……しかし、結果的にいえば間違いだったな。まさか、おまえの作った魔導具が、これほど役に立たないとは思わなかったぞ」
「それは――っ」
私が生み出した魔導具はすべて、不慮の事故が起こらないようにセーフティを掛けている。それは軍部の錬金術師にだって解除できない。だから、軍用に転化して失敗するのは当然だ。
「陛下、いま王子がおっしゃったように、私の魔導具は軍事目的で作った訳ではありません。ですから、敗戦の責任を問われても困ります」
「ふむ。そなたは軍事のために魔導具を作っていないと申すのだな?」
「その通りです」
「……そうか。つまり、我が国の民でありながら、非協力的な態度を取っていた訳だ」
「なっ!? 違います、私は民の生活を豊かにするために――」
「それが利敵行為だと言っているのだ! もうよい、そなたの責は明らかだ。――グレイ。一応なりともそなたの婚約者だ。裁きはそなたが下せ」
「かしこまりました」
グレイ王子が陛下の言葉に応じ、私のまえに立った。私はこの期に及んでも、グレイ王子が助けてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていた。
だけど、彼の私を見る目は冷ややかだった。
「アリスティア、そなたの責任は明らかだ。敗戦の責任を問い、俺との婚約を即座に破棄。そのうえで、そなたには賠償金の代わりに、レグナート帝国へと嫁いでもらう」
「賠償金代わり、ですか?」
「そなたのせいで生まれた損失だ。そなたが補填するのは当然だろう?」
彼らは敗戦の責とともに、賠償金まで私に押しつけようとしている。
彼らの理不尽に怒りすら覚えたけれど、私はギリギリでそれを呑み込んで、「レグナート帝国がそんな条件を呑むと思っているのですか?」と問い返した。
「それに関しては、外交官が上手くやってくれた。おそらく人質が欲しかったのだろう。本来なら莫大な賠償金を要求していたのだが、そなた一人で手を打ってくれるというのでな」
「そ、それはまさか、私が公爵家の娘だから、ですか?」
「そういうことだ」
信じられないと絶句した。
たしかに、私は公爵の娘、つまり王家の血を引いていることになる。ただし、私は父がメイドに産ませた婚外子、正式な公爵家の人間とは認められていない。
「わ、私が婚外子だとバレたら大変ですよ!?」
「そうだな。だから必死に隠せ」
なにを言っているのだろうと困惑する。
私を裏切り、敵国に売り払おうとしている王子にもはや義理なんて残っていない。レグナート帝国に言ったら、すべてをぶちまけて復讐してやると考えた。
次の瞬間、グレイ王子は嫌らしい笑みを浮かべた。
「ああそうだ、一応忠告しておいてやる。自分から素性を明かそうとはするなよ? もしもおまえの素性がバレたら、おまえが我が国の錬金術師だと白状してしまうかもしれないからな」
「それは……っ」
「理解したようだな。おまえの魔導具はたしかに期待外れだった。だが、レグナート帝国の兵の多くを葬ったことに変わりはない。その作り手と知られたら……どうなるか分かるな?」
よくてなぶり殺しだ。
その光景がありありと想像できてしまい、私は膝からくずおれた。そして言葉を失った私は軟禁され、そのまま敵国の使者へと引き渡されてしまった。
正直なところ、レグナート帝国に連れて行かれるまでのことはよく覚えていない。
自分が軍事転用された魔導具の制作者だと知られたらなぶり殺しにされる。そのことにひたすら覚え、縮こまりながら言われるがままに大人しくしていた。
そしてレグナート帝国へと到着。王城へと連れて行かれた私は、そこで出迎えた侍女達に総出でお風呂へと入れられ、隅々まで磨き上げられた。
私は髪を整えられ、素敵なドレスを着せられ、王子からお茶会に招かれる。なぜこんなに好待遇なんだろうと困惑しながらも、招待に応じて彼の待つ中庭へと足を運んだ。
フワリと香る花の匂い。エーデル王国の中庭よりもずっと手入れが行き届いている。戦争以外にも目を向ける余裕がある証拠。
両国の地力には、結果以上の差があったのかもしれない。
そんなことを考えていると、中庭の片隅に大理石で作られた小さな屋根が見えてくる。お茶会などに使うガゼボ、そのテーブル席に穏やかな面持ちの青年が座っていた。
彼は私に気付くと、席を立って出迎えてくれる。
「よく来てくれた。私はユリウス、レグナート帝国の王太子だ」
「お、お初にお目に掛かります、ユリウス王太子殿下。私はアリスティアと申します」
テンパりつつも自己紹介をすると、それを聞いたユリウス王太子殿下は首を傾げた。
「ふむ? 名前しか名乗らぬつもりか?」
「し、失礼いたしました! 私はローディア公爵の娘です」
婚外子だとバレるわけにはいかないと必死に取り繕う。
けれど――
「そなたが婚外子であることは知っている。私が聞きたかったのは、錬金術師であることをどうして言わないのか、ということだったのだが……もしや、秘密にするつもりだったか?」
「――なっ!?」
なんで? どうしてバレてるの!? どうしよう、このままだとなぶり殺しにされる。そう思うと震えが止まらなくなり、その場にくずおれそうになった。
だけど――
「おっと、大丈夫か?」
私が膝を突く寸前、ユリウス王太子殿下に抱き留められた。血の気が引いて冷たくなった身体に、彼の温もりが伝わってくる。
「も、申し訳ありません」
「謝る必要はない。こちらこそ驚かせて悪かった。その様子を見るに、正体がばれたら処刑される
とでも言われていたのだろう?」
「……違うの、ですか?」
「――違う。だから、そのように怯える必要はない」
優しい声。安心させようとする想いが伝わってくる。わずかながらにも冷静さを取り戻した私は腕の中から抜け出し、地力で中庭の芝を踏みしめた。
それを見たユリウス王太子殿下は「美しいな」と呟く。
その意味を理解した瞬間、顔がかーっと熱くなる。
「きゅ、急になにをおっしゃるのですか?」
「急ではないぞ。唇を青くするほどの恐怖に震えながら、それでも自ら立ち上がった、そなたの精神が美しいと思ったのだ」
「は、恥ずかしいことをおっしゃらないでください!」
私はそう言って身をよじる。ユリウス王太子殿下は苦笑して、「すまなかった。ひとまず、お茶会の席に座って仕切り直そう」と提案してくる。
私はそれに応じ、ガゼボにあるテーブル席へと座った。 そうして向かいに座るユリウス王太子殿下を盗み見ていると、すぐに侍女が紅茶とお菓子を並べていった。
それを見届けると、彼はホストとして先にお茶菓子に口を付けた。
私もそれに続き、紅茶を一口飲んで、それから大きく息を吐いた。さきほどまでの恐怖はダイブと和らいでいた。私は心を落ち着かせながら、ユリウス王太子殿下へと向き直る。
「……私を、許すとおっしゃるのですか?」
「許すもなにも、そなたは錬金術師だろう?」
「でも、私の生み出した魔導具が軍事利用されたと聞いています」
「だとしても、だ。そなたの国では、敵の剣で討たれたとき、鍛冶屋に責任を問うのか?」
「それは……問いません」
「そうだろう。魔導具も同じことだ」
「使い手の責任だと、おっしゃるのですか?」
私が尋ねると、ユリウス王太子殿下は首を横に振った。
「武器を使ったのは兵士であり、その兵士を動かしたのは指揮官であり王だ。戦争の責任を問われるべきは、兵士でも、錬金術師のそなたでもない」
真剣な眼差し。
その言葉が本心なのは、彼の表情を見れば分かった。
「そう言っていただけると、少しだけ気持ちが楽になりました。でも……」
私がその続きを口にする寸前、ユリウス王太子殿下が声を被せる。
「でもはなしだ。そなたが民の暮らしを豊かにするために魔導具を作っていたことは知っている。その魔導具に、セーフティを掛けていたこともな」
「すべて、ご存じなのですか……?」
「すべてかは分からぬが、そなたを招く上で色々と調べさせてもらった」
「……調べて?」
どういうことだろうと首を傾げる。そうして怪訝な顔をしていると、ユリウス王太子殿下が「どうかしたのか?」と口にした。
「いえ、その……レグナート帝国は私をご所望だったのですか? エーデルの国王は、賠償金の支払いを渋って、私を差し出せば安く済ませられるというふうなおっしゃりようでしたが……」
「はっ、エーデルの国王がそのようなことを申したのか?」
彼はそう言って笑った。
「……ユリウス王太子殿下?」
「おっと、失礼した。我が国の目的は最初から錬金術師であるそなただ」
「わ、私ですか!?」
「そうだ。しかし、それを素直に伝えてはエーデル王国にふっかけられるのが目に見えている。ゆえに、外交官には上手く交渉するようにと伝えていたのだが……そうか、安く済ませた、か」
彼は笑い、「愚かな王だ」と吐き捨てた。
ユリウス王太子殿下が私を高く買ってくれているのは嬉しい。でも、素直に喜ぶ前にはたしかめなくちゃいけないことがある。私はそれを問うために深呼吸をした。
「ユリウス王太子殿下は、私の魔導具をどうなさるつもりですか?」
「どう? あぁ、軍事利用はしないから安心するといい」
ユリウス王太子殿下はグレイ王子とどこか違うように思う。でも、私はグレイ王子の言葉を信じて裏切られた。だから、信じるにはとても勇気が必要だ。
だけど――
「私は賠償金の代わりに差し出された貢ぎ物の身です。どのような扱いを受けても仕方がないと思っていました。ですから、魔導具を平和のために役立てていただけるなら喜んで」
他に選択肢はないのだからと自分を言い聞かせる。それに対して、ユリウス王太子殿下には微妙な顔をされてしまった。彼は少し迷う素振りを見せた後、もう一度私に真剣な眼差しを向ける。
「アリスティア。そなたが応じてくれて嬉しく思う。ただ、一つだけ言わせて欲しい」
「は、はい。なんでしょう?」
「たしかに、そなたは賠償の一環として招いた。だが、そなたを物扱いするつもりはない。魔導具については作ってもらいたいと思っているが、それ以外についてはある程度の自由を約束しよう」
「……いいの、ですか?」
彼の言葉が本当であって欲しい、でも違ったらどうしよう。そんな期待と不安にもみくちゃにされ、私はユリウス王太子殿下に縋るような視線を向けた。
「そなたはやはり美しいな」
「ご、誤魔化さないでください」
「誤魔化しているわけではない。原型となる魔導具を見れば、そなたが軍事利用を望んでいないのは明らかだ。ゆえに、そのような無粋な真似はしないと、我が名に誓って約束しよう」
誓いの言葉自体は信じることが出来なかった。
グレイ王子も同じように口先の言葉で私を騙したから。
でも、私の魔導具に込めた想いを理解してくれた。そんなユリウス王太子殿下なら信じてもいいかもしれないと、ほんの少しだけ思った。
だから、私は勇気を出して口を開く。
「……信じます。貴方を。だから、どうか私の魔導具を平和のために役立ててください」
「よいのか? もう少し、疑ってもいいのだぞ?」
「お察しの通り、私は疑心暗鬼に駆られています。でも、だからこそ、勇気を出して貴方を信じようと思ったのです。そうしなければ得られない平和もあると思うから」
そう言って精一杯微笑む。
彼は少し驚いた顔をして、「そなたは本当に美しいな」と微笑んだ。彼の青い瞳が私を真正面から捕らえて放さない。私は無性に恥ずかしくなった。
思えばグレイ王子とは婚約者らしいことをなにもしてこなかった。自分に異性に対する耐性がまったくないことを自覚して、恥ずかしさに身をよじる。
「はは……まいったな、これは」
ユリウス王太子殿下が苦笑する。
「……なにが、でしょう?」
「いや、そなたの婚姻相手についても、そなたの希望を聞いてから決める予定だったのだが……それが出来なくなりそうだと思ってな」
「え? 結婚相手が決まっていなかったのですか?」
ぱちくりと瞬くと、ユリウス王太子殿下はふっと笑った。
「そなたを我が帝国に招くための口実だったからな。ゆえに、結婚相手についても、そなたの希望を聞いて決めようと考えていたのだ」
「なるほど。では、希望を聞けなくなりそうだ、というのは?」
「簡単なことだ。他の男に渡したくないと、私が思ったのだ」
「…………え?」
唐突な言葉に理解が追いつかない。
だけど心臓はトクンと高鳴った。
「そなたを招いたのは、錬金術師としての腕前を買ったからだ。だが、実際に会ったそなたは愛らしく、強くあろうとする姿は美しいと思ったのだ」
「ユリウス王太子殿下、私をからかっているのですか?」
「いいや、本気で口説いている」
「わ、私達、会ったばかりですよ?」
「そうだな。だから、いま返事をする必要はない。私のこと知り、それから返事をしてくれ」
そんなふうに言う、ユリウス王太子殿下は真剣そのもので――だからこそ、求婚も本気なのだと理解させられた。私は視線を彷徨わせながら「わ、分かりました」と頷く。
「婚約してくれるのか?」
「ち、違います。その……ユリウス王太子殿下のことを知るように頑張ります」
「……そうか。いまはその言葉で十分だ」
ユリウス王太子殿下はそう言ってはにかんだ。
その笑顔が眩しくて、私は耳まで赤くなるのを自覚した。
「そ、それで、私はひとまず魔導具を作れば良いのですか?」
「ああ、そうだ。むろん、働いてもらう以上は給料も支払おう」
「……給料までいただけるのですか?」
「当然だろう。参考までに、エーデル王国でいくらもらっていたか聞いても?」
「いえ、その……もらっていません」
躊躇いがちに答えると、ユリウス王太子殿下は怪訝な顔をした。
「それは、どういう意味だ? そなたは王族に雇われていたのだろう?」
「グレイ王子に協力を求められ、それに応じる形でした。その……婚約者の役目だと言われ」
「……そんな名目で搾取して、最後は賠償金代わりに我が帝国に差し出したと言うのか?」
「はい。あ、その、婚約者と言っても形だけで、いまは破棄もされていますし、婚約者らしいことはなにもしていません。だから、その……」
――って、私はなにを言い訳しているんだろう。
なんだかユリウス王太子殿下のことを意識しているみたいで恥ずかしいと、そんな風に考えていると、「その王子はろくでもないな」とユリウス王太子殿下は顔をしかめた。
「そう、ですね。たぶん、私は最初から騙されていたのだと思います……」
私はそう言ってうつむいた。
「そうか……その、辛いことを聞いてすまない」
「いえ、私も変なことを言ってすみません」
「いやそなたのせいではない。それより、我が国で雇う以上は、それ相応の報酬を支払うと約束しよう。そうだな、月にこれくらいでどうだ?」
ユリウス王太子殿下が指を使って収入を指し示す。
その金額は、高給取りの中でもかなり上位に位置する金額だった。
「十分……いえ、むしろもらいすぎだと思います」
「いや、これでも最初は少ないくらいだ。働きに応じて昇給すると約束しよう」
「そのように評価してくださるなんて、身に余る光栄です」
そう言って身震いすると、ユリウス王太子殿下はどこか呆れた顔をした。
「そなた、自国での扱いが酷すぎないか? というか、どうやって生活をしていたのだ?」
「それは、様々な魔導具で特許を取っていますから」
「なるほど、特許料か。……って、待て、それはエーデル王国に搾取されていなかったのか?」
「私が錬金術師組合で取った特許ですから。王族とは言え、口出しは出来ないかと」
「……なるほど。錬金術師の組合は大陸で共通だったな」
彼はそこまで呟いて、不意にハッとした顔をする。
「そなたは様々な魔導具を開発したはずだ。その特許料は相当な額になるのではないか?」
「そうですね。少なくとも、給料を支払わなくても問題がない程度はありました」
「……参考までに、その金額を聞いても?」
ユリウス王太子殿下が恐る恐る問い掛けてくる。
「別にかまいませんよ。たしか……これくらいですね」
私が指で金額を示すと、ユリウス王太子殿下は顔を引きつらせた。
「それは、その……いままでの総額か?」
「いえ、年二回の支払いなので、半年分くらいですね」
私が答えると、ユリウス王太子殿下は遠い目になった。
「……アリスティア。そなたは恐らく賠償額より稼いでいる」
「それは……さすがに大げさではありませんか?」
そう笑うけれど、ユリウス王太子殿下の顔は真剣なままだ。私はまさかという考えに至り、「参考までに、賠償金がいくらだったか聞いても?」とおっかなびっくり尋ねた。
「これくらいだ」
ユリウス王太子殿下が指で示した賠償の額は――たしかに私の稼ぎよりも少なかった。
というかこれを知ったら、グレイ王子や陛下はむちゃくちゃ後悔するのでは? それ以前、このことを知っていたら、絶対に私を手放さなかっただろう。
それを理解して、なんとも言えない顔になる。
いや、結果から言えば、話さなくて大正解だったのだけれど。
「……それなりに稼いではいると思っていたが、まさかそこまで稼いでいるとはな。この事実を知ったのがいまでよかったと心から思ったぞ」
「なぜですか?」
小首を傾げると、ユリウス王太子殿下はふっと笑った。
「これを知った後で求婚していたら、財産目当てだと誤解されるだろう?」
求婚された事実を思い出してまた顔が熱くなる。
私は手の平で青いで、火照った頬を冷まそうとする。
「恥ずかしいから止めてください」
「だが重要なことだぞ? 俺がそなたを望んだのは、その心に惚れたからだ」
「もう、恥ずかしいと言っているではないですか! それと、ユリウス王太子殿下が財産目当てで求婚するなど思ってませんから……だから、その、安心してください」
私が控えめにそう言うと、ユリウス王太子殿下がわずかな間を置いてふっと笑った。
「そうか、そなたがそこまで私を評価してくれているとはな」
「そ、そういう訳では」
「誤魔化すのは、褒められることになれていないからか?」
「~~~っ」
恥ずかしくて身悶える。
だけど、決して嫌な感じではない。グレイ王子と婚約者だったときは決して感じなかった感情。その不思議な感覚に振り回されながら、私はティーカップに口を付けた。
そうして紅茶を飲みながら、ユリウス王太子殿下の姿を盗み見る。
どこかイジワルで、だけどとても優しい。
湯気の向こうで零れた笑みが、私の幸せな未来を予感させてくれた。
敗戦の責任を取らされて敵国に嫁いだ錬金術師ですが、私の稼ぎは賠償額よりも多いです 緋色の雨 @tsukigase_rain
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