第2話 召集

最初に呼ばれたのは、

東京・文京区の古い研究ビルにいた男だった。


神谷圭吾は、岩石サンプルを前に黙り込んでいた。

薄く切り出した地層の断面。そのわずかな歪みが、

彼の目には「悲鳴」のように映っている。


「……この層、動きすぎだ」


地震でも火山でもない。

だが、確実に何かが地球を外側から引っ張っている。


そこへ、研究室の電話が鳴った。


「神谷圭吾博士ですね。JAXAです。

 少し……地球規模のご相談があります」



次に連絡を受けたのは、

神奈川の湾岸地帯で、

巨大プラントの解体現場に立つ男。


柴崎剛志。


起爆装置を手に、彼は静かに首をかしげていた。


「この構造……

 普通なら、三回は失敗してるはずだ」


それでも、爆破は寸分違わず成功した。


その直後、ヘルメットの内側でイヤーピースが震える。


「柴崎さん。

 あなたの“壊さない爆破”について、お話を伺いたい」


声の主は、名乗らなかった。



三人目は、

東京競馬場の裏手にある小さなオフィス。


鷹宮玲奈は、

モニターに流れる数式を睨みながら、

コーヒーを一口飲んだ。


未来は、枝分かれする。

だが、勝ち筋は必ず一つだけ残る。


「……この確率、異常」


彼女の組んだ予測モデルが、

すべて“同じ終点”に収束し始めていた。


そこに届いた一通の暗号メール。


件名は、短く。


「1ミリの話」



四人目は、

山奥の鍛冶場にいた。


村雨玄蔵は、

真っ赤に焼けた鋼を、無言で打ち続けていた。


金属は、嘘をつかない。

叩けば、必ず応える。


その日、出来上がった鋼材は、

これまでにない“密度”を持っていた。


「……空気が違う」


弟子が呟いた瞬間、

鍛冶場の外に、黒塗りの車が止まった。



五人目は、

都内某所の取調室。


三枝美波は、

沈黙する男と向かい合っていた。


「あなたは嘘をついてない」


それは、責める言葉ではない。

逃げ道を断つ言葉だった。


数分後、男はすべてを吐いた。


その直後、

部屋の扉が開く。


「三枝さん。

 今度は“世界”を相手に、交渉してもらいます」



最後に――

岐阜・関ヶ原。


関口直哉は、

町外れの倉庫で、古い図面を広げていた。


戦後すぐに封鎖された地下坑道。

地図から消された空洞。


そこに、赤い印が打たれている。


「……やっぱり、ここか」


倉庫のシャッターが開き、

スーツ姿の男女が立っていた。


「関口直哉さん。

 あなたの土地が、世界を救う可能性があります」


直哉は、図面を畳み、静かに息を吐いた。


「……理由は?」


男は答えず、

一枚の写真を差し出す。


夜空に浮かぶ、

不気味なほど静かな光点。


「14か月後、

 これが、関ヶ原に落ちます」


沈黙。


6人は、

まだ互いの顔も知らない。


だが、

同じ“選択”の前に立たされている。


――歴史は、再び分岐点に差しかかっていた。

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