踊らない夜は好きじゃないのです

「残念。社長がいらっしゃいました。」

「残念です。私の可憐なダンスをお見せ出来なくて。」

「あぁ、それはとても残念だ。」


余裕のある笑みですね。その笑みで一体幾人の女性を虜にさせて来たのでしょうか。先輩は罪深いお人でございますね。全く。


「社長、この度はおめでとうございます。ディオールのお召し物が、まるで社長の為に作られたみたいですね。」

「相変わらずの口達者だこと。鏑木かぶらぎ

「いえ。滅相もないですよ。」


ファッション雑誌【true】といえば、知らない人もいない。業界最王手なんですよ。私が働いているところ、凄いところなんです。

キラキラとしていて、まるで夢のような場所です。


私はファッション雑誌に元々興味があった訳ではなく、どちらかと言うと、小説や本が好きな至極地味な女の子でした。


私が崇拝するのは紛れもなく偉大な小説家達であり。例えば夏目漱石。

彼の心理表現は私好みであり、彼の言葉は、幾度となく私の胸を動かしました。

胸を動かすと言えば、忘れてはいけないのはシェイクスピアです。彼の作品を一つ読み終える頃には、全ての語彙を失い、ただ「凄い」だけが残るのです。


熱く語ってしまいました。

ですが、この通り、文学好きの私がここにいるのは、そうですね。たまたま、というものですね。

たまたま、そういうご縁が重なった結果です。


ですが、案外雑誌編集は、性に合ってるみたいです。


雑誌のコラムを書くのも、小説のように詩を綴るのも同じです。

まぁ、レイアウト等は、先輩に結構委ねてしまってるところはありますが。

行く行くは、自分で出来るように勉強はしています。


「社長、シャンパンいかがでしょうか。」

「ええ。頂くわ。」


先輩は凄いです。

語彙を失ってこう言ってるのではなく、本当にそうだから言ってます。

人の心に入り込むのが上手です。

社長を笑わせることが出来るのは、唯一先輩くらいじゃないでしょうか。


「あなたは?」

「彼女は山崎やまさき。この間ヴィンテージもののコラムを担当しました。」


先輩、私の名前正しく言えるの、先輩くらいですよ。

私は。そうですよ、やまさきです。


「シェイクスピアの子。」


――社長がそう呼ぶのは、

私がシェイクスピアの時代をテーマにしたコラムを書いたから。


「素敵な詩だったわ」

「ありがとうございます!社長直々にお褒め頂き光栄です!」

「楽しんでいってちょうだい」

「はい!」


先輩のおかげです。

この会社に入って初めてですよ。社長とこんな風に会話が出来たのは。


「嬉しそうですね。」

「嬉しいですからね。」


そういえば先輩。ずっと気になってました。


「いつ着替えたんですか。髪型も、ばっちりじゃないですか。」

「君の為におめかしをね。」

「その発言は、流石に人たらしすぎますよ。」

「そうかな。」

「そうですよ。」


先輩、わざとなんでしょうか。

先輩が私を褒める度、先輩との距離を感じます。相変わらず先輩は、悪魔ですね。

そろそろ、顔がいいからって、許しちゃいけない気がします。


「先輩はどうしていつもそんなこと言うんですか。」

「どうしてと言われても。そう思ったから言ってるだけなんだけどね。」

「先輩は、」

「何?」


寂しい人ですね。


「なんでもないですよ。先輩、私踊りましょうか。」

「まだその話続いてたんだ。」

「先輩私の踊り見たら、元気出るかなって。」

「なんか期待出来そうな言い方だけど。今日は遠慮しておくよ。」


「ごめんな」

なんて、思ってもないですよね、先輩。

私、分かっていました。

先輩はずっと、心が冷たいですね。


だってほら、先輩。

私の目、見ないじゃないですか。

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夢の中ででも、素敵なダンスを踊りませんか? もも @momo05170702

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