第2話

ブリッジのメインスクリーンに広がる宇宙は、息をのむほど美しかった。無数の星々がきらめき、遠くに渦巻く銀河の腕が淡い光を放っている。俺——レオンは、艦長席に座りながら、まだこの状況が夢のように感じていた。


昨日、いや、この世界に来てからまだ数時間しか経っていないのに、すべてが変わった。トラックの衝撃から目覚め、転生し、最強のギルドマスターとしてこの旗艦〈エターナル・ノヴァ〉を手に入れた。副官のシルヴィア、料理長のガストン、メカニックのリリィ——三人のAI仲間が、俺の周りを固めてくれている。


「マスター、システムの完全同期が完了しました」

シルヴィアが冷静な声で告げた。彼女の銀髪がブリッジの照明を浴びて輝いている。


俺は頷き、ステータスウィンドウを再び呼び出した。昨日見た内容が、より詳細に表示されている。


【スキルツリー:無限ポイント分配可能】

【固有能力:神級戦術眼(敵の動きを完全予測)】

【艦船支配:〈エターナル・ノヴァ〉の全システムを意図一つで操作】

【ギルドマスター特権:メンバー即時召喚、ギルド倉庫無限、名声値爆上げ補正】


……本当にチートだ。生前の俺がプレイしていたどんなVRMMOよりも、ぶっ壊れた性能。


「これが全部使えるのか?」

俺は試しに、スキルポイントを適当に振ってみた。戦術眼を強化し、艦船操作スキルに大量投入。すると、頭の中に膨大な情報が流れ込んでくる。〈エターナル・ノヴァ〉のエンジン出力、シールド強度、主砲のチャージ状況、さらには艦内の空気循環まで、すべてが手のひらに乗っているような感覚だ。


リリィが興奮した声で言った。

「すごいですよ、マスター! 通常なら数年かかる同期が、数秒で完了してるんです! これって転生者特典ですか!?」


「さあな。でも、使えるなら使わない手はない」


その時、シルヴィアの表情がわずかに硬くなった。

「マスター、近隣宙域に小型海賊団を確認。艦船数は五隻、武装は旧式プラズマ砲とミサイルポッド。脅威レベルは低です」


初戦闘か。俺は自然と口角が上がった。

「よし、迎撃態勢に入れ。全員、配置につけ」


「了解!」


ブリッジが一瞬で戦闘モードに切り替わる。赤い照明が点灯し、クルー席にホログラムパネルが展開。俺は艦長席から立ち上がり、メインスクリーンに向かって右手を掲げた。


「〈エターナル・ノヴァ〉、主砲チャージ開始。副砲は対艦ミサイル迎撃に割り当てろ」


俺の言葉と同時に、艦体が微かに振動した。神級戦術眼のおかげで、敵艦の動きがスローモーションのように見える。彼らの編隊は乱れていて、旗艦らしき大型艦が中央に位置している。明らかに旧式で、シールド出力も低い。


「距離三万キロ。敵艦、こちらを捕捉した模様です」

シルヴィアが報告する。


敵側から通信が飛び込んできた。荒々しい男の声。

「ここはブラックウルフ海賊団の縄張りだ! 大人しく金と貨物を置いて去れ!」


俺は笑って通信を返した。

「悪いな。ここから先は、俺たちの狩場だ」


通信を切り、俺は命令を下す。

「主砲、単装発射。目標は敵旗艦のエンジン部」


艦首に備えられた巨大なプラズマキャノンが青白い光を収束させる。次の瞬間、眩い光の奔流が宇宙を切り裂いた。


ドゴォォォン!


敵旗艦のシールドが一瞬で蒸発し、エンジン部が爆散。残骸が四方に飛び散る。他の四隻が慌てて散開しようとするが、遅い。


「副砲全開。量子魚雷、同時発射」


無数の光跡が敵艦を追尾し、次々と命中。爆炎が宇宙に花開く。戦闘開始から、わずか三分。敵五隻すべてが沈黙した。


「戦闘終了。敵艦全滅を確認」

シルヴィアが淡々と告げるが、瞳にはわずかな興奮が宿っていた。


俺は椅子に深く腰を下ろし、息を吐いた。

「……強すぎるな、この艦」


リリィが飛び跳ねながら言った。

「マスターの指揮が完璧だったんですよ! 神級戦術眼、恐るべし!」


その時、システム通知が鳴った。


【初戦闘勝利ボーナス獲得】

【名声値+5000】【戦利品:海賊の貨物コンテナ(食材含む)】【新スキル解放:略奪強化】


ガストンが厨房から通信で入ってきた。

「おーい、マスター! 戦利品にいい食材が入ってるぜ! ネビュラ・ビーフの最高級部位に、クリスタル・シュリンプ、それに珍しいスパイスセットだ! 今夜は豪華ディナーにしようぜ!」


俺は思わず笑った。

「よし、帰投したらすぐ宴会だ。みんな、お疲れ」


艦はワープドライブを起動し、ノヴァ・ベースへと帰還した。


食堂に集まった俺たちは、ガストンが腕を振るった料理を前に目を輝かせていた。


まず出てきたのは、ネビュラ・ビーフのステーキ。表面を高温で焼き固め、中は鮮やかなピンク色。ナイフを入れると、肉汁がじゅわりと溢れ出す。香ばしい焦げ目の香りと共に、口に運ぶ。


……うまい。


柔らかな肉質が舌の上で溶け、濃厚な旨味が広がる。ガストン特製のソースは、赤ワインと宇宙ハーブを煮詰めたもので、甘みと酸味が絶妙に絡み合う。


次はクリスタル・シュリンプのソテー。透明感のある身が、ガーリックとバターの香りに包まれている。一口かじると、パリッとした食感の後に、甘みが爆発。海の幸とは思えないほどの繊細な味わいだ。


デザートには、ギャラクシー・フルーツのタルト。色とりどりの果実が宝石のように輝き、酸味と甘みが層を成して口の中で踊る。


シルヴィアでさえ、普段のクールな表情を崩して頬を緩めていた。

「ガストン、素晴らしいです」


リリィはもう三皿目をおかわり中だ。


俺はワイングラスを傾けながら、仲間たちを見回した。この世界に来て、まだ一日も経っていないのに、こんな充実した時間が過ごせている。


でも、ふと思った。


この完璧すぎる能力、この転生の経緯。どこかで、大きな陰謀が動いているような気がする。


シルヴィアが、俺の表情に気づいたのか、小声で言った。

「マスター、何か気になることでも?」


俺は首を振った。

「いや、今はいい。みんなと飯を食うのが、先決だ」


宴は夜遅くまで続き、俺たちは笑い声を響かせた。


だが、ステータスウィンドウの隅に、小さな異常通知が点滅していたことに、俺はまだ気づいていなかった。


【警告:外部干渉検知。現実世界からの信号を確認】


次なる波乱が、静かに近づいている。


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