小さくたって大召喚士!
上羽みこと
プロローグ
時は西暦2225年──。
科学は日々進歩しているが、それでもまだ人類が宇宙には移住できていない時代。
人類の注目は今、届かない
人間の脳波を読み取り、意識をデータとして転送する
そして、当初は医療目的でのみ認可されていたそれらの技術が時代と共に一般へと普及し、
予てより懸念点とされていた
きっかけは
そして政府協力の下で作成された安全基準の公表を合図として、各ゲームメーカーや大手家電メーカーが一気にハード開発に参入した為だ。
当初は大きさはマッサージチェア程もあり、とても財布に優しいとは言えないお値段だったらしい
もちろんお値段の方も、学生でも少し頑張って働けば手が届く程度には優しくなっている。
日々新たな
そんな群雄割拠の時代、
その名は『
LABOはいわゆるアイテム課金制の基本無料ゲームという奴で、対応の各種デバイスさえあれば誰でもすぐに遊べるのが売りだ。
めでたく今年サービス10周年を迎えたそんなLABOは、完全スキル制MMOといった物に分類されるゲームであり、当時としてはかなり革新的で独自性のあるゲームシステムによって、多くのコアなユーザーを獲得した。
何を隠そうこの俺、
これまで数々のネトゲをプレイしてきた俺だが、結局最後に帰ってくるのはこのゲーム。
確かにグラフィック面だけで見れば、10年も前のゲームなので正直言って古臭さがあるのは否めない。
だがそれでも逆にそれが良いというか、変わらない実家のような安心感がそこにある──と少なくとも俺は思っている。
その俺が愛してやまない実家ゲーことLABOに数ヶ月前、なんと10周年記念となる待望の大型アップデートの予告がやって来たのだ。
「──母さんただいまっ!」
12月の冷たい外気に
何故なら今日は待ちに待ったLABOの10周年大型アップデート当日。
現在の時刻は16時前。
サーバーメンテナンス終了は17時の予定だが、大型アップデートという事でいつもよりパッチのダウンロードに時間がかかる事を見越しての早めの帰宅だ。
幸いにも俺は高校でどの部活にも所属していない、いわゆる帰宅部である。
そして学校帰りに一緒にどこかへ寄るような友達も、
だからこそこうして、愛してやまないゲームの為に余裕を持って準備ができるのだ。
「ちょっとショウくんー?何かショウくん当てに荷物が届いてるんだけどー。」
「んもー!何?どこからー?」
ちょうど階段を登り終えたタイミングでリビングから顔を出した母が、相変わらずののんびりとした口調で俺を呼び止めた。
登り切る前に言って欲しかった所だが、仕方がないので俺は登ってきたばかりの階段をばたばたと駆け下りる。
とはいえ最近、特に通販で何かを注文した覚えは無い。
例えあったとしても、こんな大事な日に水を差すような事は避けるだろう。
「えーっと……メタトロフィア?って所からみたいだけどー?」
「ッ!?」
小包に記載された送り主の名前を母が読み上げた瞬間、その名前に心当たりのある俺の心臓が小さく高鳴る。
メタトロフィアと言うのは何を隠そう、LABOのサービス運営をしている運営会社の名前だからだ。
「マジ!?ちょっ見せて!」
「もー、何を買ったか知らないけれど……あんまり無駄遣いしちゃダメよー?」
「わ、わかってるよ!」
母から小包を引ったくるように受け取った俺は、自分の目でもう一度送り主を確認する。
確かに俺の知るあのメタトロフィアだ。だけど中身は一体何だ?それ程重くないように感じる。
俺自身も忘れているような、何かのキャンペーン品が当選したとか?
釘を刺すようにこちらを見つめる母との会話を逃げるように終わらせて、俺は再び階段を駆け上がった。
「何だろう……?」
無駄に鮮やかに発光するマイPCを立ち上げながら、机の上に小包を置く。
予想では多分、だいぶ前にやっていたフィギュアか何かのキャンペーン当選品が今頃届いたのだと思うが。
「っと、いけね!こっちも先に準備しとかなきゃな。」
そのまま着席しようとした俺はだったが、寸前で大事な事を思い出し慌てて部屋の隅に鎮座する巨大な椅子の電源を投入する。
一見マッサージチェアみたいな見た目だが、これこそがLABOを始めとする
と言っても俺の所有しているこれはその昔、父が母に内緒で購入したらしいかなり古いモデルなのだが──。
「ん?運営からの新着通知……あー、新型デバイス。」
PCが起動するとすぐに、デスクトップ画面の右下にポップアップ通知が表示される。
通知はLABOの専用コミュニティアプリ『LINKERS.NET』から。そして送り主は
どうやら今度発売する最新型の
正直言えば俺もそろそろこのマッサージチェアみたいな旧型から、場所も取らない新型へ買い替えたい所ではあるが如何せん資金が足りない。
まぁぶっちゃけた話、その原因の8割はアイテム課金ガチャへの注ぎ込みすぎなんだけど。
「あーあ、誰か俺に買ってくれないかな……。」
誰にでもなくぼやきながら俺はゲーミングチェアへと深く腰をかけ、ちらりと
この旧型も元はと言えば父が昔使っていた物で、父が単身赴任で家を離れる事になった際に俺が譲り受けたのだ。
父は若い頃から結構なヘビーゲーマーだったらしく、10年前当時6歳だった俺を
……ワンチャン、父さんにお願いすれば買ってもらえるのでは?また一緒にプレイしようとか何とか言って──。
なんて都合の良い考えが一瞬頭を過るが、例え優しい父がそれを許しても母とその他が認めないだろう事は間違いない。
「ああ……早速最新型デバイスがトレンドに──んッ!?」
ゲームのパッチDLを待っている間、退屈しのぎに何気なくLINKERS.NETを覗き込んだ所、先程の最新型デバイスについての話題がトレンドへと上がっていた。
そんな中流れてきた、とあるユーザーの投稿内容に俺は目を見開き驚く。
「『運営から突然のクリスマスプレゼントキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!中身は最新型デバイス!!うおおお一生ついていくぜ運営ちゃん!!」……って、これ──。』
テンション高めなユーザーのコメントと共に添付された画像に写っていたのは、白い横長のケースらしき物体。
そしてケース表面には
どうやら運営のメタトロフィアから今日、突然小包として届いたというのだが──。
「──まさか……な?」
俺は目の前にある未開封の小包へと手を伸ばすと、大急ぎで箱を開封し始める。
箱の中から現れた幾重もの
「……マジ?」
唐突に訪れた信じられない状況に、俺は何だか怖くなって一度それを箱の中に戻す。
別に悪い事をしているわけでもないのだが、誰かに見られてやしないだろうかと心配になってしまって、ちらりと部屋の扉の方を確認した。
大丈夫、母には見られていない。もちろんその他の奴らにも。
もう一度ちゃんと確認しようと箱へと手を伸ばした所で、突然アプリからの通知音が鳴り響いた。
「うおっ!?びっくりした!……ん?また運営からの広告──じゃない、俺宛?」
ジャンプスケアのようなタイミングでやって来た通知に少々ビビりながらも、俺はその通知を確認する。
先程のは運営から全ユーザーへ向けての宣伝広告だったが、どうやらこれは俺個人のアカウントへと送られたメッセージのようだ。
「おめでとうございます……『今回、LABO10周年&大型アップデートを記念したサプライズプレゼントキャンペーンを行わせて頂きました。』……!?」
長々と丁寧な感謝の言葉が綴られていたが、ざっくりとまとめるととつまり──。
『お前の所に
という事が書かれていたのだ。いや本当に。
「マジ──
疑念が確信へと変わり、喜びと興奮のあまり立ち上がろうとして机で脚を強打しながらも、俺は再び箱の中身を確認する。
そしてしっかりと巻かれた
メガネケースにも似たその白いケースの表面には、しっかりと2つのロゴが刻印されている。
やや緊張した手つきで上下にかぱっと開くと、中に入っていたのは白を基調としたスマートなデザインのグラス型デバイスだ。
「これが……最新型デバイスっ!うぉっ起動はえー!?」
早速その最新型デバイスを装着した俺は、その重量の軽さに驚きながらも電源ボタンらしき物を押しデバイスを起動する。
するとほぼ瞬きしている程の時間であっという間にスタートアップ画面が表示されているのだから、さらに驚きだ。
こんな物をプレゼントしてくれるなんて、まさしく神運営。
ありがたく10年目のLABOをこの最新型デバイスで堪能させてもらおう。
思わぬサプライズに、小躍りしてしまいそうな程に俺が浮かれていた、その時。
「ちょっとショウくーん?ママ、おつかい行ってきて欲しいんだけどー。」
階段の下から呼びかける母の声が、俺を一気に現実へと引き戻す。
今日は
普段の旧型デバイスならこの時間から準備を始めないととても17時には間に合わないが、今回はこの最新機があるのだ。
多少おつかいに行った所で、十分に時間には間に合うだろう。
「もー、しょうがないなぁ……って邪魔だな。……こうか?」
視界に表示された様々な設定ウィンドウを一旦手で追い払うように退けると、俺はデバイスをつけたまま部屋を出て階段へと向かう。
それにしても本当に軽い。ほとんど着けていないような感覚だ。
メインの
このまま外に着けていってしまおうか?
だからと言って流石に外で
「ごめんねぇ、忙しいのにー。いつものお醤油とー、えーと後は……。」
「はいは──いっ!?」
夕飯の支度中だったのか、お玉を片手に申し訳なさそうに笑う母の顔を見ながら、階段へと一歩足を踏み出した、次の瞬間。
さっき消したはずの設定ウィンドウが突然目の前へと飛び出し、不意に俺の視界を遮った。
そしてその結果、足を踏み外した俺は派手に階段から転げ落ちてしまう。
「きゃああっ!?ショウくん!?ショウくん──!」
「(ああ……やべ……せっかくのデバイス、壊れて無いよな……?)」
頭を強く打ったせいか、段々と意識が薄れていく。
その途中徐々に遠くなる母の声を聞きながら、俺は呑気にデバイスの心配などしていて──やがて完全に意識を手放した。
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