俺たちは巡り逢えない。
トウジョウトシキ
俺たちは巡り逢えない。
俺には前世の記憶がある。
漫画とかでよくある話なので詳細は省くが、前世、俺には恋人がいた。
俺たちは深く愛し合っていたが、身分の違いから結婚も交際もできなかった。
週に一度、王子の彼が俺の神殿に来て、数分だけ小声で話をする。
俺たちはそれだけの関係だった。
でも、幸せだった。俺はこれ以上ない愛情を感じていたし、王子もそう言ってくれた。
国が滅ぼされ、敵兵の刃で倒れたとき、手を握り合って俺達は誓った。来世では、きっと一緒になろうと。
そして俺は転生した。
なのに王子が見つからねぇ!!
「この世界にはいる、いるはずなんだよ。でも魂がチカチカして見えねえ!! 何だこの人口密度!! 地球人多すぎだろ!」
「え、何ぐちゃぐちゃ言ってんの? キモー、独り言デカすぎない?」
「お前に聞かせるためじゃねえよ、消えろ二重人格野郎」
目の前にいる性格の悪い男に言い返す。
俺の今の名前は稲宮紘。受験に向けて居残り猛勉強中だ。
「イヤミなヒロ君、勉強しすぎて頭おかしくなっちゃった?」
「イナミヤ、四文字も覚えられねえのかよ。嫌味言ってんのはてめぇだろヤナギ、今すぐこの宇宙から消滅しろ」
俺に暴言を吐いてくるのはオウジマヤナギ。
オウジマは王島で、ヤナギは柳だと知っているが、漢字だと前世の恋人の王子を連想させて嫌なのでヤナギと俺は認識している。
どれだけヤナギが嫌な奴か、語りだしたら止まらなくなるのでエピソードを一つだけ。
中学三年のバレンタインの日だった。
当時、俺の成績は学年二位で、たぶんヤナギが一位だった。
お互いの順位は公表されていなくても、なんとなくそういうのはわかるものだ。
話したことはなくてもライバル関係って感じだった。
放課後、俺が勉強しているとヤナギが下級生の女子からチョコレートをもらっていた。
「うれしいよ、ありがとう。大切に食べるね」
ゆるくパーマのかかったふわふわの明るい髪に、整ってるけど優しくて親しみの持てる笑顔。受け答えも完璧。
さすが学園の王子様だなー、と思っていたら、女子がいなくなった瞬間チョコレートをゴミ箱に叩き込んでいた。
「は……お前、なに捨ててんだよ」
「やべ、いたんだ。存在感なさ過ぎてわからなかった」
「そのチョコ、大切に食べるって言ってただろ、なんで捨てたんだよ!」
「はぁ? 手作りだぜ? キモすぎ。食うわけねえじゃんこんな油のかたまり」
「性格最悪。二重人格野郎」
「あ、俺だってお前が気に入らねえよイヤミ野郎」
以来、俺とヤナギは敵同士である。
お互いにほぼ同じ学力なので、同じ高校に進んだ。目指す大学も同じだろう。
正直ちょっとレベルを下げてもいいかなと思っていたが、ヤナギに負けるのは嫌なので、俺は勉強に熱が入る日々だ。
でも、さすがにちょっと疲れた。
「ヒロくーん、あがっていいよ~」
「はい、お疲れさまでした」
午前0時、バイト先を出る。
四時間つけっぱなしだったマスクを外すと、新鮮な空気が肺に入ってきて気持ちがいい。
プラスチックのパックの入ったレジ袋を手に家に帰る。
母さんはきっとお腹を空かせているだろう。早く食べさせてあげたい。
そしたら家事をやって、英単語を覚えて、数学やって、他は――もう早朝勉強でなんとかするとして。
回らない頭で夜道を歩いていると、目の前から嫌な顔がやってきた。
「ゲ、イヤミ君じゃん。ついてねー」
「こっちのセリフだよ。深夜に出歩くなよ高校生、危ないだろ」
「それこそこっちのセリフ。っつか、臭。何、すげー獣くさいんだけど」
他人の匂いのこと、こんな風に言うやつがいるか!?
「バイトだよ! 焼肉屋! ほんと性格悪いなお前!」
「へー、バイトね」
こんな奴の相手はさっさとやめて、さっさと帰ろう。だが、すれ違う瞬間、ヤナギが呟いた。
「……お前、まだ17歳じゃなかったっけ?」
しまった。
「あ、それは、いや……働いてたのは十時までで、あとは、ご飯、食べてたとか……」
「二時間も? その手に持ってるの、店の余りとかでしょ。へぇ~」
まずい、うちの高校はこの手のことに厳しいし、年齢ごまかしてたのがバレたらバイト先にもいられない。
賄いが持って帰れるバイト、あそこだけなのに。
「大変だな。秘密にしておいてやるよ」
ヤナギが、ふいに優しい目をした気がした。
「じゃあな、貧乏人」
気のせいだった。
家に帰った。
「母さん、体調はどう?」
暗い部屋から返事はない。
「ご飯、ここに置いておくね。起きれそうなときに食べて」
よし、風呂、の前に勉強! の前にトイレかな。そう思って便所に行くと、かなり汚れていた。
賃貸だからカビになるのはまずい。大至急掃除する。
母さんは、五年前に病気になった。
釣りに行った父さんと弟が、帰ってこなかった日だ。
奨学金をもらって、大学に行って、医者になって、お金を稼いで、母さんを治す。
神官だった俺は、神様が助けてくれないことを知っている。
俺がやらなければならない。
受験当日、俺は肺炎で入院して、それはできなくなった。
「やってらんねえよな~」
「そうかもな」
病院には、同じ肺炎にかかったヤナギがいた。
あっちは個室でこっちは大部屋なので顔を合わせることはないはずだが、なぜか俺たちは壁際のベンチで話していた。
「救済、あると思う?」
「わかんねーよ。お前は併願だから滑り止めにはいればいいだろ」
「あ、イナミヤは滑り止め受けてないのか」
貧乏人、と続くんだろうな。なんて怒鳴り返そうと罵倒をチョイスしていたら、ヤナギの声は優しかった。
「じゃ、俺より大変だ。お疲れ様」
「あ、う、ん……でも、お前も頑張ってたじゃん。行きたかったんだろ?」
「俺が行きたかったわけじゃなくて、親がさ、どうしてもここだっていうんだよな」
「ふーん、金持ちも大変だな」
「良い子ちゃん演技やめられないだけ。きっと違う大学でも許してくれるか……浪人しろって言われるかな」
お互いに弱ってるからだろうか。こんなに話が続いたことは今までになかった。
「でも、やっぱり俺よりお前の方がかわいそうだわ。バイト代、生活費にしてるんだろ」
「そうだよ」
「ほかのやつに聞いた。臭いなんていってゴメン」
「お前は、なんでチョコレート捨てたの」
「異物混入があったから」
「……俺の方こそゴメン」
あ、やばい、泣きそうだ。
あんなに頑張ったのにとか、これからどうしようとか、そんな言葉が出かかっている。
いや、この寒い時にこんなこと言ってても気が滅入るだけだ。
「なんか明るい話しよう」
「例えば」
「やらなきゃ、とかじゃなくて、やりたいことの話。これやるぞー! ってやつ」
「えー、それイヤミ君先に言ってよ」
「俺はな、会いたい人がいる。優しくてかっこよくて、誰にでも笑顔で、でも時々支えてあげたいって人」
「へぇ、恋人? どんな顔?」
「いや……顔は知らないんだけど」
「妄想かよ。激痛」
いや、魂は感じてるから、たぶん近くにいるから!
「でも、俺もそんな感じ。意地っ張りで無理してて、ほっとけないなーって感じで、一緒にいるとこっちまでほんとに笑っちゃうような人がいて……その人に会いたいなって思って生きてる」
「お前のそれも妄想だろ! よく人のこと言えたな!」
「あ、消灯時間だって」
「じゃーな、王島。落ち込むんじゃねえぞ」
「俺のセリフだから、稲宮。また明日な」
俺たちは別れた。
春になった。
肺炎が大規模だったことから追加試験は行われ、俺はめでたく合格を手にした。
気に入らないことにヤナギも合格していて、たまにキャンパスライフの写真やら自慢話やらがスマホに飛んでくる。
『今日も運命の人には出会えませんでした。合コンウゼー』
なら行くなよ。くそっ。っつうか、うちの店でやってたから知ってるぞ、お前が女の子独占してたから他の男子が微妙な顔してたじゃねえか。
帰り道、向こうからヤナギが歩いてくる。
あー、最悪、一日の終わりにまたあいつの顔を見るなんて。
どこにいるんだよ王子、早く会いたい。
まだまだ、俺達は巡り逢えない。
俺たちは巡り逢えない。 トウジョウトシキ @toshiki_tojo
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