底辺配信者の神託アプリ ~現代ダンジョンでチート転生し、無双配信で世界の頂点へ成り上がる~

kuni

第1話

現代日本にダンジョンが出現してから、ちょうど十年が経過していた。


当初は世界中がパニックに陥った。突如として街中や山奥に異次元空間への入り口が現れ、そこから溢れ出るモンスターが人々を襲った。死者も数え切れず、軍隊が出動するほどの惨事だった。


しかし、人類はすぐに適応した。


ダンジョン内部には魔石やレア素材が無尽蔵に存在し、それらを換金すれば一攫千金の夢が叶う。冒険者ギルドが設立され、国家公認の「探索者ライセンス」が発行されるようになった。今ではダンジョン探索は立派な職業の一つであり、テレビでは人気探索者の活躍が連日報道されている。


だが、それはあくまで「上澄み」の話だ。


佐藤太郎、三十歳。独身。職業はブラック企業の経理課員。


彼にとってダンジョンは、遠い世界の出来事でしかなかった。


朝七時に出勤し、終電間際まで残業を強いられる毎日。休日出勤も珍しくない。給料は上がらず、同期は次々と転職していく。唯一の楽しみは、帰宅後にコンビニ弁当を頬張りながら見る人気配信者のダンジョン探索動画だった。


「俺も……いつかあんな風に」


そう思ったのは、半年前のことだ。


貯金を崩して最低限の装備を揃え、探索者ライセンスを取得した。ランクは最低のF級。最初は興奮した。週末だけ近場の低ランクダンジョンに入り、スマホで配信を始めた。チャンネル名は「たらおのダンジョン日記」。登録者数はまだ十二人。視聴者はほぼゼロ。


今日も、いつもの土曜日。


太郎は疲れた体を引きずって、東京都郊外にある「浅草低層ダンジョン」の入り口に立っていた。入場料五百円を払い、薄暗い階段を下りる。湿った空気と苔の匂いが鼻を突く。


「こんばんは、たらおです。今日も浅草低層ダンジョンに来ました。視聴者……ゼロ人ですね。まぁ、いつものことですけど」


スマホを三脚に固定し、配信スタート。コメント欄は当然のように沈黙している。


最初のエリアはスライムばかりが出現する安全地帯だ。太郎は錆びた短剣を構え、青色のスライムに近づく。


「よし、今日は三匹狩って魔石一個でも回収できれば上出来かな」


スライムがぷるぷると跳ねてきた。太郎は剣を振り下ろす——が、タイミングが合わず空振り。スライムは体当たりを食らわせ、太郎の足元を酸で溶かす。


「うわっ、熱っ!」


慌てて後退するが、バランスを崩して転倒。背中を強く打ち、息が詰まる。スライムが再び迫ってくる。今度は剣を突き立てることに成功し、なんとか一体目を倒した。


魔石は出なかった。


残り体力も減り、服は酸で穴が開いている。残りは二匹いるが、もう限界だった。


「……すみません、今日はここまでです。また来週……頑張ります」


配信を終了し、コメント欄を確認する。当然、誰も見ていない。ため息をついてダンジョンを後にした。


帰宅途中の電車の中、窓に映る自分の顔は死人のように青白い。


(俺、何やってるんだろう)


三十歳を過ぎて、社畜生活に耐えながら、誰にも見られていない配信を続けている。人気探索者たちは華やかな生活を送っているというのに、自分はスライム一匹で精一杯だ。


アパートに帰り、冷蔵庫のビールを開ける。コンビニの唐揚げ弁当をレンジで温め、ひと口かじるが味がしない。


パソコンを開き、自分のチャンネルを確認する。


総再生回数、百五十回。登録者十二人。高評価は三つだけ。


「もう……辞めようかな」


ぽつりと呟いた言葉が、狭い部屋に虚しく響いた。


スマホをベッドに放り投げ、太郎は天井を見つめる。疲れが一気に押し寄せ、意識が遠のいていく。


その夜、佐藤太郎は知らなかった。


自分の人生が、翌朝から一変することを。


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