翔吾と夕月と変な世界

月兎耳

夕月、恐怖症クラブに招待される

『鮎川 夕月 様

 恐怖症クラブへご招待致します。

 おめでとうございます。

 恐怖は世界を変える力を持っています。

 私どもは貴恐怖を心より歓迎いたします。』


「何これ?」


 産休に入ってからずっと見ていなかった、仕事用のアドレスに届いたメールは、心当たりの無い物だった。

 今どきはあまり聞かないが、チェーンメールだろうか。

 洗濯機の止まった音がして、そちらに気を取られてすぐに忘れてしまった。




 日が暮れて、鍵の回る音が、いやに大きく聞こえた。


「ただいま〜」


 のんきな声がして、玄関が閉まる。

 おかえり、と返せば、大きな手が背中に回った。


「今日、どうだった。具合大丈夫?」

「うん。そらもよく動くし、元気。」


 良かった、と低い声が笑う。

 その匂いが、指に生えた産毛や、僅かな髭の剃り残しが、動く喉仏が。

 間違いなく愛する夫の物なのに。

 体の芯が凍っていくような感覚に襲われていた。


「夕月すげぇ鳥肌立ってるけど、クーラー消す?」

「……ううん、大丈夫。」


 それは久しく忘れていた感覚だった。


 ──男は、女性に害を為すモノだ。


 身をもって痛感したのに、何故忘れて居たのだろう。




「夕月……、俺、なんかした……?」

「ううん。」


 その男は、まだ動いていた。

 男は女性よりもずっと俊敏で、力がある。

 まだ、安心できない。

 ぬる、と握りしめた手が滑った。

 ぼくり、と体の内側から衝撃を受けて気付いた。


「ああ、……。」


 ここにも、もう1人。

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