第2話: 露出度MAX!霊界案内人

 結論から言うと――

 レイナは、帰らなかった。

 翌朝。

 久しぶりにまともな睡眠を取ったはずなのに、頭が重い。

 昨日の出来事は夢だった。

 そう思いたくて、ゆっくりとリビングのドアを開ける。


「おはよー」


 いた。

 何事もなかったかのように、キッチンに立つ女が。

 マイクロビキニ姿で。しかも胸が超デカイ。目のやり場に困る。


「……」


 俺は無言でドアを閉めかけた。


「ちょ、待って待って!」


 慌てた声と共に、ドアが内側から押さえられる。


「現実だよ? 逃げないで?」

「逃げたくもなりますよ……」


 ため息をつきながら、再びリビングに入る。

 レイナは、コーヒーを淹れているところだった。

 いや、正確には――淹れようとして失敗しているところ。


「フィルターどこ?」

「……棚の右」

「あ、これか。ありがと」


 自然すぎる。

 ここが自分の家だという意識が、完全に欠落している。


「……あの」

「ん?」

「なんで、まだいるんですか」


 核心を突くと、レイナは一瞬だけ真顔になった。


「仕事だよ」

「……仕事?」

「昨日言ったでしょ。ここ、霊道」


 コーヒーをカップに注ぎながら、彼女は続ける。


「しかもかなり質が悪い。放っておくと、地縛霊が定着するレベル」

「……もうしてるように見えましたけど」

「うん、してる」


 さらっと言う。


「だから、しばらく拠点にする」

「……拠点」

「安心して。家賃は払わないけど」

「そこは払ってください」


 即答すると、レイナは吹き出した。


「冗談冗談。でも、長居はすると思う」


 そう言って、カップを差し出してくる。

 受け取ろうとして、視線が下に落ち――慌てて逸らす。


「……その格好で、ずっといる気ですか」

「ん? あ、これ?」


 自分の服装を見下ろして、首をかしげる。


「動きやすいし、仕事着だよ」

「……仕事着」

「霊、オジサン多いからさ」


 さらっと爆弾を投下してくる。


「私の身体を見ると、だいたい未練が吹っ飛んでくれる」

「あー成る程。って聞きたくなかった……」


 レイナはケラケラ笑っていたが、その時だった。

 ――ギシ。

 廊下の奥から、重い音。

 空気が、一気に冷たくなる。


「……来たね」


 レイナの表情が、仕事モードに切り替わる。

 廊下の角に、ぼんやりとした人影が現れた。

 中年男性のような、はっきりしない輪郭。


「……うるさい……」


 低く、粘ついた声。

 俺の背中に、嫌な汗が伝う。


「大丈夫」


 レイナが、俺の前に一歩出た。


「この人、ここの元住人だね」

「……え」

「家に未練があるタイプ。まあ、よくある」


 彼女は、霊に向かって手を振る。


「はいはーい、時間だよ。そろそろ行こう?」


「……行きたく……ない……」

「うん、知ってる」


 レイナは一歩近づき、霊の目の前に立った。

 そして――

 ほんの少し、姿勢を変える。


「……」


 霊が、固まった。


「……お、おお……」

「はい、昇天」


 次の瞬間、霊はふっと霧散するように消えた。

 ……あまりにも、あっさり。


「……今の、何ですか」

「? セクシーポーズ。話し合いよりこっちのほうが早いんだわ。あと無駄な霊力も使わなくて済むしね」


 レイナは何事もなかったかのように戻ってくる。


「ほら、見て」


 彼女が指差した先。

 さっきまであった重苦しい空気が、嘘みたいに消えていた。


「地縛霊一体、解決」

「……」


 俺は、頭を抱えた。


「……つまり、あなたは」

「うん?」

「この家に霊が溜まる限り、ここにいる、と」

「そゆこと」


 にっこり。


「安心して。静かにするよう努力はするから」

「……努力、ですか」

「完璧は無理」


 即答だった。

 俺は深く息を吐き、天井を見上げる。

 引きこもり生活は、もう終わったらしい。

 代わりに始まったのは――

 露出の多い霊界案内人との、奇妙すぎる共同生活。


「……せめて服、もう少し何とかなりません?」

「んー、検討する」


 そう言って、まったく検討する気のない笑顔を向けてくる。

 俺は悟った。

 この家で、ツッコミ役をやるのは俺しかいない。

 そしてそれは、思っていた以上に、疲れる役割だった。

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