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「……どういうことですか?」
「すまん。俺の一存じゃどうすることもできないみたいだ。一応上にかけあってみようとは思うが……」
「必要ありませんよ」
「怪異絡みの事件が起こったのでしょう?だったらこちらから出向くまでです」
微笑んで言う。
「それがこの課の存在理由で私の仕事なんですから」
なんだ?
戸草は釈然としない気がした。それはほんのわずかな違和感。
名護の様子がなにかおかしいような。
「捜査が始まる前にいったん家に戻ります。失礼します」
戸草が声をかける間もなく名護は出て行ってしまった。
追いかけたほうがいいだろうか。
だがなんと声をかける?
「すみません、蕗島さん。俺もいったん帰宅します」
「戸草」
外に出ようとしたところを不意に呼び止められた。
振り向くと蕗島がいつになく真剣な顔をしている。
「……
どういうことなのかよくわからなかったが、一応言葉は受け取った。
「はい」
「名護をよろしく頼む」
「わかりました」
名護は戸草の言うことなど、というか誰の指示も基本きかないので頼まれてもできることは少ない気はするが気をつけることにした。
とりあえず、名護と津山。二人の様子に気を配っていようと戸草は思った。
翌日。
「おはようございます」
戸草が集合場所の駐車場に着くと津山がいた。
どうやら一番早く着いていたのは津山だったようだ。
爽やかな笑顔で挨拶する。
「おはようございます、戸草さん。捜査の間どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
思ったより丁寧な様子に戸草は安心する。
ついで名護が到着した。
「おはようございます」
名護は無表情に形だけの挨拶をする。
「おはようございます。では、行きましょうか」
冷たい
戸草は名護の顔を見るが普段と同じに見える。
やはり、気のせいだったか。
それにしてもどういうことかわからないが名護と津山は相性が悪いように見える。
駐車場に停めてあった黒い車の運転席に津山は乗りこむ。
四人乗りの普通車だが、身長が高めの三人には少し窮屈そうだ。
自分が助手席に乗ったほうがいいのかと戸草は思ったが名護がさっさと津山の隣に乗ってしまう。
戸草は後部座席に乗った。
やはり、天井が少し低い。
無愛想な口調で名護が言う。
「あなたが運転するんですか?」
「ええ。地図は頭の中に入ってるので」
津山は車を発進させる。
実際にカーナビをつけずにスムーズな運転で進んでいく。
車内は目的地到着まで終始無言だった。
空気が重い、と戸草は思ったが口にはしない。
駐車場に車を停め、津山の案内でやってきた到着場所は住宅街のどこにでもあるような道だった。
「事件の概要をお話します」
名護と戸草に向き合い、津山は言う。
「ここは近くに学校があるので通学路となっているのですが、怪物が現れて子どもを連れ去るという噂が最近広まっています。そして、先日それが噂の域を超えました」
説明書を読み上げるような津山の口調の裏側に戸草は穏やかならざるものを感じる。
「実際に子どもがいなくなったんです。それも一般人の前で忽然と姿を消したとのことで。目撃情報もどんどん多くなっていることから危険度が高いと判断しました」
「目撃情報って……」
「マガモノ、ですよ」
そう言って津山は目を細めた。
その目は真っ直ぐに戸草を見ている。
ああ、やっぱり知っているのか。
まあ当たり前だろうが。
「それで戸草くんに警察犬の真似事をさせようと」
どこか愉快そうに名護が言う。
津山も微笑んで言った。
「お二人は怪異事件の捜査に関して有能であるとお聞きしています」
白々しい、と戸草は思う。
「マガモノに関する対処はこちらでもサポートさせていただきますが、迅速に見つけ出すためにはあなたたちが適任かと思いまして」
あなたたち、のところで戸草に目を向ける。
つまり、都合のいい獲物になれと。
「あの……」
戸草は言った。
「自分はわかりますが、なぜ名護さんも呼び出されたんですか?」
一瞬沈黙する。
無表情で津山は言った。
「必要だから、としか私からは言えませんね」
裏に何かありそうだが、津山の表情からは何も読み取れない。
「私が君のストッパーだからでしょう」
名護はそう言うがむしろトラブルに突き進みやすいのは名護ではないかと戸草は思う。思うだけだが。
「全く勝手な話ですね」
「それが仕事なもので」
見た目は穏やかだがどこか剣呑な名護と津山のやりとりに戸草は冷や冷やする。
それにしても。
戸草は名護の横顔をそれとなく見つめていたつもりだが気づかれたらしい。
怪訝そうな顔で名護は言った。
「なんです?」
やっぱり表情は変わらないが、なにかおかしい。
どこか張りつめているというか。
普段の冷静な雰囲気らしくない。
氷の中に炎が揺らめいているような。
「では、はじめさせていただきます」
名護から目をそらして戸草は言った。
そんなにうまくいくとは限らないが事件を早く終わらせればいい。
そうすれば……。
そうすれば、なんだというのだろう。
ぶつり、と爪で手を切った。
血がポタポタと道路に滴り落ちる。
眺めているとそれは突然ぐんと流れを変えた。
道路に引かれた白線をつたい赤く染めていく。
「これは……」
戸草の視界が曇る。
陽炎がゆらりと揺らめいた。
白髪の人物が目の前を歩いている。
人、と読んでいいのだろうか。
ボロ布のような着物から
『……をやろうか』
掠れた声がして、首がギギギと壊れた機械のようにこちらを振り向く。
顔は能面のように白くのっぺりとしていて黒い空洞が三つ、顔に空いている。
おそらく目と口だろう。
こちらを見つめている。
顔をそらすことができない。
目が、あう。
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