第4話 正義は、銃口の数だけある

 焚き火の音が、小さく弾けていた。

 夜の森は冷える。


 フレアは両手を火にかざしながら、ちらりとメグルを見る。


 メグルは、少し離れた場所で座り、周囲を警戒していた。


 背中を預けない。

 眠らない。

 ――いつものことだ。


「……休まなくて、大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃないけど、慣れてる」

 短い返事。

 フレアは、それ以上聞かなかった。


 その時だった。

 パキッ。

 小枝を踏む音。


 ――一つじゃない。

 メグルの指が、無意識に引き金の位置へ滑る。


「動くな」

 低い声。


 次の瞬間、焚き火の向こうから、

 銃口が三つ、同時に向けられていた。


 どれも見たことのない武装。

 だが一目で分かる。


 ――カグヤだ。

「……人間?」

 フレアが小さく息を呑む。


「人間だよ」

 答えたのは、前に立つ女だった。


 年は二十代半ば。

 無駄のない動き。

 目が、戦場のそれだ。


「ただし」

 女は言葉を続ける。


「あんたが人間かどうかは、まだ分からない」

 メグルは、静かに立ち上がった。


「撃つなら撃て」

「随分と余裕だね」

「違う」

 メグルは銃を具現化しない。


「ここで争う理由がないだけだ」

 女は、ほんの一瞬だけ目を細めた。


「……いい判断」

 合図と同時に、周囲の銃口が下がる。

「自己紹介しよう」

 女は一歩前に出た。


「私たちは《グロウス》

 ――対ダテン組織だ」

 フレアが、はっと息を呑む。


「対……ダテン……」

「そう。神殺し専門」

 その言葉に、メグルの目がわずかに揺れた。


「……仲間か?」

「かもしれないし」

 女は肩をすくめる。


「最悪の場合、あんたを殺しに来た」

 空気が、一気に張り詰める。


 フレアが思わず一歩前に出る。


「ま、待ってください!

 メグルは――」

「フレア」

 メグルが制した。


 女は、メグルだけを見る。


「さっき、悪いテンシを倒したのを見た」

「……尾行してたのか」

「評価してた」

 女は淡々と言う。


「カグヤを使ってない

 それなのに、テンシを撃ち落とした」

 仲間の一人が、低く呟く。


「……例の、逸脱個体か」

 その言葉に、フレアは意味が分からず、

 ただ不安になる。


「結論を言う」

 女が言った。

「あんたは危険だ」

「知ってる」

「ダテンにとっても、人間にとっても」

「それも、知ってる」

 女は、少しだけ笑った。


「なら話が早い」

 カグヤを背中に収める。


「グロウスは、あんたを

 ――仲間にも、敵にもできる」

 沈黙。


 焚き火が、また弾ける。


「条件は一つ」

「……何だ」

「自分が壊れた時、止められる仲間を持て」

 メグルは、フレアを見た。


 フレアは、まっすぐこちらを見返している。


 逃げない。

 怯えない。


「……それが、あんたたちの正義か」

「そう」

 女は即答した。


「正義なんて信じてない

 壊れる前に止める仕組みを信じてる」

 メグルは、少しだけ笑った。


 それは、苦い笑いだった。

「……名前は?」

「リオ」

 女は名乗った。


「覚えておけ

 次に会う時、敵か味方かは――」

「俺次第、だろ」

「正解」

 リオは踵を返す。


「今夜は引く

 でも、見てる」

 森の闇に、グロウスの気配が溶けていく。


 静けさが戻った後、

 フレアが小さく息を吐いた。


「……怖かったです」

「俺もだ」

 メグルは焚き火を見る。


 炎の揺らぎの向こうに、

 自分を殺すかもしれない人間達の影を思い浮かべながら。


 ――正義は、一つじゃない。


 そしてきっと、

 一番危険なのは、自分自身だ。

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