第3話 祈りが、撃ち抜かれた日
教会の鐘は、もう鳴らなくなっていた。
壊されたわけじゃない。
鳴らす意味がなくなっただけだ。
メグルは、石造りの小さな教会を見上げていた。
街の端にある、祈りの残骸みたいな建物。
――嫌な匂いがする。
テンシの力が使われた後特有の、
空気が歪んだ感じ。
次の瞬間。
爆音。
教会の扉が、内側から吹き飛んだ。
炎。
悲鳴。
瓦礫。
悪いテンシが二体、宙に浮かんでいる。
「神に感謝しろ、人間ども」 「今日も生かしてやる」
その言葉に、メグルは眉をひそめた。
――違う。
あれは、感謝される側の言葉じゃない。
教会の中から、人影が飛び出した。
転び、倒れ、それでも立ち上がる。
少女だった。
白いシスター服は煤で汚れ、
それでも胸元の十字架だけは、必死に握りしめている。
「……やめてください!」
声は震えていた。
でも、逃げなかった。
「ここには、何もありません!
奪うものなんて……!」
悪いテンシが笑う。
「奪う? 違うな」 「見せしめだ」
炎が、少女に向かって放たれる。
――その前に。
銃声が鳴った。
光と闇が交差し、
炎ごとテンシを撃ち抜いた。
「……え?」
少女が目を見開く。
残った一体が、驚愕に目を見張る。
「人間が……能力を――」
「人間じゃない」
メグルは静かに言った。
引き金を引く。
二発目。
悪いテンシは、空中で形を失った。
静寂。
瓦礫が崩れる音だけが残る。
メグルは銃を消し、教会の中を見渡した。
幸い、生きている人間はいる。
――よかった。
少女が、恐る恐る近づいてくる。
「あなた……」
その目には、恐怖と、
それ以上に強い何かがあった。
「……助けて、くれたんですよね?」
「たまたま通りかかっただけ」
メグルは、そう答えた。
本当は違う。
でも、そう言わないといけない気がした。
「私はフレアです」
少女は名乗った。
「この教会の……シスターです」
シスター。
神に仕える人間。
――皮肉だな。
「あなたは?」
メグルは一瞬、言葉に詰まる。
名前を名乗ると、
期待される気がして。
「……メグル」
それだけ言った。
フレアは、壊れた教会を振り返った。
「神様は……助けてくれませんでした」
その声は、泣いていなかった。
「でも」
フレアは、メグルを見た。
「あなたは、来てくれました」
その言葉に、
メグルの胸が、少しだけ痛んだ。
「……俺は、神を殺す側だ」
「知ってます」
「え?」
「だって、神様なら……
あんな撃ち方、しません」
フレアは、少しだけ笑った。
壊れた世界の中で、
不釣り合いなくらい、温かい笑顔だった。
「行く当ては、あるのか?」
メグルが聞く。
フレアは首を振った。
「でも……一緒に行ってもいいですか?」
迷いは、なかった。
メグルは、即答できなかった。
この旅は、
人を壊す旅だ。
それでも。
「……危ないぞ」
「知ってます」
フレアは、十字架を握りしめたまま言う。
「それでも、行きたいんです」
メグルは、空を見上げた。
灰色の雲の隙間から、
ほんの少しだけ、光が差していた。
「……勝手にしろ」
そう言って、歩き出す。
フレアは、少し遅れて、その後ろを追った。
この出会いが、
少年の闇に差し込む
最初の光だと、
まだ誰も知らなかった。
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