第三話 最初の一歩
「ふむ……」
異世界の大地に立つクトウは、スキルの確認をおこなう。
クトウが手に入れたユニークスキルは以下の通り。
風化の語り部
効果:風化してしまったものごとを正確に認識できる。
神話大全
効果:神話の真実を知ることができる。
知識の遺産
効果:見たり聞いたりしたものを学習できる。
他に強力なユニークスキルがいくらでもある中で、クトウが選んだのはこの三つのスキル。
クトウは数多くある選択肢の中で、この三つのスキルが最強であると確信していた。
例えるなら、安物のガレージセールの中に埋もれた価値のあるアンティークを目利きしたようなもの。
知る者にとっては、喉から手が出るほどに手に入れたい、時価数十億を超える宝石群である。
「いつの世も、悲しみは変わらぬか」
穏やかな風が吹く、小高い丘の上。
クトウが歩む現在地。
刻まれた文字が風化した墓標が、地面に埋まっていた。
異世界にて、クトウが初めて出会った人工物の残骸。
これは運命なのか。
それとも、クトウにスキルを与えた神々による悪戯か。
「さあ、スキルの効果を確かめてみようか」
クトウはさっそく、スキルの実験を開始する。
『愚かなる者ソフィア、醜い妹セレーネとここに眠る』
風化し、刻まれていたはずの文字すら消えてしまった墓石。
誰の記憶からも消えてしまった墓主の名と同時に、とある二人の人生がクトウの脳裏に浮かんでくる。
これが、風化の語り部の能力。
風化してしまった過去を、正確に認識することができる力。
「やはり、当たりだったようだな」
クトウは推論の正解を知る。
「スキルを獲得したようだ」
風化の語り部と同時に、知識の遺産スキルが発動したからだ。
クトウが得たユニークスキル『知識の遺産』は、見たり聞いたりしたものを学習することができる能力。
見たり聞いたりしたものを学習する行為。
それは、人間なら誰しもが自然と行っていること。
こんな能力を、わざわざスキルで得る必要はない。
あの真っ白なだけの空間で、誰もがそう思った。
しかし、スキルや魔法という概念がある世界で、見たものを学習するという能力はどのような効果をもたらすだろうか。
過去に実在した剣聖ソフィアの流麗な太刀筋。そして、殺戮の魔女セレーネが使う数多の暗黒魔法。
風化してしまった歴史を目撃したクトウの脳に、次々とスキルが吸収されていく。
これが、知識の遺産の効果。
それは、手のひらからパンとワインを生み出すがごとき能力。
クトウが得たスキルは、最強スキルの一角であった。
「行きがけの駄賃だ。謝礼ついでに、叶うことのなかった貴様らの望みを叶えてやろう」
勇者と旅し、英雄となるはずだった剣聖と魔女の二人は命を落とした。
その過去が、クトウの脳裏に、はっきりと刻み込まれる。
魔王殺し。
それが、クトウが異世界で最初に立てた目標だった。
「まぁ……この世界も、泥の中は元の世界と同じか」
どこまでも青く、高く、透き通った異世界の空を見上げながら、クトウは論理的思考を繰り返す。
「勇者も、殺すか……」
誰にも語られていない、消された歴史。
勇者の裏切りがあったことも、クトウは風化の語り部の能力ではっきりと認識していた。
勇者は今も生きているはず。
外面だけを取り繕って。
そして、裏切りを誘引した魔王すらも。
長い歴史の中で、彼らが殺されていなければ、であるが。
異世界での行動目標が定められると、クトウの頭の中で次々と悪魔的計画が構築されていく。
美しく透き通った、ブルーダイヤモンドの空の下で。
黄金色の髑髏が笑っていた。
「さて、楽園を作るか。この世界で……」
クトウが創造するのは、自己の絶対的な支配圏。
快楽の新世界。
数多の人間を虜にさせる甘き最果て、黄金の国。
呼ぶならば桃源郷。例えるなら天上の宴。
それは誰もが夢見る理想郷。
そして、異形の悪魔が住まう常世の隙間。
「私の世界へ、ようこそ。異世界」
クトウの腕に巻かれた、仕立ての良い高級腕時計が時を刻む。
この日、後世にて最低最悪と評される、クトウの異世界生活が始まった。
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