第7話 探索者パーティ〈スリースターズ〉
ちょうど恒一が十七階層に降り立った頃、
同階層で、ある探索者パーティがダンジョン配信を行っていた。
カメラが三人の女性を捉える。
「はーい、次いくよー!」
明るい声と同時に、魔法陣が空中に展開される。
青白い稲妻が収束し、一直線の閃光となってアーマード・リザードに降り注ぐ。
――ドンッ!!
本体が塵になって、消え去った。
コメント欄が、すぐに流れ出す。
”さすがスリースターズ”
”安定感が違うな”
” B級の探索者は伊達じゃない”
”ルナちゃん火力えぐすぎ”
”むしろモンスターさん側に同情するわ”
「よ〜し、討伐確認ッと!」
落ち着いた声でそう告げたのは、遠距離の雷魔法を得意とするルナだった。
「カナデ、次どう?」
ルナは高い位置で結った青い団子髪を揺らしながら、パーティ支援担当のカナデへ呼びかける。
「……奥、右から来る」
丸眼鏡、黒髪ボブ、小柄な女の子のカナデ。
彼女は自分の身長よりも高い木製の杖を器用に振り、支援魔法をいつものように発動させた。
淡い光がパーティ三人の身体を包んだ。
攻撃力上昇。
反応速度補正。
疲労軽減。
必要なものだけを、必要なタイミングで。
「ありがとう、カナデ!」
前衛の剣士、茶髪をひとつ括りにしたヒカリが敵を見据えたまま、明るく伝える。
「さっすがカナデ! 助かる〜」
一方のルナは振り返って笑う。
配信慣れした、自然な笑顔だ。
そのままカメラを意識して、少しだけ声のトーンを上げた。
「というわけで! 今日もアタシたち〈スリースターズ〉は、元気に十七階層攻略中で〜す!」
”待ってました!!”
”スリースターズは強さも可愛さも兼ね備えた最強の探索者パーティです”
” B級は伊達じゃない”
”ルナちゃん火力えぐい”
”ヒカリ前衛うますぎ”
”カナデの支援は相変わらず神”
三人はそれぞれ、ちらりと画面を意識しながらも、次々と奥から出てくるモンスターを淡々と倒していく。
前衛のヒカリが敵を足止めしつつ処理。
後衛のルナはその隙に魔法を放ち、そのさらに後方からカナデの支援魔法。
そのあまりにも完璧な連携、そして人並み以上の美貌と人当たりの良さが、彼女たち〈スリースターズ〉の強さであり、魅力であった。
「……おかしい」
モンスターを処理し終えた直後、カナデが眉をひそめ、奥の通路に目をやる。
「どうしたの……?」
ヒカリとルナの身にも緊張が走る。
「モンスターの気配、途切れた。本当はもっと、数がいたのに」
カナデは事前にモンスターの気配を、正確な数まで察知することができる。
その数が合わないことなど、今までに一度だってなかったことだ。
「え、た、例えば、仲間割れとか〜?」
モンスター同士が争うなんて前例はない。
その事を理解しつつも、ルナは場を和ませるためカナデに問いかけた。
しかし、コメントがいち早く答えを述べる。
”カナデさんの探知が間違うわけない”
”……つまり誰かが倒したってことだよな?”
”ダンジョンで探索者同士が鉢合わせとか珍し”
そしてその時。
――カツン。
通路の奥から、足音が響いた。
金属と石が触れる、乾いた音。
三人の視線が、一斉にそちらへ向く。
暗がりの向こう。
ゆっくりと姿を現したのは――
人影。
「……探索者?」
ヒカリが、自然と前に出る。
だが次の瞬間、その判断が正しいのか分からなくなった。
顔が見えない。
全員仮面を着けている。
装備は探索者のもの。
だがおかしい。
彼らは全員、剣を握りしめているのである。
近距離戦闘タイプが三人。
そんなパーティ構成なんて見たことがない。
普通は近距離、支援、遠距離などバランス良く組むからだ。
「……おっ、ラッキーだな」
一人の男が、軽い口調でそう言った。
「スリースターズじゃん。配信中?」
ぞっとするほど、低く場違いな声音。
「今日は――」
一拍。
「当たりの日だ」
仮面越しでも分かる。
彼らが今、全員愉しげな表情をしていることが。
コメント欄が、一気に荒れ始める。
”え、探索者?”
”何あれ”
”仮面とか、厨二すぎて草”
”でもなんかヤバそうな雰囲気”
ヒカリは剣を強く握り直した。
「……全員、下がって」
低くはっきりとした声。
だが、仮面の探索者たちはもう動き出していた。
統率の取れた動き。
三人の仮面男たちが迷いなく駆けてきた。
「カナデ、ルナ――」
ヒカリが指示出しをするよりも早く、仮面の一人が加速した。
直線じゃない。
ヒカリを無視し、斜めから。
「っ――!」
狙いは中衛位置のカナデ。
彼女はバフ用の詠唱中だった。
攻撃補正、防御補正……。
「おせぇんだよ」
仮面の男が、笑った。
次の瞬間、男の剣撃がカナデの杖を弾き飛ばす。
「……っ!」
「「カナデ!!」」
ヒカリが駆け出す。
ルナが杖を構える。
「いいのか? オレを狙えば、この女は一刺しだぜ?」
男はルナを足で踏みつけたまま、剣を突き立てた。
「まずは支援潰し。対人戦じゃ、鉄則だよな?」
男のニヤケ顔に、カナデの背筋は凍りつく。
「――油断すんなよ!」
他二人の仮面がヒカリへ同時に斬りかかる。
「な……っ!?」
一人の剣を剣で弾きつつ、もう一人の剣筋を後退し躱わす。
三撃目、四撃目とそれはさらに続いていくが、当然一人の剣士が対応できる範疇を超えており、ヒカリは肩口に一線、鮮血が宙を舞う。
「……うっ!」
”おいおいおいおいおいおい”
”何してんだコイツら”
”同志討ちとかシャレにならんだろ”
”カナデちゃんを人質とか卑怯だぞ”
ヒカリが血を流しながら、一歩後退。
カナデは剣を突き立てられ、ルナは杖を構えつつも手が出せない状態。
一瞬でこの手際。
相手は確実に対人戦慣れしている動きだった。
”てかコイツら、見たことあるぞ”
”仮面パーティ、だっけ? 最近できたチャンネル”
”登録者721人、チャンネル開始も一ヶ月前になってるわ”
”うわ。動画タイトル、全部探索者狩りだ”
”おい、誰か助けに来てくれよ!”
”協会に通報はしたぞ!”
”ナイス! でも、間に合うか?”
ヒカリは真正面から仮面の男とぶつかり合う。
次は正真正銘、一体一で。
「――っ!!」
だが圧倒的な実力差。
間合いを詰められ、肘、膝、柄。
剣を振る隙すら与えられない距離での暴力。
一連の流れが、無駄なく繋がる。
技術じゃない。
駆け引きでもない。
対人戦を想定した殺しの動き。
「ぐっ……!」
剣技に気を取られ、ヒカリは正面から蹴りを叩き込まれる。
身体が、地面を転がった。
「ヒカリ!?」
ルナの声が震える。
立ち上がろうとするヒカリに、仮面の男が言った。
「悪くない前衛だ。でも――」
一歩。
「人は、モンスターみたいに動かねぇ」
次の瞬間、男の蹴りがヒカリの腹部に刺さる。
「ヒカリ……!」
ルナが駆け寄ろうとするが、その場で止まる。
カナデには未だ剣先が牙を向いている。
二人とも、足が震えている。
コメントはもう悲鳴だった。
“無理だってこれ”
“対人戦怖すぎる”
“誰か来て……”
“助けて……”
その時――
「一応、間に合ったかの……?」
仮面の一人が、振り返る。
「……あ?」
暗がりの奥。
そこに立っていたのは、一人の男。
片手に武器を持ち、不気味な気配を纏わせている。
「娘たち、後はわっちに任せておれ」
その男を見て、仮面の探索者たちは一瞬だけ動きを止めた。
それは警戒ではない。
困惑だった。
武器がおかしい。
片手に握られているのは、刀。
だが刀身は深い紫の光を帯び、空気そのものを切り裂くように揺らいでいる。
「……なんだ、あれ」
仮面の一人が、低く呟く。
その問いに答えるように、男が一歩前へ出た。
足取りはゆっくり。
だが、重い。
その一歩ごとに、空気が張り詰めていく。
「随分と派手にやっておるのう」
男――三枝恒一の口から出たのは、聞き慣れない口調。
「人質で相手の心を揺さぶるか。やり口は嫌いではないが」
紫の刀が、わずかに鳴った。
「弱き者を見世物にする趣味は、好かぬ」
仮面の男が嗤う。
「は? なんだその喋り方」
「なんでもいいが――」
一歩、前に出る。
「お前から死ぬかぁ!?」
そう言って、仮面の男は地面を蹴った。
一直線。
迷いのない踏み込み。
対人戦用に最適化された速度と間合い。
――だが。
「遅いのう」
恒一の身体が、ふっと消えた。
「――なっ!?」
背後。
いや、横でもない。
仮面の男は、何が起こったのかすら分からなかった。
次の瞬間。
「恒一、よく見ておれ」
それは恒一の口から出たものではなかった。
彼の肉体に乗り移った、彩芽の言葉だった。
そして紫の軌跡が、視界を横切る。
「一人目――」
低く、澄んだ声。
――ズンッ。
重い衝撃。
「うわあぁぁぁぁああああッッ!!!!」
仮面の男の身体が崩れ落ちた。
この場の誰もが、何が起きたのか理解できない。
確かに恒一は男を斬りつけた。
だが男の体には傷一つない。
なのに、まるで胴が裂けたかのような痛みが襲う。
「な、なんだその剣……!」
他の仮面が、怯えた声で問いかける。
恒一は、刀を肩に担ぐように構え直した。
その姿は、完全に別人だった。
いつもの堅実な探索者ではない。
迷いも、怯えも、躊躇もない。
ただ――
研ぎ澄まされた刀そのもの。
「冴斬とは――」
紫の刃が、静かに唸る。
「所有者の身体能力底上げと」
一歩。
「――斬れるものを選べる剣だ」
二人目の仮面男が、声を荒げて迫り来る。
「……っ、ふざけるな……!」
その瞬間。
恒一の姿が、再び揺らいだ。
誰の目にも見えない速さで、男の正面に立つ。
「二人目――」
――バキィン。
鈍い破壊音。
今度は仮面の男の武器が、真っ二つに砕け散った。
同時に男を前蹴りで吹き飛ばす。
「これが、妖刀【冴斬】!」
そして恒一……いや、彩芽はゆっくりと顔を上げた。
「さて……」
紫の刀が、淡く輝いた。
「あとはお前だけか?」
残った最後の仮面男は、本能的に理解した。
これは、勝てる相手ではないと。
逃げようとした足が、恐怖で動かない。
そしてこの場を映す配信画面には、紫の刀を携え、静かに立つ『変わった口調の男』の姿がハッキリと焼き付けられていた。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
皆様、沢山の応援ありがとうございます✨️
ここまで、PVもあまり離脱することなく、多くの方に読んでもらえてること、非常に嬉しく思います🥺
この先もまだ話は続きますので、どうぞお楽しみくださいませ‼️
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妖刀を拾った中年探索者、女侍の亡霊に死ぬほど鍛えられる 甲賀流 @kouga0208
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