その国境は、どんなところにもあって、どんなところよりも近い。
鴻山みね
第1話
今から十年前の過去の話。ほんの些細なことがきっかけだった。
各都道府県の魅力を発信して、地方を盛り上げようとした国は『地方盛況大祭り』を執行。
なんやかんやの前評判を
だが、その各地方の競争は次第に激化。都道府県同士の競争は市町村まで飛び火――これが世に言う『ご当地大戦争』の始まりであった。
ご当地大戦争による激しい争いのなか、ついには各自治体が独立を宣言。戦争、吸収、合併を繰り返した。
巨大化し始めた埼玉連合王国が東京大帝国に対してサトイモの輸出を拒んだことから、攻撃を受け、今では東京大帝国と群馬民主共和国によって領土分割を強いられた――はたまたこれが世に言う『埼玉サトイモ紛争』である。
その強烈な敗北の背景にはインターネットによるサイバー攻撃、プロパガンダがあり、ネットの発達による『とりあえずなんでもネットワーク』の脅威を世に知らしめた。
各国は防衛策として、ネットワークをオープンなものからクローズドなものへと転換し、社会は閉じられたものへと変化していった。
――だが、人はひとりでは生きられない。各国の交流・貿易は絶対的に必要であった。
そこでデジタルネットワークの代替として誕生したのが、『
飛車配達人の基本的な仕事は国家間の交流を繋ぐものである。
国家元首の親書、企業間の交渉文書、個人の手紙、小荷物の配送――重要度に差はあれど、できる限り国家間を繋ぐのが彼らの仕事。
そして飛車配達人の移動手段は〝脚〟ではない。飛車配達人の名の通り、彼らの移動手段は〝車〟。
正確にいえば、前後にタイヤが二つある乗り物、つまりバイクであり――これが飛車配達人の移動手段なのである。
◇
埼玉連合王国に隣接する『旧つくば下妻国』の関所に、ヘルメットを被った少女がアメリカンタイプのバイクに跨りながらパスポートを男の
飛車配達人たちは国の出入り口に設置された関所を通らなければならない。クローズドな国家間においても、円滑な連絡を得るための処置であり、同時に飛車配達人が信用を得るためでもある。
関所本体とは建てられた時期の違う『つくば下妻国・臨時政府』と書かれた看板を見た少女は、パスポートを確認している門番手に尋ねた。
「つくば下妻はまだ政府が決まってないんですか? 『埼玉サトイモ紛争』からもう六年ですよね?」
「そりゃあね。ここ、つくば下妻国は埼玉連合王国の一部だったわけだから、東京大帝国と群馬民主に分割されちまった以上、正式な政府だって簡単には決まらないんだよ。群馬民主の顔を伺うのは大変だってこった」
パスポートを確認した門番手は、少女の顔を見て確認を取り始めた。
「名前は?」
少女はヘルメットを取り、顔を出した。
ふわっと落ちた髪は肩にそっと掛かる程度の長さ。目覚めのいい朝で起きたと思えるぐらいに清々しい表情。
瞳は、遠い遠い先の景色を見ていて、真夏の青空ぐらい青い瞳をしていた。少し濃い目の青いライダースジャケットを着た少女は自分の名前を伝えた。
「
門番手は手を上下に揺らした「けっこう、けっこう。なるほどなるほど、今日が初めての『飛び』ってところか」パタンとパスポートを閉じて、駆奈に返す「それで目的地は?」
手を伸ばして、パスポートを受け取った駆奈は答えた。
「
「そりゃいいことだ。なら、初仕事がんばってくれ。事故には気をつけな」
「はい! ありがとうございます。じゃあ、行きますね」
ヘルメットを被ったあと、左手でクラッチレバーを引き、ペダルを踏み込んで一速にギアを入れた。
駆奈がぎゅっとアクセルを回すと、等速で流れていたマフラーからの排気音が抑え切れない感情を高ぶらせるように唸りを上げていって、ブレーキも放していった。
タコメーターのないシルバー色のバイクから聞こえる音を頼りに、駆奈はクラッチを繋げていく。
前傾姿勢にはならず、着座位置より前に出たステップにバイクを支えていた片方の足を乗せて、半クラッチによって歩き始めのような動きを見せたバイクに対し、アクセルの開度を開けていき、クラッチレバーもスッと放した。
上向きについたシルバー輝く、クロームメッキのダブルショットガンマフラーから低重音を響かせて駆奈は走り去っていた。
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