『結婚に至らなかった恋』
八方鈴斗(Rinto)
『結婚に至らなかった恋』
令和七年 十二月 二十九日 十九時十分
新宿駅南口 RKビル一階
イタリアン・スファヴォーレにて
『――そんで、僕は一週間は独身時代に戻れるボーナスタイムに入ったワケ』
『ええ? 新婚ホヤホヤのくせに喜びすぎだろ』
『いやあもうね、超嬉しいの。羽根を伸ばしまくりの好き放題よ。これから嫁には月イチで出張行ってて欲しいくらいだよホント。あそうだ。はいチーズ』
パシャパシャ
『ん? なんで急に写真撮った?』
『男同士で飲んでるよってアリバイ写真。これ嫁に送信しとけば、その後どこでなにしてても突っ込まれにくいからさ』
『ふうん?』
ヴー ヴー
『あ、ほら。「楽しんでね♡」だってさ。これで完璧』
『ははは、やっぱお前結婚向いてねえだろ』
『いやでもまあ――社会的にもさ、僕ももうそろそろ落ち着かなきゃいけないタイミングだったし。あの実家太くて美人なあの嫁が最適解だったワケですよ』
『よっく言うわなぁ、大学時代に弄びまくって捨ててきた女たち全員に謝ってぶん殴られてこいよ』
『やだよ、それじゃ僕絶対死んじゃうじゃん』
『原型留めらんないな。――それこそ結婚式に出てた女たち、全員苦々しい顔してて笑っちまったよ。出席する時点で何かしらヤツらも思惑があったんだろうが、その目論見も外れたんだろうなあきっと』
『ええ? その時その時はそれなりにマジだったはずなんだけどなあ』
『それじゃ、北千住のアイちゃんは?』
『……ちょっと激しい子だったねー。今地元の兵庫で教師してるんだって』
『目黒のサナは? あれ当時でもやばかったろ』
『……そう? やだな、あんなの大したことないよ。今は立派な港区女子として輝いてるから大丈夫だよ』
『川崎の絶叫姐さんは?』
『いやー、うん。あれは肝冷えた。でももう二児のママ。幸せにしてるってさ』
『なんでああいう別れ方しておきながら、それぞれのそういう情報知ってんだよお前。あとほら、渋谷の――えっと』
『やめてよ黒歴史を掘り返すの……。渋谷は候補が多すぎるからなあ』
『あの子――うわ名前出てこねえ。ほらちょっとアレな。大学の三個下で、サークル一緒だった。お前に入れあげて、のぼせ上がってたじゃん。誰だっけ』
『…………▓▓▓▓?』
『そうそうそうそう! ▓▓ちゃんだ! 式にサークルの他の奴らいたけど、あの子いなかったよな? さすがに呼べなかったか』
『あー。あれはちょっとね……実はさ』
『ん? なんだよ』
『結婚祝いだけ、送られてきてさ。昨日』
『ええっ!! マジで!? ヤバ、何来た!? 毒入りお菓子? 血濡れのタオル? 五寸釘刺さった人形だとか?』
『まさか――市販のアロマキャンドル』
『うーん? なんか、まあ、普通っちゃ普通だな』
『でしょ。ほらこれ』
ゴト
『え。これ実物? そんなもん持ってくんなよ。どうすんだよ呪物だったら』
『大丈夫だって。あの子たちにはちゃんと、〝結婚に至らなかった恋〟だったって思わせてるもん。実際はいいように弄んで捨てただけだとしても、彼女たちの中ではそうなってんのさ』
『うーわ。本当にお前、そういうところあるよなあ』
『だからこうして当たり障りないもの送ってきたんだろうし』
『あれ』
『なに?』
『なんかこれ……本当に市販のだけどさ、一回封開けて詰め直したみたいな感じすんだけど』
『ん、うん? ――あ、っぽいかも』
『……どうする?』
『どうするって、……何が入ってるか見るってこと?』
『うん』
『まあいいけど』
ガリガリガリガリ
『盗聴器とか入ってたらどうする?』
ガリガリガリ、ガリ
『まさか。それならもっと上手くて効果的なやりかたあるでしょ。僕の持ち物に紛れ込ませるとかさ』
ゴリゴリゴリゴリ
『それもそうか――んん? おお、見えてきた?』
『なんだろ。キャンドルの芯、じゃないよね』
『いやいやいや。ちょ。え。それ』
『これって……え、指?』
『………………』
『………………』
『………………』
『いや、さすがに偽物でしょ』
『あ――あはははは、そうだよな。うわビックリした。俺めっちゃ汗かいたわ』
『第一さ、▓▓▓▓の指ってもっと太くて毛穴目立つし』
『うわははは、最悪だコイツ』
『いや、でもよく出来てるよこれ。そういう玩具あるのかな。それともわざわざ作ったのかな。僕をビビらせるためだけに』
ゴリ、ゴリゴリゴリ、ズリュ
『おい……その、滲んできた赤黒いのって』
『ウソだ……違うよ、だ、だ、だって本当に、▓▓▓▓の指って、もっと太くて』
ゴリ、ズリュ、ゴリゴリ、ズリュブチュ
『おい! もうやめろ、やめろってば』
『違うから、絶対違うから、ほら▓▓▓▓なんかじゃ付けないセンス良い指輪だってつけられてるし――やっぱりコレあいつの指なんかじゃないって』
『お前――それ、同じの?』
『…………あっ、あっあっ、あっ』
その音声とほぼ同時に、手元の携帯端末に電話が掛かってきた。
繋がらないと見たのか、大量のメッセージが送られてくる。
だから私は、満面の笑みを浮かべながら、
「あ。ねえ貴女。ほら、見て、『大丈夫か!?』だって」
縛り上げた彼女は、無くなった左手の薬指を見て泣いている。
『結婚に至らなかった恋』 八方鈴斗(Rinto) @rintoh0401
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます