第8話 大団円
「今の時代に、そんなことがあるんだね」
ときくと、
「ええ、そのようなんです。もし私が断ったりすれば、私の父親の会社が取引停止ということになり、零細企業なので、あっという間に倒産させられてしまうんですよ」
ということであった。
「そんなひどい」
というと、
「でも、他に決まった人がいれば、それを強制することは、セクハラ、パワハラになるということで、その時だけは、しょうがないということになっているんですよね。それは、もちろん、形式的なことであっても、その詳細までは会社に分かるわけもないし、もし、調べようとすれば、それこそ、大きな問題になるということで、会社には、そこまできないというしがらみがあるんですよね」
ということであった。
「なるほど、それで、私でもいいと思ったんですか?」
「それもあるんですけど、実際に、松島さんを見ていると、私も惹かれるところがあって、どうも、お互いに同じものを見ているわけではないのに、結果的に合っているところを目指していると思えてきたんですよね。最初は申し訳ありませんが、そういう不健全な理由ではあったんですが、次第に惹かれたもの事実なんですよ」
と言われた。
「相手は誰なんですか?」
「相手は、大久保初範さんといって、株主企業の跡取り息子で、今は専務に収まっているということなんです。別に悪い人だとは思わないんですが。どうしても。会社の犠牲になるというのが許されない気がして」
というのであった。
今の時代に、そんな古めかしいことがあるというのは、実にありえないことではないdろうか。それを考えると、
「それだけ会社が、前にも進めないし、後戻りもできないところに差し掛かっているということになるんだろうな」
と感じたのだ。
だが、ある時、その大久保初範という男に遭う機会があった。
というのは、彼も、デザインに関しては。学生時代から専攻していて、実際に、
「会社内でも、デザインの専門家というのが、明らかに少ない」
ということで、専務である初範が、相手の担当と直接会うということもあるのであった。
今回の、
「政略結婚の話とほぼ同時に、会社間と取引が開始された」
といってもいい。
それだけお互いに、
「タイミングを間違えなければ。お互いに合併ということは、大いにメリットがある」
ということであった。
だから、水面下で、弁護士同士が動いたり、マスゴミにバレないような工作を行ったりと、経営面でも、いろいろな画策がもたれていた。
それは、
「政略結婚」
というものが、大きなポイントを握っていることには変わりないが、
「もし、ダメだった」
という場合にも、
「奥の手をいくつも持っている」
ということにしておかないといけないということであったのだ。
実際には、
「和子としては、そこまで真剣に考える必要はなかったのだろうが、和子よりも、相談された松島の方が、気になっている」
といってもいいだろう。
政略結婚の相手である、
「大久保初範」
という男性と話をしていると、その生い立ちに、どこか気になるところがあった。
「親同士が、元々政略結婚には程遠い、駆け落ちに近い結婚だったんですよね。それも、母親は、実はバツイチということで、父親は、初婚なんですよね。そんな状態で、家で許してもらえるはずもなく、駆け落ち同然で結婚したということでした」
という。
「それでも、お父さんは、今会社を経営されているということは、実家に戻ったということなのかい?」
と聞くと、
「ええ、そうなんです。さすがに、先代。私から見れば、先々代も、このままでは、会社が自分の代で終わってしまうと思ったんでしょうね。何とか見つけ出して話し合いを持ったというのです。話をしてみると、私の母親のしっかりした性格で、父親の手綱を締めているということで、これほど、会社を経営していく夫婦としてふさわしい二人はいないということで。先代が頭を下げる形で、戻ってくることになったんですよ」
という。
「なるほど、先々代もさることならが、あなたのご両親も、さぞやご立派な方なんでしょうね」
ということであった。
「ええ、そうだと思います。ただ。お母さんがたまにいうんですが。私のこの性格には、最初に結婚した相手の旦那さんの性格が反映されているような気がするってですね」
「というと?」
「私の父も母も、性格的には、経営者向きで、私のような芸術家肌なところはなかったというんです。父は、突然変異では? と笑っていたということですが、母は、これを、前の夫の性格が乗り移った気がするというんですね。もちろん、血のつながりがあるわけではないので、ただの偶然なんでしょうけど、お母さんは、短い間夫婦だっただけだけど、自分の中に。前の旦那の性格的なものが、伝染したような気がするということだったんです」
というので。
「そうなのかな?」
「というと?」
「私は、それよりも、お母さんは、前の旦那さんと一緒にいることで、本来の自分の性格をその時は引き出すことができたということだと思うんですよ。そう考えると、息子のあなたが芸術家肌だということも当たり前と感じるでしょうね」
と、松島は言った。
「なるほど」
「だって、誰かを好きになるということは、その人と自分の相性を考えるのは普通じゃないですか? その中で、この人の前では、本来の自分の性格を前面に出さない方がうまくいくという考え方になると思うんですよね。それを、意識して態度に出す人と。無意識に心の奥に秘める人がいる。結局、男女の相性が合うというのは、その両方が合致したことでできることだと思うんですよ。きっと、お母さんは、初婚の時には、結構自分を偽っていたのかも知れないし、相手に妥協して、なるべく自分を出さないようにしていたのかも知れない。それは、私の前の奥さんがそういうタイプでしたね」
ということで、こちらも、結婚していた時のことを話すと、
「まるで他人事ではないような気がする」
と初範は言った。
お互いに話をしているうちに、どんどん打ち解けてきて、
「今まで他の人に話をしたことなどなかったんだけどな」
というような話を、結構突っ込んで話すようになった。
きっと、
「年齢では、松島が上で、立場的には、初範の方が上ということであるが、芸術面での話ということになると、あくまでも対等」
ということで、
「お互いに、ざっくばらんな話をしよう」
といっても不思議なことではなかった。
それを踏まえたうえで、お互いに、
「松島の元女房である、
「杉下さつき」
が、初範の母親ということで間違いないということになったのだ。
そうなると、松島は、和子との手前、
「初範に本当のことをいうわけにはいかない」
ということで、この話はここまでということにした。
それにしても、
「本当にこんな偶然があるというのか?」
ということを松島は考えていた。
「一言話すだけで、今の関係者全員がつながってくる」
というような話を、一人で抱え込んでいるということだ。
それを考えると、
「隠し続けることの難しさ」
というものを、今さらながらに感じさせられた。
その時、松島が考えたのは、
「今の俺の思いを、かつて、さつきはしたのではないか?」
ということであった。
どんどん先に進んで、旦那を置いてけぼりにして、旦那が。
「このままでは危ない」
ということに気づき始めた時は、嫁さんは、
「二度と帰ることのできない三途の川を渡ってしまっていた」
ということだったのだ。
「相談してくれればよかったのに」
ということで、何度悔やんだことだろう。
「勝手に先に進むなんて許されない」
ということで、嫁さんを恨んだこともあった。
しかし、実際には、
「嫁さんが悪い」
というわけではなく。
「そのことに気づかなかった俺が悪かったんだ」
ということであった。
「結局、俺が苦しめたんだよな」
と思うと、自分も反省というものを十分にする必要があるということであった。
そして、今の自分の立場を考えると、
「今の俺が誰を気にしないといけないのか?」
と考えた時、
「和子のことだ」
と感じた。
実際に、
「相思相愛」
だと思っている。
確かに最初は、
「見合いを断る口実だ」
と思っていたが。そうではない。
「明らかに俺を好きになってくれたんだ」
という思いが強いのだ。
結婚するかどうかは分からないが、いずれは、母親の洋子に遭うことになるというのは間違いない。
その時、
「俺はどう対応すればいいのだろう?」
という思いに駆られた。
その時感じたのは。
「俺は、和子の後ろに洋子の幻を見ているのではないか?」
という思いであった。
ただ、雰囲気や表情が似ているといって。
「洋子の生き写し」
ということではないようだ。
洋子という女は、実際に会っていないので、今の和子を見ていて感じるだけだ。
ただ、
「今なら、洋子と会ったとしても、問題がない気がする」
と思えた。
あくまでも、過去の女ということで、
「自分の中で、タイムリープが、洋子を通して完成している」
と思えていたのだ。
しかし、
「初範はさつきの息子」
ということは分かっているが、
「和子が洋子の娘だ」
という確証はない。
その証拠に、それから少しして、和子と二人で歩いている時、
「和子の母親」
という人に遭ったが、明らかに別人で、お互いに、挨拶が、
「初めまして」
ということであった。
ただ。母親は、
「二人が交際している」
ということに気づいたようだが、その件に関して何も触れようとはしなかった。
「まさか、洋子は、一瞬にして気づいたのだろうか?」
と思ったが、実際には、
「その瞬間が、洋子にとっての、自分との決別の瞬間だった」
ということではないかと思ったのだ。
「あの時、本当に俺から別れを告げて離れていった洋子。あれは、本当の決別ではなかったのかも知れない」
という思いである。
「そうでなければ、自分が和子に惹かれることも、和子が自分に惹かれることもなかっただろう」
ということで、
「偶然というものが、一人の感情によって、その場面の状況というものを決めるのではないのだろうか?」
と、松島は考えていた……。
( 完 )
一感情全偶然 森本 晃次 @kakku
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