・神喰らいの渡り人~還らぬ神々を喰らい還す。それが俺(私)の役割~

最上 みつ

第1話 死、そして融合

 重い扉を開けると、そこにあったのは“救済”ではなく“絶望”だった。

 もうすぐそこまで復讐者が来ているのに眼の前にある屍は動く気配はなく。眠っている。


 村人の死は、両親の死は、繋げてくれた生は何のために――


”――これの為に?”


 困惑と絶望が渦を巻いていると……。


“ドスッ”


 重音がした。


 背中が燃えるように熱い。乱れる呼吸でゆっくり視線を下げると胸から刃先が出ている。


「チッ! こんな洞窟の奥にまで逃げやがって。」

「なんだこの粗末な祭壇は。お前らはこんな物を崇めてたのか?」


 背を蹴られて胸から出ていた刃先が消える。代わりに血が穴を埋めるように流れ出る。


 そして温もりも何も無い冷たい屍の上に倒れ込む。


 家族との思い出、村での幸せな暮らし……色々な記憶が溢れてくる。走馬灯だ。

 母さんのシチュー大好きだったけど熱くて毎回舌火傷してたんだっけ。

 父さんのあの大きな手で撫でてくれるのが嬉しかったんだっけ。

 兄さんから教わった剣術、披露することなく終わったな。

 どれも幸せだったな。


『――記憶を媒介に私を喰らい還すのか。承知』

 

 誰の声――

 突如、身体の奥から熱が湧き上がるのを感じる。


 目が痛い、いや背中が痛い、いや頭が熱い、手が指が足が――


 ――全てが痛い。


「「「「「「「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」

 


 苦痛に悶えていると、突如として痛みが消えた。そして――


 ――私は今目を開けていない、なのに水の流れを、草木が揺れる風を、地に響く音を、火の輝きが“視える”


 数多の情報が注入――いや“接続”されているのが分かる。

 だが処理が追いつかない。全ての音や声が爆発的に爆ぜては消える。

 世界がモノクロになり色が付き、また変化する。

 視界が回転する。


 「く、喰ってる……」


 先程の復讐者の声だ。

 だがそれを境目に意識が薄れる。


 『ごきげんよう、何やら興奮の冷めない様子で』


 私の声だが、私は声を発していない、なら今発しているのは……


 『私は今腹が空いている……さぁ! 初めの晩餐と逝こう』



 「ば、化け物があ!」


 復讐者達は震える手で矢を放つが、あっさりと手で受け止められる。

 そして“ナニカ”はそれを口に放り込む。


 『道具ではラマト(※魔力)が薄いな!』


 復讐者達は一瞬驚きの表情を浮かべ、すぐ戦闘態勢を取る。

 前衛の四名が連携の取れた動きでナニカに斬りかかり、後衛の二名が詠唱を開始する――。


「チぃ! はええ!」


 前衛の刃がナニカの喉元に届きそうになるが、刃は空を裂く。


『大人しく喰われる気はないのですか?』


 ナニカの問いかけに対し復讐者は剣の一振りで返答する。


 『そう、ですか……ああ、お腹が空いて空いて……空きすぎて! 死んでしまいそうです……』


「ならば潔く死ねえ!」


 前衛の一名が一線を画すオーラを放つ剣で突撃する。


 『(付与属性魔法!! ごちそうです!!)』

 『さあ! 食事としましょう!』


 ナニカは目を見開き空間から“大きな口”を召喚した。


 「は――?」


“グシャ”


 一瞬で突撃してきた復讐者の上半身が喰われた。

 そして残された下半身の倒れる音を最後に静寂が響く。


「――っ?!」

「な、なにが?!」


 前衛たちが呆気にとられていると、後ろから声が響いた。

 

【孤影の拘束!!】

【最霊たる古光の閃乱!】


後衛たちが詠唱を終わらせて魔法を放ったのだ。


 「一人やられたくらいで怯むな! 数で勝ってるんだ、我々が拘束している間に……」


 だが魔法の爆風で生じた土埃が晴れると、そこには何者も居なかった。


「(ど、どこに……拘束魔法は確かに発動したはずだ、なら奴は今――)」


『ごちそうさま』


拘束魔法を放った後衛が振り返る――。


“グシャ”


否。振り返ったはずだった。だがそこにあるのは先程の復讐者と同じ姿をした物だった。


復讐者達に再度戦慄が走る。


『――三角食べは嫌いなので、全員で来ていただいてもいいですか?』


「く、くそがああ!!」

「死に晒せええ!」

「うがああ!!」


「ま、待て! 冷静になれ! 対策を!」


最後の後衛が声を出したが興奮状態の彼らに届くはずもなく……ああ


”グシャ”

”バキッ”

”ガギッゴ”


喰らい終えたナニカが最後の後衛の方へ歩き出す。


「あ、あああああああ!!」


腰の抜けた最後の後衛が地を這いながら出口へと向かう。


だがその出口を塞ぐようにナニカが前に立つ。


『デザートも、食べないとですよね』


「あああ! い、嫌だ! 嫌だ! いやだぁ……」


大きな口が彼を嘲笑うかのようにゆっくりと飲み込んだ。


『――まだ、足りない。だが体力の限界か……』


◆◇◆


 起きるとそこは見覚えのない場所だった。


「(ここ……は?)」


 辺りを見渡しているととんでもない異臭が鼻の奥を刺激した。


「うッ!」


 異臭の方向を見ると何かが爆ぜたかのようは血溜まりと肉片があった。


「何だこれ……そもそも私は何故ここに……」


「「――――誰だ」」


 思い出せない、自分が何者なのかを。名前を、過去を、全てを。


 無理やり思い出そうとした時、異臭からなのか拒絶反応なのか吐き気が込み上げてきた。


「お、おええええええ!!!」


自分の吐瀉物を見て驚きを隠せない。


「――ッ!!」


 指だ、それも人間の。元々ここにあったんじゃない、確かに私の胃から出てきたものだ。


『ラマト(※魔力)を吐くな、もったいない』


突如、正面から声がした。


「だ、誰だ!」


 顔を上げるとそこには自分がいた。


「じ、自分?」


『顔だけだな』


「ど、どうなって――」


 聞く前に私と瓜二つの”そいつ”はしゃがみ込み、私が吐いた指を喰らった。


「は、え、な、なに喰ってんだよ。人の指だぞ!」


『喰ったものが人の指なのか何なのかなど、どうでもいい。あの戦闘でラマトが極端に減った、今の目的はラマトの回復だ。』


「は?何言ってるんだよ」

「(ラマト? 戦闘? 何を言ってかはわからないが……こいつが変態殺人鬼なのは分かった。とにかくこの場から逃げなくては)」


 私が脱出方法を考えていると、不意に”そいつ”は辺りを見回し初めた。


『薄くはなっているが、まだ散らばった肉片にもラマトを感じる……まだ喰えるか』


 その時妙案を思いついた。


 ”そいつ”が肉片に向かって歩き出した時――


「(今だ!)」


 私は全力で出口に走り出した。

 ”そいつ”は口封じに私を追いかけてくると思ったがそんな気配は一切なかった。


「(なんなんだこいつ、なぜ追いかけてこない……)」


 後ろを振り返って見れば、”そいつ”は肉片を口に入れて頬を赤らめていた。


「(変態の考えは分からないもんだ……)」

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