失われた日常から始まる魔王討伐録〜俺は復讐の旅に出る〜

くどゆー

序話 炎の記憶

グリーンヒルは、朝になると必ず金槌の音が響く村だった。

そこに、十四歳の少年アルト・ファルナスは住んでいた。


「アルト! また寝坊したの!?」


母の声で目を覚ます。いつもの朝だった。


「ごめん、今起きる!」


慌てて服を着て、階下に降りる。

父のガルスは鍛冶屋を営んでおり、朝から金槌の音が響いていた。


「おはよう、父さん」


「おう、アルト。今日も手伝ってくれるか?」


「もちろん!」


アルトは父の仕事を手伝うのが好きだった。真っ赤に熱された鉄を叩き、形を作っていく。その過程が、何とも言えず楽しかった。

昼過ぎ、幼馴染のエミリアが工房にやってきた。


「アルト、今日も働いてるの?」


「ああ、父さんの手伝いだよ」


エミリアは村長の娘で、アルトとは小さい頃からの友達だった。明るく優しい少女で、村の誰からも愛されていた。


「ねえ、午後は一緒に丘に行かない? 今日は天気もいいし」


「いいね。父さん、午後は休んでいい?」


「ああ、行ってこい。若いうちは遊ぶのも大事だ」


二人は村の外れの丘に登った。

そこからは村全体が見渡せる。


「いい景色だね」


「ああ。ずっとこの景色を見ていたいな」


「アルトは、将来どうするの? お父さんの後を継いで鍛冶屋になる?」


「うーん、まだ分からないけど……でも、父さんみたいな立派な鍛冶屋になりたいとは思ってる」


「そっか。私は、村のみんなを守れるような人になりたいな」


「エミリアらしいね」


二人は笑い合った。

平和な日常。それは、永遠に続くと思われた。

しかし。その夜。

全てが変わった。


警鐘が鳴り響いた。


「魔物だ! 魔物の群れが村に!」


アルトは飛び起きた。

外に出ると、村は既に混乱に陥っていた。

無数の魔物が村を襲っていた。そしてその背後には、巨大な影。


「逃げろ! 皆、逃げるんだ!」


村長が叫んでいる。

アルトは家に戻ろうとした。父と母が心配だった。

しかし、その時。

村の中心部で、巨大な爆発が起きた。


「な、何だ……!?」


炎が舞い上がる。家々が次々と燃え上がっていく。


「父さん! 母さん!」


アルトは必死で家に向かって走った。

だが、家は既に炎に包まれていた。


「アルト! こっちだ!」


父の声が聞こえた。煙の中から、父と母が飛び出してきた。


「父さん! 母さん!」


「アルト、無事か!」


「うん! でも、村が……」


その時、巨大な影が三人の前に立ちはだかった。

それは、人間ではなかった。

影が一歩踏み出しただけで、空気が、重くなった。


「……邪魔だ」


男は一言だけ呟いた。そして、戦斧を振るった。


「アルトォォォ! 逃げろ!!」


父の声に、体が勝手に動いた。

突き飛ばされ、地面に転がる次の瞬間。

視界が、赤く染まった。音が、なかった。

ただ、父と母が倒れていくのが見えた。


「ウソだ……ウソだろ……!?」


アルトは立ち上がろうとしたが、体が動かなかった。


「これで終わりだ」


斧が振り下ろされる。アルトは目を閉じた。

しかし、衝撃は来なかった。

代わりに、村全体を揺るがす爆発が起きた。

その一撃が、村の中心部を直撃したのだ。

瓦礫が降り注ぎ、視界が闇に沈む。


その直前。

確かに、聞こえた。


「――アルト!!」


エミリアの声だった。

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