百合好きの私がモブ奴隷に転生し、推しに『薄い本』のように夜通し犯されて解釈違いに悶絶する

駄駄駄

第1話:百合ゲーのモブ奴隷に転生しました

 聖アルテミス女学院の夜は、死の静寂と、冷たい石造りの美しさに支配されている。大陸最高峰と謳われ、各国の王侯貴族がこぞって愛娘を預けるこの学び舎は、夜の帳が下りる頃には「純潔の棺」へと姿を変える。白亜の壁に囲まれた巨大な箱庭。


 ここでの6年間は、少女たちが結婚という名の取引において「最高級の品質保証」――すなわち、一分の隙もない教養と、揺るぎない純潔を維持するための、美しくも残酷な加工期間に他ならなかった。


 その清廉なる寄宿舎の回廊を、ハナ・シュタインベルグは震える足取りで歩いていた。腰まで届く漆黒の長髪。前髪は両目を完全に覆い隠し、彼女の表情をこの世から遮断している。


 前世の記憶を持つ彼女にとって、この姿は『モブ』としての隠れ蓑だった。目立たず、関わらず、ただこの世界の物語が至高のハッピーエンドへと向かうのを、観客席の隅で眺めていたかった。


(……どうして、こうなったの)


 ハナは自身の胸元にある、特待生の記章を握りしめた。この学院には「特待生制度」という名の、あまりにも残酷な生贄のシステムが存在する。成績上位10位以内に食い込めた貧乏貴族や平民の娘に、学費全額免除という飴を与える代わりに、夜の入浴から朝の湯浴みにかけて、高貴な生徒の「奉仕」を命じる制度。


 だが、その実態は、男子禁制の檻に閉じ込められた少女たちが、行き場のない性の欲求をぶつけるための『合法的奴隷』の供出だ。


 特待生という身分を失うことは、ハナにとって死を意味する。学院を追放されれば、待っているのは家門の破滅。そして、借金の形として売られる場末の娼館だ。そこで待つのは、脂ぎった男たちの手で使い潰されるか、あるいは路上で物乞いをしながら、道行く男たちに獣のように犯される凄惨な末路。その恐怖を、学院の「巡回兵」――筋骨隆々とした、だがどこか歪んだ瞳をした女たち――から、入学時に幾度となく刷り込まれてきた。


(逃げられない。……私はここで、石ころになって耐えるしかないんだ)


 ハナは、重厚な彫刻が施された扉の前で立ち止まった。その扉の主は、彼女にとっての「最推し」だった。


 リア・ド・ラ・ヴァリエール。公爵家令嬢にして、3年生でありながら異例の若さで生徒会長を務める、氷の彫刻のような美貌を持つ「純潔の守護者」。ハナが前世で愛した乙女ゲームの世界において、リアは光り輝くヒロイン、ノアと結ばれるべき至高の存在だった。


 『リアノア』。その二人のカップリングは、ハナにとって侵してはならない聖域だ。今はまだ二人の関係は停滞しているかもしれないが、いつか必ず二人は結ばれ、大陸で最も美しい愛の物語を完成させるはずなのだ。


(私が、リア様の汚れを吸い出す。私が泥をかぶることで、リア様の純潔を守るんだ。……そうすれば、いつかノア様と結ばれる未来が守られる……!)


 そう自分に言い聞かせ、ハナは冷たい金属のドアノブに手をかけた。



 ◇



 扉が開いた瞬間、鼻腔を突いたのは、濃密な薔薇の香りと、どこか湿度を帯びた「女の熱」だった。


 部屋の中央。大きな天蓋付きベッドの傍らで、リア・ド・ラ・ヴァリエールは立っていた。昼間の厳格な制服姿ではない。透けるような薄いシルクの寝衣一枚を纏い、解かれた銀髪が月光を浴びて妖しく揺れている。


「遅いわ、特待生」


 その声は、昼間の凛としたものとは似て非なる、粘つくような熱を帯びていた。  ハナは反射的に床に膝をつき、深く頭を垂れた。長い前髪がカーテンのように視界を塞ぐ。見たくない。推しの乱れた姿など。


「申し訳……ございません……奉仕に、参りました……」


 震える声で告げた。リアのもとへと震える足を引き摺るように歩み寄った瞬間。ハナの後頭部に、激しい衝撃と痛みが走った。


「――っ!?」


 リアが、ハナの長い黒髪を、一掴みにしたのだ。細く、だが鋼のように強い指が、容赦なく根元から髪を巻き取り、力任せに上方へ引き絞る。


「あ、が……っ!?」


 首が強制的に反らされ、ハナの顔が剥き出しにされる。前髪が割れ、涙に潤んだ両目が、冷笑を浮かべるリアの碧眼と衝突した。


「よく見せてちょうだい。……その、家畜のような、陰気な瞳を。……お前、今日は一度も私と目を合わせなかったわね?」


「り、リア様……っ。いた、いです、放して……っ!」


「痛い? 嬉しい間違いでしょう。……お前はこの学院に拾われた、名もなき道具。……道具が、持ち主に触れられて、拒む権利があると思っているの?」


 リアはさらに力を込め、ハナの髪をぐいと引き寄せた。頭皮が引き千切られるような激痛に、ハナの視界が火花を散らす。リアは屈み込み、ハナの耳元にその唇を寄せた。


「聞きなさい。……私は今、酷く苛立っているのよ。……あの子、ノアは、相変わらず私の手にも触れようとしない。……清廉で、無垢で、触れれば壊れてしまいそうな……ああ、なんて苛立たしい聖女様かしら」


 ハナの心臓が、恐怖で跳ねた。推しの口から漏れる、ノアへの歪んだ独占欲。そして、それを処理するために自分が選ばれたという、救いようのない現実。


「ダメ……です。リア様、そんな……そんなこと、おっしゃらないで……。ノア様は、あなたを信じて……っ。あなたも、ノア様を、大切に思ってらっしゃるはずです……! 私のような者で、あなたの……あなたの気高さを汚さないで……っ!」


 ハナは必死に、全力で抵抗した。手首を掴み、リアの腕を押し戻そうとする。だが、髪を掴まれている弱みはあまりにも大きく、動くたびに激痛が彼女をベッドへと這わせる。


「気高さ? 純潔? ……そんなもの、この檻の中ではただの重荷よ」


 リアはハナをベッドに押し倒し、その上に馬乗りになった。ハナの黒髪は未だにリアの手の中にあり、彼女が動こうとするたびに、暴力的な力で制止される。


「お前は、ただの器。……私がノアにぶつけられない、このドロドロとした『澱』を、すべて注ぎ込ませるための、使い捨ての肉よ。……お前のその、必死な拒絶。それが私をどれほど昂ぶらせるか、分かっているのかしら?」


「嫌だ……っ! 放してください! 私は、あなたにこんなことをしてほしくない! ……ノア様との物語を、壊さないで……っ!」


 ハナは泣き叫びながら、もがいた。だが、リアの冷たい手が、ハナの制服の合わせ目にかけられ、無残な音を立てて引き裂いた。露わになった白い肌に、深夜の冷気が触れる。ハナは絶望した。自分の抵抗など、この公爵令嬢にとっては、単なる心地よい余興に過ぎないのだ。


「いいわ、もっと拒みなさい、ハナ。……お前が必死になればなるほど、私はお前を壊したくなる。……ノアには決して見せられない、この醜い私を、お前だけが受け入れるのよ」


 リアの顔が近づく。ハナは目を閉じ、奥歯を噛み締めた。直後、首筋に鋭い痛みが走った。リアが、獲物を仕留める獣のように、ハナの柔肌に深く歯を立てたのだ。


「あぁああああかっ!」


 髪を掴まれたままの蹂躙。リアの指先が、ハナの身体の奥深くへと侵入してくる。  ハナは全力で身体を捩り、逃げようとした。だが、リアはその度に髪を強く引き、ハナの自由を奪う。髪を引っ張られる痛みと、強制的に引き出される不快なまでの快感。脳が、恐怖と快楽の境界線で悲鳴を上げている。


(……汚れていく。……私が、リア様を汚している。……私が、リア様を……ノア様にふさわしくない女に変えていく……!)


 その罪悪感こそが、ハナにとって最大の拷問だった。自分のようなゴミが、至高の推しの「初めての悪徳」を奪っている。リアの激しい喘ぎ声が、密室に響き渡る。彼女がハナを求めるたびに、ハナの「聖域」は粉々に砕け散っていく。


「ハナ、ハナ……っ。お前の髪、本当に嫌な匂い……。……泥と、絶望の匂いがするわ。……だからこそ、私が上書きしてあげなくてはね」


 リアの執着は、常軌を逸していた。彼女は、ハナの身体に消えない痕を刻みつけるように、何度も、何度も、その指先と舌で彼女を蹂躙した。ハナの意識は、次第に朦朧としていく。泣き叫ぶ気力すら奪われ、ただ、髪を掴まれたまま揺さぶられる人形のように、彼女はリアの熱を受け入れ続けた。



 ◇



 どれほどの時間が過ぎたのだろうか。


 窓の外、白亜の壁に切り取られた夜空は、深淵のような紺碧から、白濁とした薄明へとじわじわと色を変え始めていた。ハナの意識は、激痛と快感、そして底なしの罪悪感の荒波に揉まれ、もはや自身の輪郭さえ定かではない。ただ、後頭部には執拗に髪を掴まれ、引き回されたことによる鈍い痺れが居座っている。


「……あ、……ぁ……」


 掠れた声が、ハナの唇から漏れる。彼女を組み敷いていたリアは、ようやくその欲望の嵐を収めたのか、ハナの細い首筋に顔を埋めたまま、規則正しい、だがどこか悦びに満ちた熱い吐息を漏らしていた。リアの手は、未だにハナの黒髪を離さない。それどころか、愛おしい宝石でも愛撫するように、指先でその毛束を弄り、時折思い出したように強く引き絞る。


「……ハナ。お前の髪は、本当に便利ね。……こうして掴んでいるだけで、お前が私の所有物だという実感が、指先から伝わってくるわ」


 リアの低い囁きが、ハナの脳髄を直接揺さぶる。彼女は3年生。6年制のこの学院において、生徒会長という重責は最高学年である6年生が担うのが不文律だ。それをわずか3年で勝ち取ったリア・ド・ラ・ヴァリエールという少女の異質さ。その圧倒的な才気と家柄、そして「純潔の守護者」としての仮面が、今この密室で行われた惨劇をより一層おぞましいものにしていた。


「……リア、様……もう、朝が……。湯浴みの、準備を……」


 ハナは、震える声で義務を果たそうとした。特待生として、主人の一日の始まりを整えなければならない。それが終われば、ようやくこの地獄の部屋から解放される。


「そうね。……でも、その前に」


 リアはゆっくりと身体を起こすと、ハナの髪を掴んだまま、彼女を強引に引きずり上げるようにして座らせた。ハナの制服は見る影もなく引き裂かれ、露出した肌には、リアが刻みつけた赤い「証」が、惨めに散らばっている。


「……鏡を見てごらんなさい、ハナ」


 リアが指差した先には、豪奢な装飾が施された全身鏡があった。そこには、銀髪を乱し、恍惚とした表情を微かに残した美しき公爵令嬢と――その足元で、髪を掴まれ、光を失った瞳で震える、ボロ雑巾のような1年生の少女が映っていた。


「……これが、お前の真の姿よ。……学院のみんなが憧れる『聖域の騎士』。その裏側で、私に髪を引かれ、鳴かされるだけの、名もなき特待生。……ノアは、決してこの光景を知ることはない。……お前が、私をこんな風に汚したのだからね」


「……っ、ちが、……私は、……っ」


 ハナは否定したかった。私はあなたを汚したかったんじゃない。あなたを守りたかったんだ。ノア様との幸せな未来を、汚されないように、私が泥を引き受けたはずだったのに。なのに、リアの口から出る言葉は、すべてハナの心を切り裂く刃となる。


「……さあ、奉仕を続けなさい。……私の身体を、綺麗に清めて。……お前が付けた不純な熱を、すべて洗い流してちょうだい」


 リアは冷笑を浮かべ、ハナの手を離した。解放された髪の根元がズキズキと痛む。ハナは這うようにして浴室へと向かい、蒸気の中でリアの身体を洗った。滑らかな肌。一分の隙もない美しさ。その肌に触れるたび、ハナの指先には、数時間前までその身体を貫いていた暴力的な熱の記憶が蘇る。


 湯浴みを終え、リアが完璧な「生徒会長」の制服に身を包んだ頃、窓の外には冷ややかな朝陽が差し込んでいた。ハナは、リアから与えられた予備の簡素な服に着替え、前髪を整えて再び目を隠した。先ほどまでの熱狂が嘘のように、リアは冷淡な「純潔の守護者」に戻っていた。


「……昨夜のことは、誰にも漏らすな。……もし口を開けば、お前だけでなく、シュタインベルグ家そのものを大陸から消し去ってあげるわ」


「……はい、……承知いたしました……」



 ◇



 部屋を出たハナを待っていたのは、冷たい廊下の空気と、学院の「日常」だった。足元はふらつき、身体の芯には消えない重みが残っている。それでも彼女は、1年生の寄宿舎へと戻らなければならない。


 だが、運命はどこまでも残酷だった。中庭の回廊で、ハナは見てしまった。


 清々しい朝の光を浴びながら、歩いてくる二人の少女を。一人は、先ほどまで自分を蹂躙していた、銀髪の騎士――リア・ド・ラ・ヴァリエール。そしてその隣には、眩いばかりの金髪をなびかせ、聖母のような微笑みを湛えた少女――ノア。


 リアは、ノアの歩調に合わせてゆっくりと歩き、その表情には、先ほどの狂気など微塵も感じさせない、穏やかで高潔な慈愛が宿っていた。


「リア様、昨夜はよく眠れましたか? 生徒会の仕事が立て込んでいたようですが……」


 ノアの鈴を転がすような、清らかな声。それに対し、リアは優しく目を細め、ノアの肩にそっと手を添えた。


「ええ、ノア。……おかげさまで、とても安らかな夜を過ごせたわ。……お前のことを考えていたからかしらね」


 ハナの耳に、その言葉が突き刺さる。安らかな夜? 私の髪を掴み、絶望の悲鳴を上げさせながら、泥のように私を貪ったあの時間が、彼女にとっては「ノアを想う安らかな時間」だったというのか。


(……ああ、……あ……)


 ハナは柱の影に隠れ、口元を抑えて蹲った。目の前で繰り広げられる、完璧な「リアノア」の光景。学院中の誰もが称賛し、憧れる、至高の聖域。


 だが、ハナは知ってしまった。リアがノアに向けるその清廉な微笑みの裏で、彼女の爪には、今もハナの背中を掻きむしった感触が残っていることを。リアの唇が、ノアに優しい言葉を紡ぐその裏で、数時間前にはハナの首筋に獣のように噛み付いていたことを。


 ノアの純真な瞳は、何も知らない。自分の信じる「完璧なリア」が、夜な夜な一人の1年生の髪を掴み、その尊厳を踏みにじることで理性を保っているなど、夢にも思わないだろう。


(私が……壊したんだ。……私が、この美しい絵画の裏側に、拭いきれない汚物を塗りたくったんだ……)


 ハナは、自身の爪が手のひらに食い込むほどに握りしめた。リアとノアが仲睦まじく去っていく後ろ姿を見送りながら、ハナの心は、自分という「不純物」が存在することへの激しい嫌悪感と、それ以上に、リアの熱を思い出して震えてしまう自身の身体への絶望に塗りつぶされていく。


 ハナ・シュタインベルグは、この眩しすぎる「聖域」の影で、髪を掴まれ、泥を啜り、推したちの物語を裏側から支え続ける「生贄」として生きていくのだ。


 チャイムが鳴り響く。新しい一日が始まる。だが、ハナにとっての朝は、もう二度と訪れない。


(……ごめんなさい、ノア様。……ごめんなさい……リア、様……)


 前髪の下で、誰にも見られることのない涙が、乾ききった床に点々と落ちた。ハナは、痛む身体を引きずりながら、自分を待つ1年生の教室へと、暗い足取りで歩き出した。


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