元日という日

口羽龍

元日という日

 2026年1月1日、また新しい年が明けた。誰もが新年のお祝いムードで沸き立っている。全国各地でおせちが食べられ、神社には初詣で多くの人が訪れる。誰もが新年を迎えていい気分になっている。


 だが、2024年以降、能登半島の人々にとっては、元日はもう1つ大きな意味を持つようになった。2024年1月1日、元日に起こった能登半島大地震だ。新しい年を迎え、誰もがお祝いムードにあった中で起こった大きな地震。新年の祝賀ムードが一気に吹っ飛んだ。そして、輪島が大きな火災に見舞われ、多くの家屋が倒壊した。まるで13年足らず前の東日本大震災のようだった。地震によって、多くの人々が亡くなった。それ以来、能登半島の人々にとって、この日は大切な日にもなった。


 中村達郎(なかむらたつろう)は輪島に住む老人だ。すでに子供たちは家を出ていき、1人暮らしだ。ちょうど2年前までは妻、清美(きよみ)がいた。だが、清美は能登半島大地震で犠牲になった。達郎はそれ以来、1人暮らしだ。それだけではない。火災で実家を失い、仮設住宅で暮らす日々だ。あの日、子供たちが安否を確認しに来て、久々に会いに来てくれた。だが、それ以後は全く帰ってこない。とても寂しい日々だ。


 達郎は目を覚ました。また信念が迎えた。それは、能登半島大地震から今日で2年が経つという事だ。去年の正月もそうだった。そして、その後も正月もそうなる。


「達郎さん、新年おめでとう!」


 大きな声とともに、隣の仮設住宅の村井がやって来た。村井は笑顔だ。今年で2年なのに、どうして笑っていられるんだろうか? お祝いムードにはまだまだ程遠い生活なのに。


「明けましておめでとう!」

「今年もよろしくね!」


 達郎は少し笑みを浮かべた。あまり喜んでいられない。完全に復興してから本当の笑顔を見せたいな。


「こちらこそ、今年もよろしくね!」


 達郎は海を見た。そしてあの日を思い出した。地震が起こった時、繰り返し聞いた事がある。津波に気を付けろという事だ。そしてよく言われていたのが、「東日本大震災を思い出してください」だ。あの時は逃げるのに必死だったな。清美の事なんて考えている暇がなかった。


「また元日がやって来たのか」

「そうね。本当なら祝いたいのに」


 村井もお祝いムードにはまだまだ程遠いと思っていた。普通の家に暮らせてこそだと思っていた。いつになったら元の生活が戻ってくるんだろう。全くわからない。その日を待つしかない。


「どうして元日に地震なんて起きなくちゃいけなかったんだ!」


 達郎は泣きそうになった。どうして元日というお祝いムードいっぱいの日に自信が怒らなければならなかったのか? 神様、教えてよ。だが、その声は全く神様に聞こえない。どんなに問いかけても、答えが返ってこない。


「仕方ないよ。自然には逆らえないもの」


 村井は達郎の肩を叩いた。あまりにも悲しい。どうしてこんな元日になってしまったんだろうか? 全く答えが見つからない。


「だけど・・・」

「その気持ち、わかるよ」


 達郎の気持ちは、村井にもわかる。元日というめでたい日にこんな事が起こってしまったのだ。正月の特番がみんな能登半島大地震関連のニュースになってしまった。楽しみにしていた人は多かった。だが、それがみんななくなってしまった。それらの特番は、後日に放送されたそうだ。


「どうして、輪島がこんな目に遭わなければならなかったんだろうか?」

「わからないよ・・・」


 村井も外を見た。外がどんどん明るくなっていく。新しい年の幕開けだ。今日は思いっきり祝おうじゃないか?


「今年も寂しい正月なんだね。おめでたいけれど、喜んでられないよ。息子は帰ってこないし」


 達郎は、子供たちが帰ってこないのを気にしていた。みんな、仕事で忙しいそうなのだ。あまりにも残念でたまらない。だけど、子供たちが頑張っているんだから、自分も頑張らなければという気持ちになる。


「しょうがないじゃないの。天には逆らえないもの」

「だけど・・・」


 と、村井が達郎の肩を叩いた。達郎は驚いた。


「今日は一緒に祝いましょうよ」

「そうだね」


 達郎は、村井の部屋に入った。テーブルには、おせちやお雑煮が並んでいる。テーブルの周りには、近くの仮設住宅に住む老人たちがいる。とても賑やかな日々だ。みんな、笑顔を見せている。だが、心の中ではまた元日が来たんだという気持ちになっている。みんな、能登半島大地震が忘れられないようだ。


 達郎はテーブルに座った。


「新年、明けまして、おめでとう!」

「おめでとう!」


 それとともに、彼らはおせちを食べ始めた。まるで、おととしに賑わいが戻って来たようだが、まだまだそうとは言い難い。


「さぁさぁみんな食べて!」

「ああ」


 達郎もおせちを食べ始めた。とてもおいしいな。天国の清美には申し訳ないけれど、清美よりおいしいんじゃないかな?


「達郎さん、おいしい?」

「うん! だけど、清美が作ってくれるおせちがいいよ」


 だが、清美が作るおせちの方がおいしいと思っているようだ。どうしてだろうか? 愛情がこもっているからだろうか?


「その気持ち、わかるよ。でも・・・」

「もういいんだよ!」


 村井は笑みを浮かべた。みんながいるじゃないか。みんながいれば、とても楽しいじゃないか。


「大丈夫大丈夫。みんながいるから」


 それでも、達郎は寂しい。子供たちがいないからだ。孫たちにも会いたいのに、今年もまた会えない。だけど、みんながいる。だから、寂しくない。今日は元日なんだ。思いっきり祝おうじゃないか。


「やっぱり妻や子供と一緒がいいもんな。よくわかる」

「私の子どもも帰ってこないのよ」


 達郎の隣に座っている川瀬の子供たちも帰ってこないのだ。とても寂しい正月を迎えている。だからこそ、近所の人々と一緒におせちを食べて、新年を祝っている。


「そうなんだ・・・」


 達郎は、地震前の輪島を思い出した。あの頃は活気に満ちていたな。だけど、一瞬にしてその時の活気は失われてしまった。どうしてこんな事になってしまったのか? どんなに質問しても、答えが返ってこない。


「また、みんなが輪島に帰ってきて、一緒に楽しくおせちを食べる正月が来る日は来るのかな?」

「早く来てほしいよ」


 村井も同じ気持ちだ。輪島が復興するのは、いつになるんだろう。早く復興してほしいな。そして、再び朝市に活気が戻ってほしいな。


「だよね」

「いつになったら、元の能登に、元の輪島に戻るんだろう」


 いつの間にか、みんなが輪島の事を考えていた。みんな、輪島出身で、火災で家を失った。家族を亡くした人もいた。寂しいけれど、生き抜いて復興を見届けなければ。


「わからないけれど、その日を待とうよ」

「そうだね」


 そして彼らは、再びおせちを食べ始めた。1日でも早く輪島が、そして能登半島が復興する日を願いながら。

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