第十七話 天人、威迫を弄す

かぐや姫処刑まで、あと五年―――月の都、王宮、執政室にて


 既に王家側の拠点は制圧され、武器、航空機なども接収、破壊され、無力化が完了していた。これを受け、王宮の執政室では、帝国の版図拡大、その初陣となる地球侵略に向けた軍団の編成会議が行われていた。


 帝国の初陣は必ず勝利で飾らなければならない―――


 そのような考えのもと、ディランが作成した編成計画では月の都の主力部隊も編入されている。未開の地との戦闘を想定したものとすれば、明らかに過剰な戦力。この軍備一覧を見て、アシャディは難色を示す。

「あのような未開の地にこれほどの軍勢を?」

「おっしゃる通り、過分に見える戦力ですが、今後の版図拡大を考えれば我々の力を顕示しておくのが好手となりましょう。相手を委縮させ、恭順の意を示させ、のちのち臣従させる。逆らえばどうなるか……ここでの大胆な手こそ、最も効率のいいやり方となります。」

「月の都の防備が手薄になるのでは?」

「親衛隊の他、反乱軍の鎮圧のための戦力は残します。もとより心配はご無用。月の都には結界がありますので」


 月の都は結界と呼ばれる防御機構に守られている。

 結界は月の表層に偽装されているが、光すら通さず、触れた物は一瞬で爆縮させる。この、最強の防衛機構こそ月の都の科学力を宇宙に広く誇らしめている技術であり、悠久の繁栄を支える軍事的威光となっていた。


「それもそうだな」

 根が臆病なカンサですら、このような楽観的な言葉を発する。それほどに、月の都における結界への信頼は高い。


 実は、この結界の操作技術は既に失われている。

 そのため、初代の月の王は地下にある結界発生装置の大きな隙間から、結界外の地表へと大穴を掘削し、宇宙船の発着場を設けた。

 普段はこの発着場から人の出入りや交易が行われているが、現在は謀反軍による厳戒態勢下にある。


「ファニの公開処刑は残党をおびき寄せる格好の餌となります。防備を手薄に見せれば誘い出すこともできるかと」

「残党……そう、まだアンを捕らえることができていない」

 アシャディの表情が苦み走る。ファニの処刑まで、あと4日。

「はい、しかし、亡命をしたとして、ファニを見殺しにしたとなればアンへの失望も高まろうというもの……この作戦に抜けはありません」

「亡命などさせるものか。奴はどこかに潜んでいるはず……二人の首を並べたいのだ。必ずや炙り出せ」


 アンとはファニの従姉妹にあたる人物で、ファニに次ぐ継承権を持っている、ティークス家の姫である。彼女はファニが捕縛される以前よりその消息を絶っており、王家軍の兵士ですらその所在を知らない。

 亡命の形跡もなく、すでに死んでいるのでは、という噂も出ているが、その亡骸を検めるまでアシャディが溜飲を下げることはない。


「攻略の兵器は?」

「はい、防衛用の物を転用しておりますが、穢き地の攻略程度では問題ないかと」

「今はな。兵器生産も急がせねば」

「はい。力を示せば周囲にも我々が本気であることが伝わるでしょう。その後は弱小勢力に兵器を収めさせるのもよいでしょうな」

 ディランの話を聞いて、カンサは頷いている。帝国の版図拡大、それがどんなことをもたらすかについての先見に感心しているようだ。


「———して、軍を率いるのは……」

「ニコス殿が適任でしょう。実績は申し分なし、軍を良くまとめるはずです」

「ニコスと言ったか!?それはならん!」

 カンサが急に怒鳴り出す。


 ニコスは前王の時分から王宮に仕える宿将である。

 ニコスはカンサの元上司であり、幾度も忠言を受け、苦々しい想いをしてきた。謀反を起こした時、ニコスは遠征中であり、「政治は管轄外」と従順に帰順したが、このことすらお前など眼中に無いと言われたように感じていた。


「しかし、では誰に……」

「うむ……」


「モルテが適任でしょう」

 カンサが思案する様子を見かねて、今度はアシャディが口を挟む。

「モルテ殿……王宮制圧時に功があったと聞いておりますが、兵団を率いたことは」

「経験など……戦闘ならば、これからいくらでも積ませられる。それに、そんなことを理由にしていてはいつまでも決まりません」

「……しかし、なぜ」

「モルテは先日の召還にも同行し、現地を見ています。なにより、あやつは小心者ゆえ、大軍を預けるにはうってつけ。反旗を翻そうなど、思いも至らぬ」

「おお……そのようなお考えが……お見それ致しました。しかし万が一、巡航中に妨害を受けるようなことがあれば」

「それこそニコスを前線に配置しておけばよい。移民たちも帯同させ盾としなさい。さすれば、いかなる道理を用いても手を出せなくなりましょう。軍師を名乗るのであれば、このような軍略を提案なさい」

「はっ」

「しかし、モルテなどに大軍団の提督が務まるものなのか……?若すぎるのでは……」

「しつこい。その話は終わり。そんなことよりディラン、式典の首尾は?」

「恐れながら……やはり月の都の情勢には懸念有りと、いずれの盟主も参列を見送らせてもらうとの返答です」

「つまり、我々を認める気はないと」

「明け透けに言ってしまうとそうなります。王家との親交が長い国もありますので、敵対はせずとも、態度を決めかねていると」

「いいでしょう。その判断は後で悔いてもらうこととします」

「しかし、来訪はなくとも放映は行いますので、それをもとに各国が帝国の格を品定めするのは確実。ここでのお二人の立ち振る舞いは非常に重要となります」

 カンサが思い出したように声を上げる。

「そうだ!私が民衆に呼びかけを行うと言っていたな……一体何を言えばいいのだ?」

「はい。ご説明をします。お時間をいただけますか」

「いいぞ」

「では、当日の演台に近いものが用意してありますので、そこで見ていただきましょう」


 退出していく二人。


 アシャディはその背中を、冷たく鋭い眼差しで射抜いていた……

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