オカルトマニアクス ザ・フルーツポンチ

七渕ハチ

第1話

 ぼんやりする頭で田んぼに挟まれた通学路を歩く。両親の離婚により、母親の故郷へ引っ越してきたが、自然が多い風景は何度見ても田舎だなと感想が浮かんだ。


 一方で、山間には風力発電用の風車が回っている。静かな町の為、重低音がいやに響いて少しストレスだった。


 学校まではバスや自転車を使うほどじゃないとはいえ、三十分は歩く。引きこもり人間にとっては良い運動だな。


「あ、おはようございます」


 畑でおじいさんと目が合って挨拶するも、無視で手鎌を振るう作業に戻る。よそ者扱いなのか、それとも偏屈なだけか。これも田舎と諦めて先を行く。


 川沿いに出ると古い一軒家が並びだす。背の高い建物は皆無だが、そこそこの数は存在した。


 山の方向へ曲がった先は町のメインストリートだ。赤と白に青のサインポールが置かれたり、すっかり日に焼けた丸い形の郵便ポストが子供ながらになぜか郷愁を誘う。チェーン店ですらないコンビニが人気で、ちらほら飲食店もあるため一部を切り取れば都会面も……難しいか。


 聞いたところによると、うなぎ料理店はマニアに人気らしい。川にいる天然ものはほぼ使われず、山中で行われる養殖が供給元だとか。完全養殖ができれば少しは活気が生まれるかな。


 正面へ抜けてからは自然に囲まれた石の階段を上がった。その途中でお守りが落ちているのを見つけて拾う。書かれていた文字は子孫繁栄だ。


 交番に届ける時間もと考えて、各所に設置される謎の祠にお供えする。大事な物なら探しにくるだろう。


 階段を終えたら広めの道路が現れる。バスが右から左へ走って行き、ヘルメット着用の生徒が自転車をこぐ姿もあった。


 若干の坂を進んで見えてきたのは木々に囲まれた校舎だ。強豪の部活動が頑張っており田舎にしては在校生が多かった。


 若干の霧が覆う門を越えて昇降口で靴を履き替える。正直、遊びたい目的で通うには立地にマイナスが大きく、校舎内は静かな気がした。


 三階まで上がって教室に入る。特に挨拶を交わす相手がいないのは転校のせいと自分を慰め、始まる授業に取り組んだ。


 意外と、というのも変だが偏差値は平均より高い。わりと歴史が長いようだし、そこらへんの影響があるのかも。


 ボッチに加えて落第生の烙印は避けたく、真面目に勉強する。しかし、二科目三科目と経つにつれて眠気が襲った。原因は分かっている。自宅を出る二時間前には起きて準備をしたい性分が悪いのだ。


 目覚ましいらずの身体を叩き直すにも方法が問題で改善は難しい、などと考える間にもうつらうつらと舟を漕ぐ。抗えない夢への誘惑が……。


 黒板の音にハッとすると、授業も知らずのうちに後半へ差し掛かる。負け戦に首を振るも違和感を覚えて股間を触ってみたら、異常な濡れ模様に愕然とした。


 いやいや、まさかと現実逃避をしながら裾を内側にまくり上げて、流れる隙間を失くす。きっと、すぐに気づかれる。指摘されてからでは遅かった。


「先生、夢精したので保健室に行ってもいいですか?」


「え? お、おう……」


 申告後のざわめきを背中に廊下へ出る。あれ、ちゃんと言い訳できたよな?


 保健室では、べたつく下半身を拭いて備え付けのブリーフに履き替える。体操服を着て落ち着くが、しっかり夢精と白状した気がしてきた。


 休み時間の鐘が鳴り、クラスではなんだあいつと話題になっているはずだ。もはやこれまでと遠い目をするところへ、ドアが開く音が聞こえた。


 もう誰かが冷やかしに来たのか。取り繕い方も思いつかず顔を向けると、一人の女子生徒がカゴに入る袋を抱えていた。あの中身は濡れたズボンとパンツ……!


「おい!」


 一瞬の早業に待てすら言えない。走り去るのを意味も分からず、ただただ眺めるしかできなかった。

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