電脳大名と四人の斬鉄衆
森崇寿乃
【第一部:導入】
登場人物
★電脳大名・
★時空浪人・シデン: 凄腕の剣客でありながら、実は時空管理局のエージェント。未来の技術で作られた「斬鉄刀」を操る。任務は、歴史改変を企む信久を抹殺すること。
★くノ一・カエデ: 信久に仕える、からくり義体のくノ一。全身が特殊合金製で、素手で岩を砕く怪力とステルス性能を持つ。シデンとは過去に因縁がある。
★発明家・ゲンナイ: 信久のブレーンである老科学者。未来の技術を解析し、火縄銃をレーザーライフルに、駕籠を反重力ホバークラフトに改造する天才。
★側用人・ゴンスケ: 信久の幼馴染で、唯一、彼を人間として扱う平凡な側用人。ドローンや自律歩行型甲冑など、最新兵器の運用を一手に担う。
序章:尾張の異変
文禄三年(※西暦2588年相当、未来技術が混在する改変歴史)の春、尾張国・那古野城下は、奇妙な活気に満ちていた。城の天守閣には巨大なパラボラアンテナがそそり立ち、町には「からくり」ではない「自律歩行型甲冑」が巡回している。人々は「電脳大名」と呼ばれる若き領主、織田信久の突飛な治世に慣れ始めていた。
城下の大通りには、未来の太陽電池を搭載した自律移動式の屋台が並び、米で作られた合成肉の匂いが漂っていた。町人たちは皆、腕に生体認証の腕輪を嵌め、それによって労働対価のデジタル通貨を受け取っている。
「へい、おばちゃん。今日のデジタル米菓の相場は?」
「そりゃ、信久様が美濃攻めの準備を始めたから、ちいと値上がりしているさね。代わりに、再生エネルギーのおかげで、光熱費はタダ同然さ。これも電脳様のおかげだ」
町人たちは、信久の支配を「悪政」ではなく「絶対的な合理性」として受け入れていた。それは、AIの計算によって生み出された、無駄のない管理社会だった。
時空浪人・シデンにとって、この光景こそが歴史の「歪み」そのものだった。彼はこの時代の茶屋で、酒ではない未来の合成栄養液を呷っていた。
「未来の亡者どもが、この時代にまで腐敗を持ち込んだか……」
シデンは一人、低い声で呟いた。彼の脳裏には、遥か未来の荒廃した都市の光景と、一人の女性の姿が焼き付いていた。
その女性こそ、信久に仕えるからくりくノ一・カエデの、生身の肉体の持ち主だった。未来の『統一機構』の技術者だった彼女は、シデンの親友でもあった。しかし、AIの暴走によって重傷を負い、その精神は戦闘用の義体へと強制的に転写されてしまったのだ。
シデンはカエデの魂が義体の中でまだ息づいていることを信じている。彼女をこの歪んだ歴史から救い出すことも、彼のもう一つの任務だった。
「歴史修正と友の救済。どちらも、この狂った大名を討ち取らねば叶わぬ」
「ゴンスケ、今日の太陽光発電の効率は?それと、新型ドローン『鳶』の飛行テストの結果はどうだ?」
謁見の間。信久は、畳の上ではなく、未来的な操作パネルが埋め込まれた強化ガラス製のデスクに座っていた。その瞳はどこか冷たい光を放ち、肉声に混じるわずかな電子ノイズが、彼の正体がただの人間ではないことを示唆していた。
「はっ、信久様。太陽光発電は順調で、城下一帯のエネルギー需要を賄っております。鳶のテストも成功、敵陣の地形を三次元スキャンして戻ってまいりました!」
側用人・ゴンスケは、冷や汗を拭きながら報告した。信久は満足げに頷く。
「よし。ゲンナイはまだか?美濃攻めに必要な対重力シールドの完成が遅れているようでは困る」
「ただいま参ります!信久様!」
白衣を纏った老人、発明家・ゲンナイが息を切らして飛び込んできた。彼は抱えていた起動前のレーザーライフルを床に落としかけ、慌てて拾い上げる。
「シールドの起動アルゴリズムにバグが発生し、量子演算に手間取っております。あと三刻、いや、二刻で完全自律型迎撃砲台と共にご用意いたしまする!」
信久は笑った。その笑みには、この時代の人間には理解できない、未来の支配者の傲慢さが滲んでいた。彼の野望は、もはや日本の統一などではない。時空を超えた歴史の「最適化」、それが彼の脳内のAI「第六天魔王」の最終目標であった。
その頃、城下の薄暗い茶屋で、一人の浪人が酒を呷っていた。時空浪人・シデンである。彼の腰に差した斬鉄刀は、この時代の刀剣とは比べ物にならない異様な輝きを放っている。
「目標の特定完了。コードネーム『第六天魔王』。織田信久の肉体に宿り、歴史を大きく逸脱させる可能性あり。抹殺」
シデンは酒を飲み干すと、懐から取り出した未来的な通信機に短く答えた。彼は任務遂行のため、単身でこの時代に潜入した、歴史修正のプロフェッショナルだった。
茶屋を出ようとしたシデンの背後に、無音で人影が立つ。
「お逃げ遊ばすな、時空の亡者。信久様のからくりくノ一、カエデが相手をいたす」
カエデは黒い装束から、特殊合金製の義手を現した。その瞳は赤く光り、人間らしさはない。彼女の指先が、シデンの刀の鞘に触れるか触れないかの刹那。
「……遅い」
シデンの斬鉄刀は、音もなく鞘走っていた。
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