合格祝いは『02689834』

山野小雪

第1話 遠距離恋愛


 私の名前は土橋美代、十九歳。

 一年間の浪人生活を経て、この春ようやく京都のK**大学に合格した。ずっと憧れていた志望校だ。


 高校生の頃、私は同じクラスの古竹広君と付き合っていた。

 一緒に進学を目指していたけれど、結果は分かれた。

 彼は合格し、私は不合格。

 私は一年間、予備校に通う生活を選ぶしかなかった。


 自宅からではK**大学に通えないため、広くんは京都で一人暮らしを始めた。

 こうして私たちは、気づけば遠距離恋愛になっていた。



 京都での暮らしは、広君に新しい世界を与えていった。

 サークルに入ったこと、アルバイトを始めたこと──。

 私の知らない人たちとの関係が、少しずつ彼の周りに広がっていくのがわかった。


 その間、私は毎日予備校へ通うだけの生活だ。

 そして、広君からの連絡は、少しずつ途絶えていった。

 

 夏が近づく頃には、ほとんど音沙汰もなくなっていた。

 寂しさはあったけれど、仕方がないと自分に言い聞かせた。


 いまの私の目標は、K**大学に合格すること──それだけだ。


***


 そして三月。

 私はついに志望校であるK**大学に合格した。


 数か月ぶりに、広君へメッセージを送った。



 『K**大法学部、合格した』


 驚くほど早く返信が届いた。

 おめでとう。ずっと信じていたよ──そんな言葉が画面に並んでいた。


――『住む場所を探すなら、お母さんと京都においでよ』


 広くんは、キャンパスから通いやすい地域を次々と教えてくれた。

 連絡を控えていたのは、私に余計なプレッシャーをかけたくなかったから──

そう説明してくれた。


 『私たちって……別れてなかった、ってこと?』


 思い切って訊ねてみた。

 高校を卒業するときに確かめ合った約束──それを口にするのは、ほぼ一年ぶりだった。


 広くんは、少しも迷わない調子で言ってくれた。

 まだ、私と付き合っているつもりだと。


 正直、もう自然消滅しているのだと思っていた。

 だからこそ、彼の言葉は嬉しかった。


 私は完全に“合格ハイ”だった。

 彼の声が聞きたくて、電話をかけてしまった。なつかしい声に、気持ちが浮き立って、予備校で過ごした一年のことをあれこれ話してしまった。

 ずっと言えなかったことまで、勢いで口にした気がする。


 そして、これから住む場所についても相談した。

 うちの両親は治安が良くて、セキュリティのしっかりしたマンションを望んでいる。

 

――『02689834』先に伝えておく。



 突然、広くんから、数字だけのメッセージが届いた。

 えっ、私たち……今、何の話をしてたっけ?


『0268……98……34』


 最後の「34」は「みよ」──私の名前だ。

 じゃあ、この数字には何か意味があるのだろうか。


 最初の「02」は「二人」?

「68」は……?


考えれば考えるほど、さっぱりわからなかった。

こんな簡単なことも読み取れないなんて、馬鹿だと思われるだろうか。


いや、もしかして私へのメッセージじゃなくて、受験勉強に関係する何かだろうか?

一年間で覚えたすべての科目を頭の中でひっくり返してみたけれど、

それらしいものはひとつも浮かばなかった。


『ごめん、この数字ってなに?』


――ああ、俺の部屋の暗証番号。テンキーロックだから。

俺がバイトとかでいないとき、困るだろ? 先に教えておく。


そうか。

これは、広くんの部屋のテンキーロックの番号だったのか。



「34」は、きっと「美代」なんて意味じゃない。

広くんは、そういう語呂合わせを使うタイプじゃないし。

それでも……胸の奥がふっと温かくなった。


――遠距離恋愛はちゃんと続いていた。

そして私は、彼の部屋の鍵の番号まで手に入れた。


思いがけない、嬉しい合格祝いだった。


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合格祝いは『02689834』 山野小雪 @touri2005

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