第13話 はじめての依頼
受付に戻った俺は、とりあえず今日の宿代と食費を稼ぐべく、依頼ボードの前に立とうとした。
だがその前に、演習場の案内をしてくれた受付の女性 ートラブルになりそうな時に素早く距離を取った女ー が、目を輝かせて声をかけてきた。
「先程はすごかったですね! まさかあんな魔法があるなんて。的の支柱を狙い打って、跳弾で股間を直撃させるなんて、まさに神業です!」
「は? 魔法」
「あ、すみません。コウさんは、能力もスキルも無いことになってたんですよね。秘密ってことですよね。大丈夫です。誰にも言いません」
彼女は口元を両手で押さえ、いたずらっぽくウインクしてみせた。
どうやら彼女の脳内では、俺が実力を隠した凄腕の魔法使いであるという事で確定してしまったらしい。
まあ、秘密ってことは合ってるか? 魔法ってわけじゃないけどな。
「ところで、コウさんは、依頼を探してるんですよね? 実はこれ、F級用なんですけど、ちょっと達成時の報酬が高いんですよね。薬草採取なんですけど、急いでいるらしくて。受けます?」
彼女が差し出してきた依頼書を手に取る。
対象の素材は「リクロータス」。対象の植物を間違えないようにと描かれた図を見ると、蓮のように長い茎の先に大きな花が咲く植物らしい。
「今日中に20本納品が必要なんですけど、報酬額は通常の三倍ですよ」
俺の脳内のアラートが、大音量で鳴り響いた。
報酬が高い。急ぎの依頼。そして新人の俺に回ってくる。……統計的に見て、この依頼には公表されていない致命的な地雷が含まれている確率が九十五パーセントを超えているな。
「コウくん。もしかして幸運が回ってきたのかもよ。受けなさいよ。リクロータスって、お茶にすると香りがすごくホワっとしてて、飲むだけで波動が整うのよね。私も脳内同期で味わいたいわ!」
サティアが脳内で、通販番組のゲストのような呑気な声を出す。
幸運なわけがあるか。
だが、このまま街にいても、別の不運に捕まるのは目に見えている。
それなら、多少のリスクがあっても金になる方を選ぶのが、不運の専門家としての生存戦略だ。
俺は意を決して、その依頼を受諾した。
「コウくん。今のうちにリクロータスをいっぱい収穫するところをビジュアライズしておいて。そうすれば何があっても最終的には手に入るから」
最終的にってなんだよ。プロセスの不運は覚悟しろって事かよ。上等だ。不運のプロとして途中を耐え抜いて、リクロータスをゲットしてやるよ。
俺は先ほどの図の花を思い浮かべた。
金貨の時とは違って、回したりする必要はない。俺は何本ものリクロータスが林立している様子を、何度も精細に思い描きながら採取場所に向かった。
指定された採取場所は、周囲を深い森に囲まれた、一見すると平和そうな草原だった。
魔物の気配もなく、目的のリクロータスの花があちらこちらで白く輝いている。俺が思い描いたのと違って丈の長い草の海の中に花の部分だけが見えている状態だ。
数えられるのは10本に満たない。
でもそれよりも気になる事があった。
なぜ、ここだけ木が生えていないんだ?
周囲はあんなに鬱蒼とした森なのに、この一帯だけがぽっかりと草原になっている。
土の下、浅いところに岩盤があるのか? それとも粘土層か?
俺は歩きながら、少しだけその場で跳ねてみた。
「……ぶよぶよしてる」
感触が不気味だ。
足の裏に伝わる、地中の妙な弾力。
そうか、ここは元湿地なんだ。
その上に薄く土が乗っているだけだから、根の深い木が育たず、草しか生えていない。
ここで何が起こったら嫌か?
俺は最悪のシナリオを、シミュレートし始める。
「コウくん、なんだか大地がパンパンな感じよ。気をつけて。まるで、大きなゲップを我慢しているみたいに『もこもこ』したエネルギーが溜まってるわ」
「パンパン……? やっぱりそうか」
サティアの感覚的な報告が、俺の物理的予測を補強する。
粘土層の下に、嫌気性細菌が生成したメタンガスが溜まっているんだ。
それが逃げ場を失い、内圧を極限まで高めて、今にも弾けそうになっている。
俺のダイフコウ・クオリティを考慮すれば、俺がリクロータスを採取するために腰を曲げ、地面に荷重をかけた瞬間に、粘土層は臨界点を迎えるはずだ。ガスが噴出し、地面は陥没するかもしれない。
避難すべき場所は……あった。
少し先に、大きな岩が見える。
あそこなら地盤が安定しているはずだ。
よし、あの岩の近くのリクロータスを狙おう。
我ながら完璧なリスクヘッジだ。
俺は腰まではある草の海を歩いていき、岩の近くに生えたリクロータスに手をかけた。
そして、予想通り……いや、予想以上の速度で「最悪」が起きた。
ゴゴゴ、という不気味な震動と共に、足元の地面が急激に盛り上がる。
俺は迷わず、すぐ横の「岩」に飛び乗った。
しかしそれはグラリと動いた。
何?! 俺の計算ではこの岩は硬い岩盤の上に乗っているはずだったのに。
岩はゆっくりと上に上がっていく。大きさから言って数トンはある岩だ……これが岩盤の上に乗っていないなど、物理的な安定性が説明できない!
まさか吹き飛ばされはしないだろう…爆発でも起きなければ。ガス噴出時に自然発火で爆発が起きる確率はすごく低いはずだ。
しかし、俺の事だ、きっと爆発がおこるだろう。どこに隠れればいい?
俺は、岩の上で、先程いた場所の逆の方向に逃げるべきかと思い、そちら側の地面を覗き込んだ。
「岩が宙に浮いてるぞ!」
岩の下端らしき場所から地面まで1メートル以上ある。これは一体。
左右を見回した俺は、自分のシミュレーションに大きな計算ミスがあったことに気づいた。
「これは…岩じゃない! 亀だ!」
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『引き寄せ』で無双? 理系脳には無理ゲーです ~「ダイフコウ」な俺は、ゴミ能力(スピリチュアル)で理不尽な異世界をハックする~ 玉河(たまがわ) @tama-gawa
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