第12話
「報告!イシス基地に設置した爆薬は全て問題なく起爆、侵入した敵AMS部隊は大損害を被った模様。」
8月10日午前、オリュンポス基地
コリィの耳に通信士官の報告が入る
そして思い返したのだった
在りし日のグリム中佐との記憶を
15年前、これは彼が基地に赴任したばかりの頃だった
「少尉。ここのバーで飲まないか。」
グリム中佐が後ろから声を掛ける
当時のコリィは士官学校を出たばかりで、まだ少尉だった
「はっ!中佐殿。喜んで。」
と敬礼
「そう堅くなるな。君と私の仲じゃないか。リラックスしてくれ。」
その上官に対しての模範的な態度に、中佐は笑って背中を軽く叩く
意図を察したコリィはふっと笑って、
「分かったよ、アルバート。」
親しみを込めた声で返す
「それでよし。早く行こう、コリィ」
その答えに満足したのか、中佐は先に歩いてコリィを促した
夕方の基地のバーは勤務を終えた兵士達で賑わっていた
そこのカウンター席に二人は座り、
「ビールを2つ。」
指で示してグリムがバーテンダーに注文する
グラスが目の前に差し出され、瓶ビールが注がれてゆく
その様式と黄金の輝きは、500年以上前から変わっていなかった
この星においても、酒を最適な状態で保存するのに瓶に勝るものはなかったのだ
「こうしていると、あの時を思い出すよ。君が町の酒場で私に話しかけてくれなきゃ、私たちは友人にはなっていなかった。」
ビールを口にしたグリムが語る
「やめてくれよ。あの時は酔ってたんだ。若気の至りってやつさ。」
当時17歳、若き日の自分を思い出して、彼は笑い飛ばす
「あの時は一人で飲んでたもんで、最初は決闘でも仕掛けられたのかと思ったよ。」
とグリム
「当時火星の住民のヴェルト軍駐留部隊へのイメージは最悪だったからな。市民に対する暴行に強姦事件.......あの頃はみんな軍人を見かけるとピリピリしてた。それも今じゃ、軍の再編で火星方面軍が新たに設立されてからはかなり大人しくなってる。」
コリィがグラスを置いて述べた
火星の住民はその歴史から、自らの身を守るために武器を携帯、住宅に保管するなど自己防衛意識が強く、現在はヴェルト火星方面軍に吸収、合併された郷土防衛軍も、前身は火星の住民が犯罪者や外部からの侵入者から身を守るために立ち上げた、自警団であった
そのためヴェルト軍が駐留するとなった際には、反発も少なくはなく、基地周辺の市では抗議運動が起きた
しかし郷土防衛軍が組織として形骸化しつつあり、汚職や犯罪への関与なども多かったため、次第に彼らは火星の民に受け入れられていったのだった
「そういや、アルバートは火星に志願して来たんだろう?なぜだ?」
コリィが問う
数年前まで火星といえば、ヴェルト軍内では厄介者のお払い箱、左遷先というイメージだった
しかしこの男は違った
自ら志願してこの惑星にやって来たのだった
「故郷から離れたかったんだよ。いい思い出が全くなかったからな。そんな気持ちでここに来たんだが、今では結構気に入ってるよ。ホンモノの空でラジコンを飛ばせないことを除けばな。」
と文句をこぼすグリムに、
「火星のテラフォーミングが中止されてなきゃな。」
皮肉気味にコリィは返した
「ないものをねだっても仕方ないってもんよ。どうだ、今から飛ばしに行くんだが、付き合ってくれよ。」
コリィは無言で頷き、席を立った
お代をグリムが支払うと、二人はバーを後にし、戦闘機の格納庫へと向かった
格納庫内は戦闘機を30機以上並べられるほど広く、この基地の与圧ブロックでは一番天井が高かった
当時はAMSは配備どころか開発途上であり、コリィも戦闘機パイロットとしてこの基地に配属されていた
グリムが格納庫内に置いておいたラジコンヘリを起動し、コントローラーで上昇、飛行を始める
「そんなアナクロな機械にこだわる理由はなんだ?」
ふとコリィが口にする
「最近のやつは、AI自動飛行だの制御補助機能だの、機械任せで面白くない。機械を人間の手で操るのが楽しいんだよ。」
コントローラーのディスプレイを見ながらグリムは話した
その言葉にコリィは、格納庫のベンチに腰を下ろし、考えを巡らせた
ならば戦闘機パイロットである自分は、機械を操っていると言えるのか?
それとも機械に自分が操られているのか?
格納庫を飛行するラジコンヘリが、着陸体制に入る
そして彼の操作により、見事に着陸、停止した
「_______だがな」
「人はミスをする。時に自身の感情によって、判断を誤り、それが身を滅ぼすこともある。だから俺たち軍人は、機械のサポートが必要なんだろう。人間は感情が弱点だが、機械は電子妨害やハックで脳を丸ごと乗っ取られちまう。
だから、“人機一体”こそが最強なのかもな。」
「“人機一体”......」
グリムの言葉を聞いたコリィは、ふいに呟いた
________『AB《エアベース》よりデルタリーダーへ、西方200kmの地点に敵影。敵の斥候と思われる。』
基地からの通信で、過去に浸っていた彼は現実に引き戻される
『了解、デルタリーダー、そちらへ向かう。』
機体を左側へ旋回させ、スラスター出力を上げる
ブルーノとゲオルクのゼクト改もそれに追随していく
そしてまた、過去に思いを馳せる。
きっとあの人のことだ
この広い空でまた、あのアナクロな機械を、飛ばしているんだろう
コリィはG3のコクピット内、網膜投影ディスプレイ越しに、夕暮れ時の火星の青い空を見上げた
その大空に一点、あのヘリが、ディスプレイ越しに映った、コリィにはそんな気がしたのだった
センチネル/rebellion 織田幽谷 @kamatakun
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