「次」の前で

 頼む……頼む頼むっ!

 強く願いながら、A谷はテレビをつけた。


『次のニュースです。東京〇〇動物園にパンダが来日し……』

「クソっ! なんでだよぉぉぉ」


 願いは叶わず、彼は地面を叩きながら叫んだ。


「俺の……俺のこと、一回も報道されねぇ……!」


 A谷は日本が誇る、テニス選手である。

 15歳で当時の世界チャンピオンに勝利し、オリンピックでは3大会連続金。

 それ以外にも輝かしい功績を残し、「テニスといえばA谷」といわれるほどだった。


 A谷はプロ選手になると同時に、「有名になる」ことも夢であった。

 だからこそ、金メダル獲得や世界一になった、その日や翌日のニュースは自分のことばかりだと期待していた。

 しかし、来る日も来る日もテレビをつければ……


『次のニュースです。メジャーリーグ、〇〇選手は……』

『次です、東京では38度の猛暑を迎え……』

『次のニュースです。東京株式は……』


 A谷のことは一切触れられず、ニュースは終わる一方だった。


「なんでだよ! 日本一にも、世界一にもなったのに……!」


 これ以上、どうやれば有名になれるっていうんだ……?

 A谷はその場でうずくまり、絶望したのだった。



――――――――――



 ここは東京都在住サラリーマン・田中の、日常系小説の世界。

 田中本人は気づいてないが、世界は彼の日々を中心に動いている。


 よって彼がA谷に興味を持たない限り、A谷はどれだけ活躍したとしても「次のニュース」以前のニュースの中に処理され、報道を見ることはできないのであった。

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