第5話 "魔神器"解放
勢いをつけて枝から飛び降り、離れたところに居た傭兵に向かって蹴りを入れる。
「がっっ……!」
衝撃で男は吹き飛び、後ろにいた傭兵を巻き込んでいく。
「こいつっ!」
剣を持った男が迫り、大きく振りかぶる。ミツキは素早く懐まで跳び、刀の柄で腹へ突き刺す。相手は大きくのけぞり、その隙に勢いを利用してダイナミックにキックを浴びせた。
あっという間に三人を破り、抜刀しながらひと息吐く。
「悪いけど私は行かないといけないの。これ以上やるなら、あなたたちをあの世に連れて行くことになるよ」
見栄を切り、残りの一人に向かって刀を向ける。手斧を持った男は刀を見つめると何かに気付いたようだ。
「……! 隊長の言った通りだ」
「また隊長? 意外とおしゃべりさんなんだね」
「珍しく饒舌だったんだよ。随分とおめェのことを買ってたみたいだぜ。隊長は昔から堕天使に甘ェからな」
「えっ……?」
「隊長は堕天使に命を救われた経験があるからな。それに、カマンセーヌの野郎にもムカついてたみたいだし……」
「カマンセーヌに?」
「おっと、いけねいけね。まァおめェはまだまだ甘ちゃんってことだよ」
「……それならここで実戦を積ませてもらうだけだよ」
「だから甘ェんだって、お嬢さん」
男が言い終えると、急に周りが暗くなった。月に雲がかかったのだ。
ミツキは強襲を恐れ、刀を構えながら一歩下がり、身を潜めようとした。しかし反応が遅れたせいか、男に距離を詰められ斬りかかられる。
「くっ!」
何とか刀で防ぐも、手斧の猛攻に防戦一方だ。手斧は刀よりも小回りが利く分、手数で負けてしまう。
「さァそろそろだぜ!」
男は執拗に刀ばかり狙ってくる。ミツキは狙いに気が付いた。
「まさかっ! 破壊を!?」
「遅かったなァ気が付くのが!」
さすがに無理だ。刀は特別な鋼で出来ている。ただの手斧では破壊など──。
(……そうかっ! ダルシアンとの戦いで無茶させすぎた!)
ダルシアンの大剣を防いだことをフラッシュバックし、そのあと手入れをしていないことを思い出す。町から離れることを優先したせいで、こんなことを忘れるなんて。
このままでは確実に折れてしまう。しかし刀を庇ったところでやられるのは自分だ。どうする! 考えろ!
「終わり、だァ!!」
男は力いっぱいに斧を振り下ろす。反射的に刀で防ぐ。しかし刀身が耐えきれず、へし折られてしまった。
ミツキは反動で後ずさりし、刃が半分欠けた刀を覗き込む。刀身には紫色の瞳の少女が映っている。いつの間にか月明かりが照らしていることに気が付く。
「さァ、これでもう終わりだな。おめェが"奥の手"でも残してない限りはな」
わざとらしく言う男に、ミツキはハッとし、庇うように首飾りを握りしめる。
「まさか、ダルシアンが……」
「ああそうだ。おめェが"魔神器"を使わねェなら、使わざる状況にしてみろってな」
「……なぜそこまで"魔神器"に拘るの」
「"魔神器"なら堕天使の力を解放できるはずだ。人間じゃ太刀打ちできない、まさに人知を超えた力になるんだ。そんなヤツを倒してェって思うのは当然だろ?」
「結局、ただの戦闘狂なんだ……!」
「傭兵なんてそんなモンだ。貴族サマのお守りをしてガキ攫うなんてくだらねェことよりずっといい。んなモンを
「……」
「さァ、おめェの力を見せてみろよ」
手斧をミツキに向け挑発してくる。
────"魔神器"。堕天使が大戦の為に開発した兵器で、堕天使のみが扱える代物。ただの武器ではなく、堕天使としての力も解放し、その力に呑まれてしまう者もいたとか……。
これを扱うということは、堕天使の象徴である赤色の瞳、"血の目"になってしまう。そうなってしまったら、ヒナタの褒めてくれた紫色の瞳ではなくなってしまう。最悪の場合、拒絶されてしまうのではないか。ヒナタにも、サクヤにも。
「ちっ。めんどくせェな。おいおめェら! いつまで寝てやがる、起きろ!」
男が周りに向かって叫ぶと、先ほど倒した傭兵たちが起き上がり、ミツキを囲む。
「そんなに使いたくねェならもういい。死に な」
ジリジリと迫られ、プレッシャーを与えながら逃げ場をなくされていく。
「私、は……」
このままここで死に、ヒナタとサクヤを助けられずに終わるのか。
「……ううん、嫌だ」
例え瞳が赤くなっても、堕天使になっても、ヒナタたちを助けられるのならそれでもいい。
首飾りを強く握りしめ、前を向く。
──首飾りが黒く発光する。
「堕天使も呪いも関係ない! 二人を助けられるのなら私を呪ってみせて! "黒麒麟"!!」
瞬間、"魔神器"が黒い光を放ちながら輝き、力を解放するように強い衝撃を放つ。
竹林に住む鳥たちが逃げるように飛び立ち、ミツキを中心に鋭い風が吹き荒れる。
『いいかミツキ、戦いは気持ちの差で負けることもある。負ける前に負けることを考えるな、お前はまだ負けていないんだ』
ミツキの頭に懐かしい声が響いた。父親との稽古でよく言われた言葉だ。
なぜ今思い出したのか、なぜ聞こえてきたのかは分からない。それでも、近くに感じられて嬉しかった。
「負けないよ、父さん──」
微笑みを浮かべ呟く。すると途端に風が止み、首飾りが黒い刀身の刀に変わっていた。
「……"黒麒麟"。あなたの力を貸して」
"魔神器"に呼び掛け、傭兵たちに向かって構える。
「"魔神器"は刀だったのか。得物が変わってねェならさっきと結果は同じだな?」
手斧の男は挑発するように問いかける。
「そうかもね。でも、これはただの"魔神器"じゃないから」
「なにが違うんだ」
ミツキは一度目を閉じ、ゆっくりと瞼を開く。先ほどまで紫色だった瞳は、真っ赤に染まり、"血の目"になっていた。
「私の大切な、父さんの形見だから」
「ふん、囲んでやっちまうぞ!」
男が指示を出し、一気に四人で攻撃を仕掛ける。
(見える──)
ミツキには全てがスローモーションに見える。風の動きや、敵の動きが手に取るように分かる。
相手の攻撃よりも先に"黒麒麟"を目にも留まらぬ速さで振ると、黒い風がうねりをあげ傭兵に襲いかかる。
「な、なんだっ!?」
風は縦横無尽に、鋭く体を刻み込んでいく。対応の遅れた傭兵たちはなすすべもなく、血飛沫をあげ倒れていく。
あっという間に三人を制し、ミツキは残りの一人に斬りかかろうとする。
しかし手斧の男は危機を感じ、距離を取る。
「おめェ……さっきまでと動きが違ェな……それが"魔神器"の力か……」
「まだまだ、もっと力を出せるよ……!」
"黒麒麟"を通して身体が熱くなり、力が湧く感覚がある。これが"魔神器"の力か。
「……力量の差が分からねェほどバカじゃねェ。だがこのままで終われねェよ!」
男は力強く斧を構える。その目は覚悟を決めたようだった。
手斧を遠心力で大きく振りかぶりってきた。
「うおおおおお!!」
しかしミツキは冷静に、"黒麒麟"で手斧を天まで弾き、一息に斬撃を浴びせる。
「く、そ……っ!」
男はそのまま倒れ、時間差で手斧が地面に刺さった。全ての傭兵を制したのだ。
「次はもっと紳士的なエスコートをお願いするよ」
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