第6話 変わっていく距離

配属から、

一年近くが過ぎていた。


忙しさは相変わらずだけど、

仕事の流れは、

だいぶ掴めるようになってきた。


昼休み。


彩乃と美咲は、

並んでお弁当を広げている。


美咲「ねえねえ、彩乃」


彩乃「なに?」


美咲は、

にやっと笑った。


美咲「実はさ…」


彩乃「その顔、

絶対なにかある!」


美咲「彼氏、できましたー」


彩乃「……え!?」


美咲「ほらー。

その反応」


彩乃「だって急すぎる」


美咲「急じゃないよ。

前に話してた人」


彩乃「……あ、

気になってるって言ってた!」


美咲「そうそう!」


彩乃「同じフロアの?」


美咲「うん。

営業の森下さん」


彩乃「森下さん……

あの穏やかな?」


美咲「正解!」 


美咲は、

嬉しそうにうなずく。


美咲「森下 恒一。

ちゃんと覚えて?」


彩乃「はいはい」


美咲「最初はね、

雑談しかしなかったの」


彩乃「うん」


美咲「それがさ、

気づいたら毎日話してて」


彩乃「自然だね〜」


美咲「でしょ。

無理してない感じが良くて」


彩乃「美咲っぽい」


美咲「それ!」


美咲は、

ぱっと笑った。


美咲「で?」


彩乃「で?」


美咲「彩乃は?」


彩乃「……なにが」


美咲「恋!」


彩乃「今はないかな」


美咲「ふーん」 


一拍。

それから、

美咲は急に声のトーンを変える。


美咲「橘くん、

元気かな〜?」


彩乃「……なんでそこで出るの」


美咲「だってさ」


美咲は、

意地悪そうに笑う。


美咲「研修のとき、

一番一緒にいたじゃん」


彩乃「隣の席だっただけ」


美咲「はいはい」


彩乃「県外だし」


美咲「そうだけど」 


美咲「でもさ、

元気そうじゃない?」


彩乃「……うん」


彩乃は、

お箸を動かしながら答える。


胸の奥が、

ほんの少しだけ揺れた。


美咲「今度さ、

森下さん紹介してもいい?」


彩乃「いいよ!」


美咲「無理してない?」


彩乃「してない!」


美咲「よし」


午後の仕事が始まる。


パソコンを立ち上げながら、

彩乃は思う。


みんな、

それぞれの場所で、

ちゃんと前に進んでいる。


自分も、

その途中だ。 

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