赤信号の間に
Dr.アクゥ
Episode of... vol.zero < if...? >
「ねえ、タバコ吸ってる時ってさ何考えてる?」
ジュダは自分のタバコに火を点けつつ、訊いてきた。
「え―」
そんな質問が来る気がしてた。
だから景色の遠い場所をどことなく見つめ、紫煙と一緒に答えになってない声を吐き出す。私は半分無意識にジュダの方を見ないようにしていた。
「まあ、例えばいまは何が浮かんでる?」
「別に何も。―あなたは?」
その質問の意図が分からないようで分かってしまって内心イライラしながら答えた。少しの間ジュダの顔色を伺っていたけど、それをする自分の姿を想像してしまうと景色に視線を戻さずには居られなかった。
「ん-、何かな。―ていうかさ、今日楽しかったね。やっぱりニンニと一緒は最高だ」
ジュダは私を無邪気な笑顔で見つめながらそう答えた。
「何それ。―まあでも、楽しかったね」
私はそう答えつつ、意地でもジュダの方を見ないようにしていた。
本当にイライラする、あなたの笑顔に曖昧なことしか言えない自分にも、そんな表情を向けて来る割に核心を突いてこないあなたにも。
きっと、お互いそうなんだ。
「―じゃあ、帰るね」
ジュダはタバコを灰皿にもみ消しながら、言う。次第に消えてなくなっていく紫煙は私に言いようのない心細さを覚えさせた。
それから、私の答えを待ってないかのようにジュダは自分の車に向かって歩く。
「うん―」
決して大きな声で発したつもりはなかったそれは、私の意に反してコンビニの駐車場に思いのほか響いた。いや、その声量が本当の気持ちだったんだろう。
もう、言えないのか。このままずっとこうなのか―
―ピッピッ
私の心の中の問いをかき消すように車の開錠音が嫌に響いて聞こえた。
「じゃあ、またね!」
ジュダは車に乗りかけながら私に手を振る。また、無邪気な笑顔で。
「バイバイ」
私はやっとの思いで手を振り返しながら、いつも選んでしまう言葉にまた、後悔を覚えた。
私は何故いつもこう答えるんだろう、何故またね、と答えられないのか―
―ああ、また何一つ伝えられなかった。なんであんな伝え方しか僕は……。
言いようのない悔しさが押し寄せてくる。
心の中の苦しさは、僕にアクセルを強く踏ませその重たさに反して、軽快に滑るように車は駆けた。
頭の中で、別れ際のニンニの表情と声色が繰り返し響く。
ニンニの状況や気持ちは分かってるつもりだ。
ニンニは仕事熱心で向上心が高く、社交性もある。それが尊敬できるところだし、僕がニンニに強く惹かれたところだ。
一度、僕はニンニへ自分の気持ちを伝えたことがある。
ニンニの答えは、納得のいくニンニらしい答えであったと同時に、この先のことや関係に関しては曖昧だった。だから、僕はニンニを諦めきれなかったし、僕が曖昧な態度を取るようになった理由でもある。
けど昔から、待つなんて言葉は、好きじゃなかった。
何に対しても、少し答えを急ぎすぎる癖がある。だから、習い事は途中で挫折するし恋愛もうまくいった試しがなかった。
けど、ニンニは僕が気持ちを伝えた後でも全く気まずくならずに会ってくれたし、後から自分で後悔した日があってもニンニは変わらなかった。
ニンニのやさしさにすがるようだけど、お互いの気持ちや過ごした時間は嘘じゃない。
ニンニと過ごした日が頭の中で、まるで倍速で再生される映画のように駆け巡っていった。
良い思い出も悪い思い出も。
僕は気持ちを抑えるようにアクセルを緩めた。ゆっくりブレーキを踏み車が停止線の手前で静かに止まると、赤信号の眩しさが少し目に染みて感じる。
少し冷静になると同時にまたニンニの言葉が思い出された。
―バイバイ
ニンニは僕がまたね、というのと反対に、決まって別れ際にそういう。
何故だか、なんとなく今その意味が分かった気がした。
ふと、スマホを手に取ろうとしてやめる。
今、この言葉をニンニへ送ったら 軽く伝わったしまう気がして怖かった。
信号は青へと変わり、今度はゆっくりとアクセルを踏み始めた。
ニンニは、僕やこの関係に期待などしてないのかもしれない。もっというと、ニンニ自身に対しても。
相手や関係、その今後に期待をしてしまえば、それが壊れた時のショックは大きい。
その気持ちは分かれど、分かりたくない気がした。
―僕はずっとニンニを待ってるんだろう。
ジュダが駐車場を去った後、私は何かへの未練のように、もう一本タバコに火を点けていた。
薫る紫煙を眺めつつ私は静かに、けど強く思った。
―私はいつ、正直な気持ちをジュダに伝えられるんだろう?
赤信号の間に Dr.アクゥ @dr-knoche_722
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