DAY2
『ここからは家族じゃない人たちに向けて、かな。幸か不幸か、分与とか決めないといけないような財産は持ってないから適当にすましちゃうけど、私の私物は全部みんなで分けてください。あ、さすがにパソコンは分解してリサイクルショップに出してほしいけど、それ以外のものは仲良く山分けしてくれると嬉しいな。紅茶セットとギターはそれぞれいくみんとさのっちに渡すことになってるから、それは守ってくれると嬉しいな。他にはそうだな、子供のころにもらったトロフィーとかは処分しちゃってね。残しておくとなんか未練がましくなっちゃうだろうからさ、私じゃなくてお父さんたちが。流石に一緒に焼いてもらうってのもちょっとあれだし、うん、やっぱり捨てちゃって。溶かして金にして売る、ってのもね、そうしたいならそれでいいけどさ』
ずっとそうだ。声に震えはない。内容の思考のために止まることは何度もある、もちろん言いよどむこともある。口に出した後にやっぱなしでなかったことにしようとすることもある。この代筆をするときに結んだ二つの約束があるためなかったことにはしないけれど、その人間が文章を書くときにしてしまう行為は自然なものとして出てくるが。それでも死を目前にした人間がするだろう何か、それらしいものは一切見えなかった。
『うーん、物についてはこれぐらいかな。なんというか、思ったよりも物持ってないんだね、私って。論文はもちろん、共著のでっきーに渡しといて。いらないって言われるだろうけど多分強く押せば受け取るはずだから。日記はもちろん廃棄でリサイクル、私が書いた文章はこの遺書だけ、それは絶対守ってほしいよ』
咳き込んだ。聞き取ったその咳き込みすらも文字に表してしまいそうになって慌てて手を止める。しばらく咳き込んでいて、何かマズいのかと思った僕はナースコールをしようとしてしまったけれど、それは手で制止された。
『あとはまあ、思い出せないけど整理したら見つかるだろうものはそれぞれの判断に任せるよ。私が喜ぶにはどうしたら、とかは一切考えないでやってね。一番偉くて優先されるべきはこの先のあるみんなだから、私は一足早くにゴールした、って思ってね。ゴールしたんだから私の持ち物はみんなが有効につかって、より良くなるように頑張って』
少し声がかすれていたが、口を開くごとにそれは治っていく。心配する気持ちを全部なくせるとは口が裂けても言えないが、それは僕の役割じゃあないことを思い出すだけの余裕は戻ってきた。
『それじゃ続き、今度はみんなにいいたいことかな。まずは』
そこで言葉が止まる。だけど何を考えているのか推測するのは僕には許されていない。ペンを空中に漂わせたまま僕は待つ。思考は長く、そして長い分だけ深い。
……と思っていたのだけど、今日はここで終わりだと言われてしまった。二枚目の中盤まで終えた便箋は昨日と同様看護師に預ける。僕がここに来ていて、こんな遺書を書いていることは誰にも知られてはいけない、それが彼女の要望なのだから。僕はそれに従うだけだ。自分の痕跡がなくなったことを確認し、最後に頭を下げて病室を後にした。
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