第2話 苺月の夜

 今年もまた、あの忘年会がやってきた。

パイテックル社恒例の地獄の忘年会。

 部長は相変わらず働き方改革について熱弁しているところだった。

オフィスでメシをすませる率1000%の残業主義の俺は、この働き方改革ってやつが大っ嫌いだ。そのせいで「そろそろいいよ」とか言われて帰らなければいけないが、結局それも俺のためじゃない。残業している社員がいると文句を言われないために俺を追い出しているだけのことだ。

「えーっとね、じゃあ今年最も取引実績がNo.1だった者を発表しようか。」

急に部長は切り出した。珍しく俺の胸は高鳴っていた。思ったより幼い自分に幾らかびっくりしたが。

「えーNo.1は…」

社長の口を一心に見つめていた。おっさんのくたびれた唇にこんなに興味を持ったことは一度もなかった。

「灰枝くんだ。よくやった。」

やはり俺だった。期待通りの結末に少しだけ喜びを感じた。

俺は周りに会釈した。「あざますー。」とだけ口にした。謙遜するつもりはない。        が、尊敬の眼差しで見てくる森之宮さんを前にすると、もうちょっと感じのいいふうにという感情が湧いてきた。


忘年会を終えてフラフラと家路を歩いていると、同期の舟入奈美江が近づいてきた。

「すごいジャーン。1位とかさっすが。」

そう言って体ごと俺にぶつかってきた。

「まあ。俺は残業主義の社蓄なんで。」

そう呟いた。

「そういえばさ、モリちゃんとはどーなの?」

俺は胃がひっくり返ったかと思った。

「モリちゃんって森之宮さん?」

わかりきったことをわざと聞いた。

「そう。モリちゃんさ、『灰枝さん凄いですねえ。灰枝さんみたいな人が上司でよかったああ。』って言ってたよ。」

「へえ。」俺は素気なく呟く演技をする。

「で、どーなの。」舟入は付け加えた。

「どうって?」

またもやわかりきったことを聞いた。平静を繕うことで精一杯だった。

「あーら。モリちゃんの目、ずーっと灰枝に釘付けだったわよ。」

  

 街に行き交う人々が大好きになり、この薄汚れた商店街がとてつもなく輝いて見えた。こんなに美しい街並みだなんて知らなかったぜ。

 「今年の忘年会サイコーーー!」

  空に向かって叫んでやった。

そういや今日はストロベリームーンだったっけ。

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