トワイライト・アイ

@Krowl150

第1話 トモ

「トモ。トモ!、トモ!。」

聞きなれない声に自分の名前が呼ばれたかと思うところから、気が付くと必死に走っていた。夕日の光が熱い。肌が灼けるようだ。後ろから、シューッと音がして、足に触手のようなものが絡みついた。

「まずい、追いつかれる。」

だが、思っていたよりも簡単に引きちぎれる。振り返ると、イソギンチャクのような触手を持った怪物が追って来ている。触手の奥には大きな口があり、その中からは不気味な目玉がこちらを見ていた。体表は黒い鱗に覆われているがところどころからオレンジ色の光がにじみ出ている。


現実の世界と同じように痛みを感じた。絡みつかれたところがしびれて動かしにくくなる。

見慣れた、だがいつもとは様子の違うマンションが目の前に見える。後ろから迫り、絡みついてくる触手を引きちぎりながら夢中で走る。運良く、入口の鍵は開いてるようだ。だが、人のいる気配が全くなかった。マンションの中まで入ると、それは追ってこなかったが、シューッと音がする。まだ絡みついている触手が溶け始めているようだ。それと同時に、溶けたものが自分にしみこんでいくように体が重くなった。


急に強い眠気に襲われる。そこで意識が途切れた。


ハッと目が覚める。体が汗ばんで冷えた汗が染み込んだ服が肌にぴったりと張り付いている。周りを見渡すと、自分の部屋だ。いつの間にかベッドで寝ていたようだ。

「夢だったのか。」

マンションの一室だったはずの場所は内装こそ変わってないものの、家具が見たことのない装置に変わっている。テレビもなくなっていてそこには黒い棒のようなものが置かれていた。

夢にしてはあまりにも感覚がはっきりしすぎている。そして夕焼けが沈む気配が全くない。逃げているときと同じようにオレンジ色に輝いている。


「トモさん。」


不意に自分の名前を呼ばれ、これが現実だということを認識した。


聞いたことのない機械的な声だ。自分の名前が頭の中で反響する。

「誰!?」



振り向くと、白衣を着た人の形をしたロボットがこちらを見ていた。体にある模様のようなラインは青い光を放っている。

触れてみようとベッドから降りると、その手は宙をかすめた。ホログラム?のようだ。アニメや映画でしか見たことのない空想の物のはずだが、まるで本物がここにいるようなほど精巧だ。


「私は君がここから出られるように手助けをする存在だ。」

「助け、ですか? いや、ひとりで大丈夫です。」

トモはなんとか状況を飲み込もうとする。



「では、一つ質問をしよう。」

「君の名前は?」

「トモ、です。」

トモはなぜそんなことを聞くのかという顔で答えた。

「名前の漢字は?」

「?」

漢字は覚えている。だが、自分の名前はひらがなかカタカナの「トモ」しか思い浮かばなかった。

背筋がゾクッとする。

「君の苗字は?」


そうだ、苗字は、苗字は...。?

「...思い出せない。」


「君の記憶には一部欠損があるようだ。だから、思い出すまで手伝いさせてもらいたい。」


「私のことはヤマサンとでも呼んでくれ。」



ヤマサンというロボットはそのまま話を続ける。


「君が出会った怪物はトワイライト・アイという。今の君にとっては特殊な武器がなければ倒せない怪物だ。」

「だが、倒せば君の欠けた記憶を取り戻す助けとなるだろう。」

「だが、1つ忠告しよう。怪物に負ければ君は死ぬ。耐えられないと思ったらすぐに逃げろ。」



死ぬと言われても実感がわかない。

「死ぬって言われても。」

蓮華は頭をかきながら弱々しく笑った。

「逃げるのは得意だから、大丈夫だと思う。」


ヤマサンは真剣な表情のままだ。

「さて、次は特殊な武器について話そうか」

「君が使える武器だが、実は一つある。机の上にあるだろう。」

そこには、拳銃のようなものが置いてある。


「パゼラロムという銃だ。」

「それをトワイライト・アイにあてるとダメージを与えるが、君の身体能力も上がって、軽く殴るだけでもかなりの有効打になる。」

「ただ、使いすぎると副作用で眠気が強くなるから撃ち過ぎないように気をつけろ。」



「それと、君の出会ったトワイライト・アイはシューワクという。」

「さっきのシューワクはまだ近くにいるはずだ。準備ができたらその武器で倒してみてくれ。ダメそうだったら逃げてこい。時間はたっぷりある。無理するなよ。」


「僕は、記憶を取り戻して元の世界に帰らないといけない。」


トモは銃を携え、マンションを出た。







シューワクは待ち構えていたかのように駐車場に佇んでいた。こちらを見つけるとシューッと音を出しながら触手をうねうねとくねらせる。そして、大きな口から巨大な目がこちらを睨んでいるように見える。


そこにパゼラロムを構え、放つ。プスッという音が鳴る。思っていたより音が細い。あれっ大丈夫か?と思ってパゼラロムを見る。


するとシュワークは突然苦しみだした。よく見るとシュワークの目に小さい針のようなものが刺さっていた。シュワークの触手、口やその中の目玉がピクピクと痙攣している。


ヤマサンの言っていた通り、体も軽い気がした。シュワークに走って近づきそのまま腰の入ったパンチを目玉にお見舞いする。前は運動部だったんだ。これくらいはできるぞ。


するとシュワークの目玉がぽろぽろと黒く崩壊し始めた。その崩壊は触手の先の隅々にまで広がった。


そしてシュワームは塵となり、風が吹いてこちらの方に舞う。


トモはゴホゴホと咳き込む。口にも入ったそれは苦い味がした。




初めての戦闘は意外にもあっさり終わった。




マンションの入り口に戻り、扉を開けて入ろうとすると、突然ブワァーという音とともに、強烈な風圧が襲ってきた。その風の出どころを見ると、大きな2体のロボットが目の前に着地する。

マンションの半分ほどまで高さがあり、人型ではあるものの、腕や足には箱のようなものがついており、何か武器が隠されていそうだ。頭は狼のような形をしていてギザギザの刃がよく見える。

白い装甲の下には怪物や夕日と同じオレンジ色が輝いていた。



突然のことにトモは茫然としていた。彼らは味方なのだろうか。だが、光はオレンジ色だ。


とりあえずパゼラロムを構え、戦闘態勢をとる。


その2体のロボットはこちらを見ると口と思われるところから金切り声のような音を発した。耳をつんざくような音だ。その音に呼応するように遠くから、シォーと聞こえる。


キーンと頭の中で響いた。頭が痛い。トモは耳を押さえた。そしてそのあとすぐにその2体のロボットは飛び立ち、去っていった。



何だったのだろうか。トモが突っ立っていると、シュー、シュー、シューと幾重にも重なって多くの音がする。



音のする方を見ると、近くの建物の壁を伝って何匹ものシューワクが迫ってきている。


トモはすぐにパゼラロムを構えなおし、シュワークに向けて撃ち始めた。

2体目は最初と同じようにパゼラロムで撃って、近づいて殴る。

3体目も最初と同じようにパゼラロムで撃って、近づいて殴る。

4体目も最初と同じようにパゼラロムで撃って、近づいて殴る。

5、6、7、8、9体目...最初と同じようにパゼラロムで撃って、近づいて...殴る。


まだ何体も押し寄せてくる。


この時間が永遠に続くような気がした。少し疲れてきた気がする。


一体一体は強くないし、なぜか一体ずつ来て他のシュワークはこちらを見てるだけなので、そこは楽だが、どんどん数で押してくる。


最初はマンションの入り口から出て戦っていたが、そのうち段々マンションまで追い詰められ、最終的にはマンションの扉の後ろからパゼラロムで攻撃していた。直接攻撃する気力はもうない。


不思議には思っていたが、シュワークは、マンションに入ってくる様子すら見せない。だが、今は倒すことが先決だ。


幸い、直接攻撃しなくても3発目玉に撃ちこめば、シュワークはそのまま痙攣して動かなくなり、塵となった。


そして二十数体倒してやっと、シューという音がなくなり静かになった。


トモはその場に座り込む。へとへとだ。

「ヤマサンの所に戻るか。」

最後の力を振り絞って部屋に向かう。


部屋に着くとそのままベッドに倒れこむ。ヤマサンが何か言っている声が聞こえる。そのまま夕焼けの光の中、眠りに落ちた。



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