第31.1話 受付嬢の異変
第31.1話:受付嬢の異変
翌日、ウルガは朝から胃の辺りが重かった。
腕の内側で丸くなっている存在が、その原因である。
(……今日は報告だけだ。余計な事は起こるなよ)
そう祈りながら、ギルドの扉をくぐった。
「おはよう、ウルガ!」
受付のリーナは、いつも通りの明るい笑顔。
少なくとも、今のところは。
「ギルマスに急ぎの報告があって」 「了解。呼んでくるね――」
言いかけたリーナが、ふと動きを止めた。
「……?」
視線が、ウルガの胸元に吸い寄せられている。
「ウルガ……その……」 「なんか……動いてない?」
ウルガは一瞬、固まった。
「……道中で一緒になった」 「バステト様だよ」
「……バステ……え?」
その瞬間。
「にゃ……」
小さく、甘えた鳴き声。
「――っ!!」
リーナの目が、見開かれた。
「ね、ねこ!?」 「ちょ、待って今鳴いた!? 今!!」
一歩、近づく。
「ウルガ……」 「今の……中……?」
「落ち着け、リーナ」
「落ち着けるわけないでしょ!!」
声が裏返る。
「その鳴き声!」 「柔らかそうな気配!」 「絶対、可愛いでしょそれ!!」
さらに一歩。
「ねぇ……ちょっとだけでいいから……」 「顔……見せて……」
腕の内側で、バステトがびくっと震えた。
「に゛ゃっ!?」
「――あ゛っ!!」
完全に理性が吹き飛んだ。
「今の聞いた!?」 「反則よ!? そんな声出されたら!!」
リーナの呼吸が荒くなる。
「少し……ほんの少しだけでいいの……」 「その……お腹に……顔を……」
「ダメだ!」
ウルガが遮るのと同時に、
バステトは慌ててウルガの服の中へと潜り込んだ。
「あっ……!」
リーナの手が空を切る。
「……いない……」 「消えた……」
そのまま、がくりと膝をつく。
「そんな……」
周囲の冒険者がざわつく。
「どうしたんだ?」 「リーナ、またか」 「動物絡みだな」
「またって何だ」
ウルガが小声で問うと、近くの冒険者が肩をすくめた。
「可愛い動物見ると、毎回こうなる」 「前は子犬で三日は仕事にならなかった」
服の中から、ひそひそ声。
「……あやつ……」 「ただの獣狂いじゃな……」
「出てこないで下さい……」
ウルガは深く息を吐いた。
(……神だとバレる以前の問題だった)
こうしてウルガは悟った。
――この街で一番危険なのは
神でも遺跡でもなく、猫好き受付嬢だと。
ギルマスへの報告は、
思った以上に前途多難になりそうだった。
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