第29話 遺跡深部の異常起動

第29話:遺跡深部の異常起動


魔導兵が完全に沈黙してから、数分が経った。


遺跡は静かだった。


あまりにも静かすぎる。


「……おかしいわね」


最初に口を開いたのはセレナだった。


槍を下ろしながらも、視線は奥から離れない。


「通常なら、防衛機構が一斉起動するか、もしくは全停止する。


 でも今のは……途中で“止められた”みたい」


ウルガも同じ違和感を覚えていた。


戦闘が終わった瞬間、空気が“緩んだ”のだ。


それは勝利の余韻ではない。


誰かが意図的に、力を引っ込めたような感覚。


「……進む?」


ウルガが問いかける。


セレナは一瞬だけ迷い、それから頷いた。


「ええ。


 ここまで来て引き返す理由もないわ」


エンキドは最後尾で腕を組み、壁の紋様を眺めている。


「ふーん……」


「何か分かる?」


セレナの問いに、エンキドは首を横に振った。


「いんや。


 分からないって事だけは、分かる」


その言葉に、ウルガの背筋が冷えた。


遺跡の奥へ進むにつれ、床の紋様は複雑さを増していく。


だが奇妙なことに、魔力の流れは“整理されすぎて”いた。


「不自然だな…」


エンキドがぽつりと呟く。


「本来なら、遺跡の魔力循環はもっと歪む。


 長い年月で、必ずノイズが溜まるからな」


「でもここは?」


「まるで――


 最近、誰かが“調整”したみたいだ」


その瞬間。


――ゴウン。


低く、腹に響く起動音が遺跡全体を震わせた。


「っ……!」


三人が即座に身構える。


床の中央、円形の広間。


そこに刻まれた巨大な紋様が、今度は青白く灯り始めた。


赤ではない。


先ほどの魔導兵とも、明らかに系統が違う。


「これは……」


セレナが息を呑む。


「防衛機構じゃない。


 中枢起動よ」


紋様の中心から、ゆっくりと何かがせり上がってくる。


石でも、金属でもない。


それは――


「……棺?」


ウルガの声が、やけに小さく響いた。


棺に似た装置。


だが蓋には無数の符号と数式、そして読めない文字列が刻まれている。


エンキドが一歩前に出た。


「……嫌な感じだ」


彼は無意識に、距離を取る。


「《深淵を覗く者アカーシャルコール》で見ても、


 中身が“読めねぇ”」


「見えない?」


「違う」


エンキドはゆっくり首を振る。


「“存在として定義されてない”。


 この世界の理に、まだ登録されてない何かだ」


棺の表面に、ひび割れのような光が走る。


それを見た瞬間、ウルガの胸がざわついた。


――呼ばれている。


理由は分からない。


だが、**我儘な玩具箱トゥテソロ**が、


今までにない反応を示していた。


「……ウルガ?」


セレナが気付く。


「何か、感じてる?」


ウルガは正直に頷いた。


「分からない。


 でも……これ、普通の遺跡じゃない」


棺の中心部。


そこに浮かび上がった紋様は、これまで見たどの魔法陣とも違っていた。


まるで――


“外”と繋がるための、鍵穴のような。


そして次の瞬間。


――カチリ。


確かに、何かが噛み合った音がした。


「……起動条件、満たしたみたいだな」


エンキドの声が、やけに低い。


棺は、まだ開かない。


だが確実に――


目覚めかけている。


遺跡深部で起きた異常起動は、


まだ誰も知らない“問題”の、ほんの入口に過ぎなかった。

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