第28話 戦闘突入

第28話:戦闘突入


遺跡の奥で低く響いた起動音が、空気を一変させた。


床に刻まれた紋様が赤く灯り、影の中から人型の魔導兵が姿を現す。


三体。


いや、その奥にも反応がある。


「来るわね」


セレナが槍を構え、呼吸を落とす。


「連携型だ。前衛が圧をかけて、後ろが拘束役だ」


ウルガも距離を測りながら前に出た。


一方その後ろで、エンキドは妙に落ち着いている。


「おお、動いた動いた。


やっぱ遺跡はこうでなくちゃな」


軽口とは裏腹に、魔導兵の一体が床を滑るように突進する。


セレナが迎撃し、金属音が弾けた。


同時に別方向から、鎖状の魔力がウルガの足元へ伸びる。




「っ――!」


回避が遅れる。


そう判断した瞬間。


「はいはい、見りゃいいんだろ」


エンキドが指先を軽く鳴らした。


「《深淵を覗く者(アカーシャルコール)》」


彼の瞳から感情が薄れ、世界を“読む”視線に変わる。


魔導兵の構造、魔力循環、行動順序。


すべてが一瞬で整理された。


「右は囮、左が拘束。


中央の胸部に制御核――あれ壊せば終わりだ」


言い切ると同時に、エンキドは一歩下がる。


それ以上は手を出さない。


「今の……」


ウルガが驚いたように息を呑む。


「万能じゃねぇよ」


エンキドは肩をすくめた。


「見えるのは、この世界の理の中だけだ。


それでも――今の敵なら十分だろ?」


その一言で、ウルガは覚悟を決めた。


「行くぞ……!」


ウルガはスキルを呼び出す。


「来い――


《我儘な玩具箱(トゥテソロ)》」


空間が歪み、亜空間がわずかに開く。




選ぶのは――一点だけ。


現れたのは、黒鉄色の重厚な靴。


履くだけで地面が近く感じられる、異様な存在感。


神具


《ヴィーザルの靴》


北欧神話に語られる沈黙の神ヴィーザル。


終末の戦いで巨狼フェンリルの下顎を踏み砕いたとされる、鉄の靴。


装着者に一時的な超脚力と身体強化を与えるが、


魔力消費は重く、長時間の使用は不可能。


「……短時間で決める」


靴を履いた瞬間、脚に雷のような力が走った。


ウルガは地を蹴る。


床が砕け、距離が消える。


鎖状の魔力を踏み越え、拘束役の魔導兵へ一気に肉薄。


一撃。


蹴りが胸部を貫き、制御核が砕け散った。


「核は中央、奥!」


セレナが即座に反応する。


槍が閃き、残る魔導兵の動きを断ち切る。


ウルガの追撃が重なり、最後の制御核が砕けた。


魔導兵たちは音もなく崩れ落ちる。


静寂。


赤い紋様が消え、遺跡は再び眠りについた。


ウルガは靴を見下ろし、亜空間へと戻す。


力が抜け、脚がわずかに震えた。


「……助言、助かりました」


セレナがエンキドを見る。


「勘違いすんな」


エンキドは軽く手を振った。


「選んで、決めて、踏み込んだのはお前らだ。


俺は覗いただけ」


ウルガは拳を握り締める。


確かな手応えは残っている。




――それでも。


遺跡のさらに奥で、


まだ起動していない“何か”が存在することを。


エンキドだけが、言葉にせず察していた。



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