『我儘な玩具箱(トゥテソロ)と少年ハンター 〜才能ゼロと鑑定された俺が、代償を払って神具を使いこなすまで〜』

フジサン・デス

エピローグ ――ハンター時代、その影に名は刻まれず――

王都中央、


ハンターギルド本部。


重厚な会議室に、


沈黙が落ちていた。


長机の中央に置かれたのは、


一枚の報告書。


内容は簡素だ。


・S級迷宮【灰哭の深層】踏破


・同行ハンター 生存率100%


・周辺被害 ゼロ


達成者の欄に記された名は、


一つだけ。


ウルガ・ウトナビス


階級:未登録


所属:なし


ブラック級判定――保留


「……三度目だな」


ギルドマスターが、


低く呟く。


「正式な昇格条件は、すでに満たしている」 「それでも“保留”とは、どういう判断だ?」


向かいに座る幹部の一人が、


苦々しく答えた。


「記録が残らないのです」 「武器も、魔法も、決定的証拠が一切ない」


「だが結果だけは、常に最善だ」


「……ええ」 「まるで――“必要なものだけが、その場に現れた”かのように」


会議室の空気が、


わずかに張り詰める。


同時刻。


王都外れの酒場では、


別の噂が囁かれていた。


「聞いたか?


 また“黒の冒険者”が出たらしい」


「黒? 服装の話か?」


「違う。


 階級の色だ」


声を潜める。


「武器を持たずに迷宮へ入った」 「だが仲間は全員、生きて帰った」


「……ありえない」


「だろ?」 「だから名前も残らない」


誰もが笑い、


誰もがどこか本気だった。


この時代、


英雄は珍しくない。


だが――


説明できない成功だけは、


人の心に爪痕を残す。


その夜。


王都の簡素な宿。


窓辺に立つ男が、


静かに夜景を見下ろしていた。


黒髪。


派手さのない装備。


だが、その背には


長い年月の“積み重ね”がある。


「……噂ばかりが先に行くな」


ウルガ・ウトナビスは、


小さく息を吐いた。


英雄になりたいわけじゃない。


名を残したいわけでもない。


ただ――


仲間と生きて帰りたいだけだ。


彼は、


意識の奥に触れる。


そこには、


誰にも見えず、


誰にも知られない――


**我儘な玩具箱トゥテソロ**との繋がりがある。


だが、今は呼ばない。


必要な時だけでいい。


「……玩具は、


 使う側が成長しないと意味がない」


誰に言うでもなく、


そう呟く。


世界は今、


ハンター時代の最高潮にある。


迷宮は増え、


魔獣は強くなり、


人はさらなる力を求める。


だが世界は、


まだ知らない。


その“頂点”が、


すでに――


静かに、歩いていることを。


名も、称号も、


記録さえ残さずに。


ただ一人、


仲間の背中を守りながら。

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