第12話 四十四位は、怪物になる
シムラは、ずっと耐えていた。
ランキング25位。
上位と呼ばれる位置。
スポンサーもいる。
観客もいる。
拍手も、金も、ある。
それでも――
ムライが、邪魔だった。
四十四位。
中途半端な順位に居座り、
気分次第で喧嘩を壊す男。
正面からやれば、
勝てない。
それは、
ランキング参加者なら全員知っている。
だから、
シムラは選んだ。
闇討ち。
夜。
人気のない河川敷。
ムライは、
一人だった。
いつも通りだ。
油断しているわけじゃない。
ただ、
警戒する理由がない。
シムラの能力は、
《分断》。
視界と音を、
一瞬だけ切り離す。
発動は、
ほんの二秒。
その二秒で、
喉を狙う。
――成功。
刃が、
ムライの首元を裂いた。
血が飛ぶ。
ムライが、
膝をつく。
初めて見る光景だった。
「……やった」
シムラの声が、
震える。
勝てる。
初めて、
そう思えた。
追撃。
腹。
肩。
膝。
ムライは、
反撃しない。
いや――
出来ない。
視界が、
戻った時。
ムライは、
地面に倒れていた。
呼吸が、
浅い。
血が、
止まらない。
シムラは、
一歩下がった。
「……終わりだ」
その瞬間。
ムライの指が、
動いた。
――掴まれた。
足首。
あり得ない力。
「……?」
ムライの目が、
開く。
焦点が、
合っていない。
でも、
殺意だけがある。
――能力発動。
ムライ自身も、
知らなかった。
初めての感覚。
痛みが、
消える。
思考が、
切れる。
世界が、
赤くなる。
《バーサーカーモード》
死の寸前でのみ、
発動する暴走。
理性なし。
恐怖なし。
ただ、
殴る。
ムライが、
立ち上がる。
シムラは、
後ずさった。
「ま、待て……!」
言葉は、
届かない。
ムライの拳が、
顔面に入る。
音が、
潰れる。
二発。
三発。
能力も、
技も、
関係ない。
ただ、
質量と速度。
シムラは、
倒れた。
それでも、
ムライは止まらない。
胸。
腹。
顔。
確認のための殴打。
骨が折れる音。
内臓が潰れる感触。
最後は、
何度目か分からない拳。
頭部が、
地面に叩きつけられた。
動かない。
完全な、
沈黙。
――死亡。
しばらくして。
ムライは、
その場に座り込んだ。
能力が、
切れる。
痛みが、
一気に戻る。
吐いた。
血と、
胃液と、
現実。
「……ああ」
自分の手を見る。
震えている。
笑う。
「やっちまった」
ランキング通知が、
鳴る。
《25位・シムラ
死亡確認》
《ムライ
順位変動なし》
ムライは、
スマホを投げた。
息を整えながら、
立ち上がる。
「……だから、
嫌なんだ」
能力。
制度。
殺し合い。
四十四位で、
止まっていた理由。
それは――
これ以上、
向こう側に行きたくなかったからだ。
だが、
もう遅い。
ムライは知った。
自分は、
追い詰められれば、
怪物になる。
そして――
それを、
止められる人間が、
この世界に、
存在するかどうか。
ムライは、
初めて考えた。
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