第2話 桃と緑
「すみません、私も桃もいきなりトップスピードを出しちゃいました。黒也くんにはちょっと過激すぎました」
あの後、僕が少しだけお説教じみたことを二人に言ったら、緑も桃もリビングに入るや否や平謝り。いや、いきなりお風呂だとか、トップスピードどこじゃないんですけど。もし僕の心にオービスがあったら、画像撮りまくって速攻で免取り食らわせるし。
僕はもうこのような状況に慣れてきちゃったからまだいいけどね。他の人にそんなこと言ったら卒倒しちゃうと思うけど。
いや。意外と皆んな喜びまくるのかな?
「ま、まあ確かにそうだけど。でも、別にそこまでしなくても……」
『そこまで』というのは、現在進行形で二人が土下座を決め込んできたから。まあ、ちゃんと反省してるなら良しとしよう。
「クロちゃんには、まず段階を踏んでいくようにします。なので、今日は下着姿を見せるだけにしますので。なにとぞお許しください」
桃がそう言ってきて緑もうんうんと頷いている。前言撤回。コイツら全く反省してないじゃん。
しかし、下着姿ねえ。桃のそれはきっと小学生のそれと変わらないだろうから興奮なんてするわけもなく。とか言ったら、今度こそ桃にブチギレられそうだから言葉にはしないけど。
緑は――あんまり言及したくないなあ。だってこいつ、デカいんだもん。マジで。さっきは『頭から無理やり湯船に突っ込まれる』とか言って誤魔化したけど、見たら見たで、きっと僕は興ふゴホンゴホン。なんでもないです、はい。
「でもさあ。どうして緑も桃も最近ずっとこんな感じなの? 高校生になるまでこんなこと全然なかったじゃん。何かあったの?」
その質問に、緑と桃が何かを確認するように顔を見合わせた。そしてこくりと頷き合う。
そして――
「「禁則事項です」」
声を合わせてさんはいって感じでそんなことを言ってきたけど、禁則事項って。お前達はあれか。あの某小説に登場してくる巨乳の未来人か。
「あのさ。ちょっと質問いいかな?」
「うん。どうしたのクロちゃん? あ、分かった! 私のスリーサイズでしょ! えへへー、照れちゃうなあ。いやあ、やっぱりクロちゃんも興味待っちゃうよねえ。なんせ桃ちゃんはナイスバディなので」
うん。それに関しては無言を貫こう。お前がナイスバディだったら、世の女性達は皆んなそれに当てはまると思うんだ。世の中のバランスが崩れるからやめなさい。
「いや、僕が知りたいのはさ。学校では二人とも割と真面目だし、僕にも普通に接してくるのに。なのにどうして放課後やらになると急変しちゃうわけ?」
唖然としてポカーンと口を開けたままの桃である。
「え? 何その質問。いい、クロちゃん? 学校はね、学びの場なの。だから勉学に勤しまなきゃ駄目なの。それに、学校でこんなことしてたら皆んなドン引きするに決まってるじゃん? もしかしてクロちゃんってバカなの?」
「バカはお前だ! 勉学に勤しむってなんだよ! 高校に入ってからお前、赤点以外取ったことないだろ!」
すると桃はムーッと膨れっ面。
「赤点は仕方がないじゃん! 勉学に勤しんでるって言ってるでしょ! だから赤点は仕方がないの!」
「え? ちょ、ちょっと待って。とんでもなく矛盾してるんだけど、どういうこと? 勉学に勤しんでたら、まず赤点は取らないと思うんだけど」
「絵! 絵のお勉強をしてるの桃ちゃんは! 授業中はノートに絵を描いてるの! 絵についての勉学に勤しんでるの!」
僕、閉口。まさかここまでとは……。絶対にコイツ、絵というより授業の暇つぶしに落書きしてるだけに決まってる。
「あははっ! 桃にはそれがお似合いよ。せいぜい絵のお勉強を頑張って、これからも赤点取り続けて留年でもしなさい。あ、黒也? 私の方はめちゃくちゃテストの成績良いし、はっきり言って優等生だから心配しないでいいからね」
あーあ。緑がまた桃のことを挑発しちゃったよ。また言い合いが始まるのか。と、思ったんだけど、桃が堪えてる。唇を噛み締めて血の涙を流しながら。怖いよ!!
けど、おかげで次に緑の話を聞けそうだから良かった。桃よりはしっかりと話を聞いて、それから分かりやすい返事をくれそうだし。
「じゃあ、緑。理由を教えてくれないか? 学校では普通なのに放課後だとか休みの日だとかになると、なんでこうなっちゃうの?」
予想外の反応だった。
緑は顔を赤色に染め、つと下に視線を落としながら指遊びを始めたから。
「えっと……べ、別に理由なんかないわよ。というか、学校でさっきみたいなことをしたら、変な人だって思われちゃうじゃん」
あ、ちゃんとそこは理解してるんだ。
「そ、それよりも黒也。本当に理由に気付いてないわけ?」
「……は? どうして僕が逆質問を受けてるの? 分からないから教えてもらいたいのに。だってさ。僕は前と全く変わってないし」
なんとなく投げかけた質問だった。でも、それを聞いて緑は小さく呟いた。僕に聞こえないように。だけど、本当は聞こえてほしいかのように。
変わらないから困るのよ――と。
なんとなく察した。何故なら幼馴染だから。それこそ長い付き合いなんだ、僕と緑と桃は。だからこそ、察することができたし、気付くこともできた。
でも、それは口にはしない。
もう少しだけ、自分の頭の中を整理していこう。二人の言葉を噛み砕き、咀嚼して、そして最適解を見つけるために。
「分かった。ありがとう緑。とりあえず、僕はこれで帰ることにするよ。それからまた、機会を作って話を聞かせ――」
「桃! 施錠!!」
「合点承知!」
緑の言葉を聞いて、桃は素早くリビングのドアに鍵をかけた。南京錠で。何なんだよこの用意周到な流れは!
「ちょっ! ちょっと待て二人とも! お前達、これから僕に何をしようとしてるのさ!」
緑はニヤニヤしながら、さも嬉しそうにして「さーて、なんでしょうねえ」と不穏なセリフを返してきた。コイツ絶対にアレだろ。女王様タイプだろ。『私の足をお舐めなさい』とか言ったりするんだろう。で、ちょっとそんな緑の姿を想像してみたけど、似合いすぎだった。将来就く職業決まったな。
というかさ。緑も桃も、こういう時だけ結託するなっていうの。
早く僕を自宅に帰してくれよ!!
『第2話 緑と桃と』
終わり
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