02.赤撃

 機動戦の敗因は二つ。

 敵を見失うか、動きを止めるか。

 その瞬間、一方的かつ防御不能の攻撃を受け、負ける。


 逆に言えば、勝利するために必要なことは明白だ。

 動き続け、敵を認識し続ける。

 そして敵がこちらを見失うか、動きを止めた瞬間に渾身の一撃を撃ち込めば良い。



 奴らの知覚方法は、魔力による反射定位エコーロケーション。簡単に言うと、体表から魔力を発することで外部の状況を把握している。

 たとえばヴィスカムの眼窩は見た目通りの樹洞うろだ。鳥類の外見を真似たもので、そこに動物のような視覚機能はない。

 だが、飾りでもない。魔力の反響を増幅するその空洞構造が、奴らの主要な感覚野であることは確かだ。


 だから挨拶代わり、通りすがりに頭を狙って炎を撒いて、まずそこを眩ませる。


(イレギュラーあったら、)

(すぐ伝えるよ)

(頼む)


 短くレミアと思考を交わし、俺は翅の出力を調整しながら、速度を殺さず旋回。

 あちらもアルギアへ眼を向ける。だがその武器、剣のように鋭い嘴は、まだこちらには向き切っていない。


 ヴィスカムの動作もやはり基本的には魔力によるもので、羽ばたくような動作も動物の模倣に過ぎない――だが眼窩と同じく、まったくの飾りでもない。

 人体の歩行を司るのは足だが、同時に腕を振れば、より効率よく前進できる。

 それと同じだ。たとえ魔力による動作が主であっても、羽ばたきを始めとした予備動作に注視すれば、奴がどのように動こうとしているかは予測できる。

(時計回り、右の翼から牽制来る!)


 潜り込むような軌道で敵へ接近する。直前まで俺がいた空間を、鋭く硬質な光が貫いた。

 シュライク級特有の攻撃だ。硬化した翼の一部を、投げ矢のように飛ばしてくる。予備動作も少ない、嫌な射撃攻撃。

 だが。


「見切れてればな!」


 左腕のスティンガーを振るう。翼の硬質部に弾かれる。

 だがその翼も弾かれて、奴は胴を守ることができない。そこは硬質化されていない、シュライク級の弱点の一つだ。

(まず一発)

 逆腕の針を立て続けに突き出す。敵は羽ばたきながら退いたが、それを読んでの突きだ。針は胴部を掠め、直線の傷をつける。

(浅いが!)

 次の瞬間、傷から碧色の炎が噴き上がる。


 クロウ級ならばそれだけで殺せるこの炎を生み出すのは、熱し印ヒートサインという魔術の一種。

 針が着けた傷は呪いの刻印となり、それが残っている効果時間中は、煌星プラズマ級の熱量を生み出し続ける。

 これだけの熱量であれば、ヴィスカムの強力な再生能力を凌駕できる。だからクロウ級は軽く触れるだけで殺せるし、大型の相手であっても、かすり傷からダメージを蓄積させられる。


 極端な話をすれば、アルギアの腕で引っ掻き続けていれば、目の前のこいつだっていずれは落とすことができる。

 おそらく百は行かない程度の攻撃回数で。


(だが、そんなまどろっこしい手はナシだ)

 時間がかかりすぎる。不都合だ。

 アルギアならば、もっと冴えた手がある。



 そこから十度近い交錯、接近戦があった。

 敵の身体には大小の熱し印が刻まれ、至るところから碧の炎が上がっている。

 一方で最初に与えた傷は既に塞がっている。ヴィスカムの再生能力の前では、アルギアの炎すら絶対ではない。


 ただし、俺の方も無傷では済んでいない。

 予備装甲は四分の一ほどが落ちた。その下の昀鏻鉱シャルティタン装甲にも掠めたかもしれない。

 鉄製の予備装甲とは異なり、昀鏻鉱装甲は現代技術では修復不能だ。わずかな傷も、今後全ての戦闘に対する負債となる。


 頃合いだろう。



(仕掛ける)

(がんばれ)


 レミアの声――本当は思考なのだが、ほぼ声だ。ともかくそれを受け、俺は直線に加速する。


 今までは浅くとも傷を与えつつ、こちらは反撃を受けないよう立ち回っていた。

 今度は違う。反撃を受けないようにすることを、考えない。


 ここで必ず仕留めるからだ。



 傷ついたシュライク級がこちらを見た。

 こちらの攻撃を弾いた後に反撃するべく、片翼で胴を守り、片翼を振り上げ構えている。

 鳥の姿を持ちながら、到底鳥の取るものではない動き。


「見飽きたぜ」


 奴は、目の前のアルギアが先程までより速度を上げて、回避を考えない動きをしていることに気付いているだろうか?

 いいや、気付かない。ヴィスカムにそれほどの知性はなく、コミュニケーション能力も低いことが確認されいる。

 だから決められる。もはや十八番の必殺機動マニューバ



 左の針で、守りを固めた翼を払う。

 同時に、右半身を潜り込ませる。このままでは、相手の翼による反撃をまともに受けるが。


アルギアの方が……速い!)


 右の針が、奴の胴に入った熱し印ヒートサインをまっすぐに貫く。

 直後、キィ という甲高い音と共に、印から噴き出していた碧い炎が内側へと逆流し――


「じゃあな……!」



   ドオオ――――ォォ――ン!!



 爆裂。

 赤い炎がヴィスカムの内側から八方へ爆ぜ、その堅強なる身体を爆散させる。

 こちらを攻撃するべく振り上げられていた翼も折れ飛ぶ。爆風に乗るようにして、アルギアも距離を取った。



 赤撃インパクトと呼ばれている。

 熱し印に針を突き刺すことで、針から放出する魔力と、熱し印に残存する魔力を圧縮し、内部から一息に爆発させる技。

 大型の敵を相手にするなら、こいつを安定して決められることが重要だ。



「フゥー……」


 ひと仕事終えた充足感に力を抜き、俺はシートに背を預けた。


「レミア、敵残りどれくらいだ?」

「殲滅型が3。偵察型はそこそこ。漏れなく捕捉してるよ」

「っし、じゃあさっさと片付けて……」

「うん」


 翅を広げ、探知できた残敵の元へ。すれ違いざまに、向かってきたクロウ級を掻き燃やしてやりながら。


「本隊に合流して、もうひと仕事しなきゃね」

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