#3 赤く染まる部屋
「……よくも、私の楽園を」
静の声が低く響いた。
彼女はテーブルの上のステーキナイフを掴むと、梨花を睨みつけた。
「泥棒猫が。……湊くんは私のものです。指一本触れさせません」
彼女の目には、部屋の汚れなど映っていなかった。
ただ、自分の所有物を奪おうとする侵入者への、明確な殺意だけがあった。
「返せよぉぉぉぉッ!!」
「消えなさいッ!」
二つの影が交差した。
ドゴォッ! という鈍い音と、ザシュッという肉が裂ける音が同時に響く。
鮮血が舞った。
俺の目の前で、愛してくれた二人の少女が殺し合っている。
現実感がなかった。悪夢なら早く覚めてくれと願った。
「が、はっ……」
梨花がよろめく。
彼女の腹部には、銀色のナイフが深々と突き刺さっていた。
けれど、彼女は倒れない。最後の力を振り絞り、静の髪を掴んで引き寄せると――その首元に噛み付いた。
「きゃあぁぁぁぁぁッ!?」
静の悲鳴が上がる。
もはや人間ではない。獣の喧嘩だった。
俺は動けなかった。
止めなければいけないのに、恐怖で足がすくんで一歩も動けない。
腰が抜け、喉がヒューヒューと鳴るだけで、声さえ出ない。
やがて。
ドサリ、と重い音がして、二人は折り重なるように倒れ込んだ。
静寂が戻ってきた。
俺が望んだ静けさだ。でも、それは死の静寂だった。
「……み、なと……くん……」
血まみれの梨花が、床を這って俺の方へ手を伸ばした。
「いっ、しょ……に……かえ、ろ……」
その指先が、俺の靴に触れる直前で力尽きる。
彼女の瞳から光が消え、ただの物体へと変わっていく。
「はぁ、はぁ……」
静もまた、壁にもたれかかり、胸を押さえて荒い息を吐いていた。
白いブラウスは真っ赤に染まっている。
「……守り、ましたよ……」
彼女はうわごとのように呟き、血濡れの手で俺の頬に触れようとした。
「これで……ずっと……一緒……」
その手もまた、俺に届くことなく力なく垂れ下がった。
ウゥゥゥゥゥ……
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
赤色灯の光が、カーテンの隙間から部屋の中を照らし出す。
「う、うぷっ……」
強烈な血の臭いに、俺は胃の中身をぶちまけた。
涙と鼻水が止まらない。
ガチガチと歯が鳴る。
俺が逃げなければ。
俺があの時、鍵を開けていれば。
いや、そもそも三ヶ月前のあの日、雨の中で彼女の手を離さなければ。
「あ、あああ……あぁぁぁぁぁッ!!!!」
俺は頭を抱え、誰もいない部屋で獣のように絶叫した。
その叫び声すらも、冷たい雨音にかき消されていく。
テーブルの上には、手つかずのハンバーグが、冷たい塊となって残されているだけだった。
(IFルート:雨音は赤く、静寂を塗り潰して。完)
「別れても友達でいようね」と言った元カノが、毎晩僕の部屋に合鍵で侵入してくる。今カノが包丁を研いで待っているとも知らずに こん @konn366
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