火曜 生きる理由

「本当にありがとうございました、返し忘れてごめんなさい! これ、昨日のパーカーです」

「あ、忘れてた。ありがとうハナさん。風邪ひかなくてよかった」

 昨日と同じ時間、同じ場所、少しずつ散っていく桜。

 謙一郎くんは紙袋に入ったパーカーを受け取り右手に持ち、橋の策に肘をかけた。今日は黒のトレーナーとズボンを着ており、彼も昨日寒かったのかなと思ってしまった。


 会社を一日で辞めながらもすぐに働こうとして、一昨日まで見ず知らずだった私に優しくしてくれて。

 最初チャラかったのにもきっと理由はありそう。

 行動力があるこの人間に、少し聞いてみたくなってしまった。



「あの」

「ん?」

「謙一郎くんは、死にたいと思ったことないんですか?」

「え、ないよ?」

 そんなあっさりと!

「むしろ俺はハナさんのような、エルフが羨ましいと感じるよ」

「え?」

 人間の一・五倍の長命なんていいことないのに。この三十数年ですら苦しすぎるのに。

「だって長生きしたほうが、多くの出会いがある。勿論傷つくこともあるし、大変なことだってある。でも傷ついた分だけ、誰かに優しくできると思うんだよね。多くの人に出会いたいから、俺は長生きしたいって思う」

 なるほど……。

「全然分かんないな」

「まあ、そういうものでしょ」

 呟きが聞こえてた!?

「生きてたい側って、死にたい側の気持ちは分からない。それと同じく、死にたい側は生きてたい側の気持ちは分からない。でも俺とハナさんは、違う一生を生きる生物。だから分からなくても、否定していないからいいんじゃないかな」

 せ、正論すぎる!

 本来ならこちらが言う台詞なんだろうけれど、私より若い方に諭されるなんて……。


「なんか、情けなくなっちゃいますね。年上の威厳がないです」

 精一杯の作り笑いをしてみる。会社でなんか絶対できないことだけれど。

「ハナさん。そんなこと気にしなくていーいの」

 え?

「俺は俺、ハナさんはハナさん。だから、安心して?」

 そう言って、謙一郎くんは笑った。

 桜吹雪とともに、心の霧が少しだけ消えた気がした。


「あ、あの!」

「ん?」

 会いたくなったのは、私だけかもしれないけれど。

「明日の同じ時間、またこうして会ってくれますか?」

 かなり緊張する……!

「言われなくても。また明日ここでね。おやすみハナさん」


 よかった、明日も会える!

「はい! おやすみなさい、謙一郎くん」

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