日曜 散り始めの桜を見ながら死ねたらいいのに

「あっれぇ、君一人? 良かったら俺と一緒に出掛けな~い?」

 なんだこの男。

「お断りします」

 マッシュヘア、太めのネックレス、肘より少し下までの袖の白ティーシャツ、ゆったりめの黒ズボンに黒のスニーカー。

 靴はさておき、それ以外の部分! 良く言えば最近のおしゃれ、本音を言えばチャラそう。絶対「どしたん話聞こか?」とか言ってそう! 偏見はよくないけれど、こういう男からはすぐに逃げなければ。

「まあまあ、待ってよ。別に食いやしないよ」

 引き留められたが、なんかこう言われるのもキモイな。

「日曜の二十二時にここにいるってことは、何かあったんだよね? 話聞くよ?」

 ──確かにそうだ。桜の名所兼自殺の名所、大池湖の小橋。アクセスが良くて観光にも良い反面、水深がかなりあるせいで、多くの人がここで自ら命を落としている。

 まあいいや最後くらい。どうせ死にたい気持ちだったし。

「実は──」


 そうして、名前も知らない若い男に話した。

 会社で上司の仕事を押し付けられていること。パワハラセクハラから守れなかった部下はすぐ辞めていったこと。新入社員も既に何人か飛んでいること。私は過去にメンタルを崩したことで休んだ時期もあった一方、同期は順調に仕事をしていること。

 プライベートも上手くいかず、「エルフ」というだけで美人だと思われ、なんか違うと言われること。気晴らしに何かを買おうとも、何もかも高くなっていて気楽に買えないこと。

 大きな悩みから小さな悩みまで、男に話しつくした。まあ、分かってくれるかは別だけれど。


***

「ううーん……。なんか難しいね。俺にはあんまわかんないな」

 ほら見ろ。こいつに話した私が悪かった。

「でもお姉さんが頑張ってるってことは、俺には伝わってきたんで。なんかこう、まじめに生きてることにリスペクトって感じ」

 案外、悪い人じゃないのかも?

 見た目で判断するのは良くなかったな。

「ごめんなさい。見た目で決めつけて、最初のほう、逃げようとして」

 男に向かって頭を下げた。

「いやいや、頭を上げて!」

 え……? 驚きながらも、頭を上げた。 

「俺も君が、お姉さんがこんな思い抱えてるとは思わず、変な感じで声かけちゃって。ごめんね」

 なんか、優しいな。

「会社入ってすぐバックレた俺とは違う。だから、お姉さんはすごいよ。たくさん働いて」


 ん……? 今なんと?

「え、あの、いったい会社いつ辞めて──」

「ああ、ちょうど一週間くらいになるのか。入社式の日、午後にバックレた」

「ちょっと、さすがに少しは働きなさいよ! 明日ここでこの時間、待ってるから! バイト探しなさい!」

「ええ、だるいって……。まあいっか。また明日ね、お姉さん」

 そうして名前も知らない彼は手を振り、街灯のある方面とは反対に歩いて行った。

 さて、私も帰らなきゃ。


 あれ? なんで私、知らない相手に世話を焼こうとしているの?

 まあ、気にしても無駄か。

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